ええ。小心者ですから・・・。

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悠遠夜話・番外編


悠遠夜話・番外編~和希さんの場合~ニ乃巻

2010.07.02  *Edit 
▽TB[0]▽CO[0]

鈴菱和希は怒っていた。
いや 呆れていたと言っても良いのかもしれない
もともと自分の父親は艶福家だったし、天帝という立場上 
後宮を持つ事を許された身だったから 
父親が自分の母以外の女性を愛して妾姫に迎える事など日常だった。

自分の母親も もともと貴族の出だからか、父が迎えた多くの妾姫達に
特に醜く嫉妬する事無く 第一夫人として優雅で穏やかな生活を送っていた。
だから特に何の感情も和希は持っていなかったし、関心も無かった。

だがしかし・・・今回ばかりは違っていた。
父が迎えたのは女性ではなく 男だった。
男が悪いと言っているわけではない。(←そんな設定)
自分より下の 年端もいかない少年だと言う所が引っかかるのだ。

あきっぽい父には珍しく3日と開けず その少年の所へ通い詰めだと
侍女達が陰で言っているのを 和希は忌々しげに聞いていた。
今まではどんな妾姫を迎えても 広く浅く平等に皆を愛していたのに
今度の少年はよほど性技に長けているに違いないとみな口々に噂する。

「まったく・・ついにお稚児趣味か??」

聞いていて 吐き気がしそうだった。
今まで父に抱いていた 畏敬の念も尊敬の念も全てが失われた
残ったのはひどい軽蔑としらけた虚無だけだ

その日から 大層勤勉だった皇太子殿下は変わってしまった

今日も年老いた師達の帝王学の教えの時間を抜け出して 
天空の宮の領地の外れ だれも来ない草原の端の小高い丘にある
気に入りの場所を目指している所だ

そこには朽ちそうな 大きな大きな古木が一本あるきりで 他にはなにも無い
だが殺風景な所だが 
天空の宮の領全てを見渡せる視界が開けた佳い風の通る場所だった。
和希はひとりそこで その古木に寄り掛かり 
書物を繰って時間が過ぎるのを待つのが好きだった。

さわさわ・・と長い草が風をはらんで揺れている
もう少し・・・あともう少し上り切れば目指す場所だ
ここに来れば 一人きりだ
若宮としての自分ではなく ただの和希として過ごす事が出来る
はやくはやく 一人きりになりたかった

「ぷはっ!!」
草に両手足を伸ばし ごろりと横になる
今頃 老師達は慌てふためき わらわらと駆けずり回って
自分を探している所だろうと思えば何となく気持ちが紛れる

本当は何もかも投げ出して 出奔してしまえば良いのだろうが
自分にはその勇気も才覚もありはしない。
それが判っているから 余計に自分が嫌いになった

この先に待っているのは すでに決められた道
その道を戻る事も 逸れる事も自分には一切許されないのだ
天帝の若宮として生まれ落ちた時から 自分に自由など無いに等しい

全てを跪かせる絶対の権力を得る代わりに 孤独と猜疑心にまみれて
ずっと一人きり悠久の年月を生きていかねばならない。

仙界の古の約束事に縛られ 自分の意志で笑う事も出来ずに
幾千の年月を重ねていくのだ

父の様に妾姫を何人も迎え 夜毎 享楽に溺れる事も
権力者のひとつの楽しみなのかもしれなかったが 
はたして自分にはそれができるだろうか?

答えは否
それよりも一人で良い ただ一人で良いから
天帝ではなく ただの鈴菱和希として
自分の傍らに寄り添い 心から愛してくれる人が居たなら
どんなにか 心やすらぐことだろう

そんな自分のささやかな願いも おそらくは
宮中の権謀術数の中にあって 利用され踏みにじられて行くんだろう
妃一人を 寵愛すればそれを利用して 増長する輩も出てくる
後宮は それを防ぐ役割も持たされているのだ


「・・っ・・ふふふ・・はははは」

無性に可笑しくなって 和希は声をたてて笑い出した

なんだ・・一つとして 自分の好きに出来る事はないではないか
何の事はない 自分はただの木偶人形
ただ滞りなく 仙界を統べ 遍く年月を廻してゆければそれでいい
長い長い仙界の歴史の中の 数ある歯車のうちの一つに過ぎないのだ
これが笑わずにいられるだろうか


・・・・かさり

「!!!」
完全に気配を消し去って 自分の背後にここまで近づくなんて
並みの能力の持ち主ではない
・・・油断した

和希は全身を緊張にこわばらせて 背後に忍び寄る気配に息を詰めた

ここ千年 騒乱に無縁だった仙界ではあったが
絶大なる権力を己が手中に収めたい者はいつの時代でも存在するのだ

例え 今上天帝が後継者を 和希一人に早々に決め
仙界中にそれが知れ渡っている後だとしても
若宮の命を狙い 亡き者にしようとする輩も
まったくいないとは言い切れなかった

稀覯(きこう)なる力を宿すものとして 仙界の名だたる老師からも
一目おかれる存在の和希であったとしても 例外ではない
隙を突かれてしまえば ひとたまりも無い事は 
長く続く歴史の中にもよくみられる事だ

若宮が「不慮の事故」で亡くなれば 天帝位の継承が
単に順次繰り上がるだけなのだ

「・・・ちっ」
いつも影の様に自分の護衛を務めている忠臣も
この場所へ来る時ばかりは 自分から離れている
まさか 自分の領地内で奸邪の人物が放った輩に
襲われる事になるとは思いもよらなかった 

今 此処で振り向けば 相手の思惑に乗る事になるだろう
なんとか 間合いを図り すこしばかりの距離を置きたい

かさり・・・
また長い草