ええ。小心者ですから・・・。

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悠遠夜話・番外編


悠遠夜話・番外編~西園寺さんの初恋~その5

2010.06.13  *Edit 
▽TB[0]▽CO[0]


「・・せがれは・・・郁は・・一体どうしたと言うのだ・・・」

むーん・・と腕組みをして呻りながら紅の名将は首を盛大に捻っていた
 
玉が散りばめられた座から半分腰を浮かし、向こうに気が付かれないようにして
中腰のまま、窓の向こうの丘の上の東屋をこっそりと 探る様にして覗く
その瞳は不安に揺れ ただひたすらにわが子を案ずる親の眼だ。 

「日がな一日ああやって 東屋で一人物思いにふけっておる。
書物を読んでいるのかと思えばそうでもない。たまにため息をついたと思ったら、
ぼんやり遠くを見やって・・・人間界に行ってから酷く様子がおかしいではないか・・・。」

誇り高き紅炎の一族の偉大な長である前に やはり一人の父親であったのだと
年老いた家令は安堵の微笑みを口許にし、直ぐにまた口端に力を込めて
神妙な表情を務めて作る。
数歩前に歩み出て 軽く辞儀をすると重々しい口調で主に訴えたのだ。

「大君に申し上げまする。若は・・・ご病気でございます。」

「何??」

張り付いていた窓枠からものすごい勢いで 家令を振り返った長は
息子の状態を一番側にいて見ているであろう家令に
襲いかかる様な勢いで詰めよって来た。

「それはいかん!!今すぐに治癒を!!」

他の者ならば顔面を蒼白にして 逃げ出してしまいそうな
その迫力に年老いた家令は 別段表情を変えもせず、
白くてモコモコした髭を撫でまわしている

一族の長は大層取り乱した様子で
一大事ではないか――――!!と小さな年寄りの胸倉をむんずと掴み
お構いなしに身体をゆさゆさと振り子のように振りながら、
薬師を呼べ~ とか殿医はどこだあああ? と叫び始めた。

大君・・・怖れながら・・とブンブンと大きく揺さぶられ
長いひげを千々に乱れさせながらも 
家令は落ち着き払った声で主にうやうやしく注進するのだ

「若のご病気は 天空の宮の桃園の桃でも効きませぬ・・・」

「な・なぁ~にぃ~??」

あの万病に効く天空の宮の桃さえも直す事が出来ない病に 
自分のたった一人の大切な息子の身体が蝕まれている??
何と言う・・・何という事だ・・・・
ぶつぶつと言いながら
家令をぽいっと放りだして がっくりと力無く両ひざを床に落としてしまった。
誇り高き一族の威厳溢れる風体はどこへやら
我が子の病状を慮って 悲嘆にくれるただの父親が此処に一人出来あがる

一体どうすればよいのだ??ぬしは・・何か知っておるのか??
と未だ膝を付いたままうな垂れ、縋る様にして自分に助けを乞うてきた長に
家令は もはやすっかりとモコモコの眉に覆われてしまって 
うかがい知ることの出来なくなった眼を!!きゅぴーん!!と光らせると 
そっと声を潜めて耳打ちを要求して来た。

「では・・大君・・・お約束を・・・」

ふむふむと・・・・
途中青くなったり、赤くなったり、震えたりして
年老いた常に信頼を置く家令の話を全て聞き終えた長は 
なぜか大変疲れた様子で ゆっくりと立ち上がると
一段高くなっている高座の煌びやかな椅子へ崩れる様にして座りなおした。

「――――。はあ・・・。」

頬杖をつきながら 
一つ溜息を付く様は 東屋で物思いにふける秀麗な若者に確かに良く似ていて。

眼を閉じてほんの少しだけ考えを巡らせる 
その思慮深い翠色が開く頃には すでに心は固まったのか  
神妙な面持ちで主の答えを待つ家令へと 
朗々とした声で迷う事無く伝えられたのだった

「・・判った。ぬしの好きにするが良い。許す・・・」
「!!」

それは ありがたき事・・・と深々と拝を取り 一旦衣を直してから
後ろへ擦り足のまま優雅に下がって行く
部屋の扉が完全に閉じられるその瞬間 座に腰掛けたままの長が
扉の隙間に消えていく家令へふと声をかけた

「じい・・・たばかったな?」

「さて。何のことやらさっぱり・・・。」

家令の顔は隠されていて さっぱりどんな表情をしているのか判らない
だがしかし この年寄りはきっと上手く事を運ぶんだろう
今までが万事そうだったように。
朱雀の長はにやりと不敵に笑ってから一つ顎をしゃくって 家令を見送った

煌びやかに飾られた高座に着いたまま さっきの家令の話を思い出す。
窓の向こう東屋の中で まだぼんやりと頬杖をついたまま
遠くを見つめる息子の ほんの少しの変化に思いをはせる。

「忙しくなるな・・・」

ふふ・・。と
そう誰に言うともなしに 小さく小さく笑うと
侍女を呼び 書簡をしたためる為の用意を急いでさせた。




あれから そう何日も経ったわけではない
滞在していた時間だって ほんの数日だ

人間界に居た時に感じていた精神と身体の不調も別に 気にならない。
だがしかし 人間界に出かける前 あれだけ打ちこんでいた勉学に全く身が入らない。
勉学だけではない、全ての事に対してあからさまに
自覚できる程 自分はうわの空だ。

何かおかしい。
酷く思考が鈍って いま自分に起こっている状況が分析できない。

人間界から帰ってからすぐに、長と家令にはこっぴどく説教を喰らった
いつもなら つい短気を起こして派手にやり合ってしまうのに
今回ばかりは何故だか そんな気になれなかった。

反論もせず素直にうな垂れてじっと説教を聞いている、
そんな自分の態度に 父は酷く違和感を感じている様子だったのを覚えている。

この自分でも訳がわからない状況は 大変気分の悪いものであったから
どうにか事態の打開を図りたかったが、
原因が不明なので対処の仕方が見つからないのだ

仙界に戻って力も自在に使えたから、帰って早々に治癒の術を試みたが 
さっぱり効く様子が無い。

実に・・不愉快だ・・・

イライラとして頭痛がしたかと思ったら、
今度は酷く悲しい気持ちになる。
心が高揚したり 沈んだりの繰り返し

・・・啓太。

不思議な事にこの名前を口にする時だけ 心が凪いで甘やかな安らぎが訪れる
でもそれは一瞬だけで、次には心臓が握りつぶされる程に苦しくなるのだ

・・・啓太。・・・・啓太。
・・・・啓太!!

苦しみから解き放ってくれる この甘美な呪文を幾度も繰り返す
何故だろう。今までこんなに一つの事に己が心を囚われる事があっただろうか
 
幼いころから 何不自由する事なく育った
欲しいと思ったものは 何でも与えられた
ある程度年を経てからは 自分の持つ頭脳と力で我が物とした

望めば全てがすぐに手に入ったのだから 
執着する感情など持ち合わせてはいない

「執着?この私が?」

確認するように 小さくひとつ呟いて見る
ふわふわと桃の香りのする風が頬を撫でていって
塞ぎこんだままの主を心配するように 
優しく木々を揺らし緑の中にまぶしい漏れ日が降る 

石造りの東屋の作りだす日陰の中に寝そべったまま 
西園寺は屋根の向こうの青い空を見上げた。

青い 青い 空
流れる 白い 雲
隣で笑う 啓太の顔

眼を閉じればこんなにも 鮮明に思い出せるのに
今 自分はたった一人でこの空を見上げている

啓太
啓太
会いたいぞ・・・

はっ と西園寺は突然何かを思い出し、寝乱れた衣も髪もそのままに
がばっとその身を急いで起こすと
東屋の丁度真ん中に作られた 秀逸な細工を施されている水盆へと手を伸ばした
細くてしなやかな手をかざして そっと口の中で言葉を紡ぐ

ゆら・・
と水盆の中の水が外側から内側へ波紋が打って出
やがてその波が静まると 水の作った鏡には
ふわふわの癖っ毛の柔らかそうな茶色の髪が映り込んだ 

「啓太!!」

知らず大声を上げた自分に驚き 西園寺は辺りに誰も居なかっただろうかと
口許を抑えたまま きょろきょろと見渡し らしく無く周りの様子を伺った
幸い、一人の人影も見当たらなかったからほっと安堵して
さっきは気にもせずにいた 乱れた着衣や髪の毛までもそそくさと丁寧に整え始める

そうしてから水盆へと身を乗り出すように改めて座り直し 
翠玉の眼を忙しなく動かして お目当ての人物を探しあてた

啓太・・・。
水に映し出された啓太は あいも変わらず子供たちに囲まれている
どうやら 鬼ごっこをしているようで 小さな子供たちに交じって
元気に走り回っているのだ。

声までは聞こえてこなかったけれど その表情からは楽しげな様子が
充分過ぎるほどに伝わってくる。

・・・啓太
啓太、会いたいぞ
お前はいつも 笑っているんだな

水盆のすぐ側まで 擦りよる様に顔を傾け
甘くとろける様な瞳で 水鏡に映る啓太を見つめながら
自分の中にある啓太の 一つ一つを大切に思い出す

初めて出会った時も、二人で逃げたあのときも
いつでも どんな時も啓太は笑っていた。

・・・そうだ・・・私との別れの朝さえも優しく笑っていたな

啓太。
お前は 私が居なくても楽しそうだな・・・。

・・私は・・・寂しいぞ・・・。
・・・・・本当に・・・・・寂しいぞ。


「・・・若・・」

不意に東屋に掛けられた声にびくりと身を震わせた西園寺は 
大慌てに慌てて 衣が濡れるのも構わずに水盆に手を突っ込んで 
ばしゃばしゃと乱暴にかき混ぜてしまった。

「おやおや・・・良いのですか?」

「何がだ・・別に構わん」

たらたらと手や衣の袖口から滴る水滴を拭いもせずに 
また石造りの長椅子に寝転んでそっぽを向いてしまう。

そんな年若い主の向かい側の席に許しも請わずに そっと腰を下ろすと
どうやらそれが家令の癖なのか、また長いひげを手でひたすらに撫でつけ
特に何をする訳でもなく 何を言うわけでもなくじっとそこに佇んでいる。
沈黙に耐えられなくなって先に口を開いたのは西園寺だった。

「何か用か・・」

こちらを見ないまま 不貞腐れたように吐き出される言葉に
家令は気にすることなく髭を撫でつけたまま 応じた

「若・・臣様を覚えてあらしゃいますかな?」

臣??覚えているも何も・・・
あの大馬鹿者の幼馴染の事は忘れようにも忘れられない。

全く予想もしていなかった問いかけに、西園寺はくるりと身を向き直して
だらしなく寝転んだまま 家令に胡乱な眼を向けた。

「臣がどうした 何故 今、やつの話をする」

眉間に皺をよせ いらついた様子の若者は 
やはり あの高座に威厳溢れる姿で座る一族の長に似ていた

「おやおや・・ほんに 聡明な若様のお言葉とも思えませぬなあ・・・。」

ふぉふぉふぉ・・・と長くて白いひげを揺らしながら 
小さな肩を愉快そうに揺らす。
その様子が何だか酷く勘にさわって 西園寺はとうとう怒りだしてしまった

「じい!何が言いたい!」
「いえいえ・・何も」

尚も髭の向こうで笑う気配を見せる様子に 
むくりと上体をひねって起こし西園寺は臨戦態勢に入る。
不機嫌そうにゆがめられた眉根と口許に怒りがにじみ出ているのが判って
家令はそれはそれは嬉しそうに笑うのだった

「ほほ・・お元気が出たようでございますな?」

そういうと袂のあたりをごそごそとまさぐって 
煌びやかな絢紐にくくられた掌に乗る程の 小さな飾り玉を西園寺の目の前に差し出した。

「これは・・・」

「はい」

どうぞお返しいたします・・と大切に掌に押し抱くようにして
乗せられたそれは 小さいが上等な輝きを持つ
あの日風から落ちた時に無くしてしまった 緑色の飾り玉だった。


ぶわり・・・

と石造りの東屋に風が渦を巻き 桃の花弁のつむじ風が出来あがった

風たちの祝福を一身に受けた 柔らかな髪がさらさらと肩口で浮かび上がり
誰もを魅了する微笑を浮かべたその翠の双玉が 空の一点を見上げる

「行ってくる」

さっきまでの鬱々とした空気など微塵も感じさせずに
実に晴れやかな顔をして 家令を横目で少しだけ見やって西園寺は言う

にこりと笑った家令が次の瞬きをする頃 
そこにあるのはもう木漏れ日が落とす葉の影だけだった


「春ですな~・・・」

ふぉふぉ・・と吐き出す息だけで笑ってまた白くて長いひげを一撫ですると
今はもう何も見えなくなってしまった若い主が駆ける様に 
飛んで行ってしまった山の向こうを 
節くれだった掌で眩しい日差しを遮りながら ちょこんとつま先立ちで見上げた









「若。会いに行かれませ。・・さすれば答えはおのずから・・・」

深く頭を垂れた 年老いた家令の声が何度も回る

会ったなら解る。
全ての謎が解ける。

風に乗って会いに行こう 

啓太 啓太 お前の元へ



西園寺さん、やっぱり寂しくなっちゃいました(=_=)

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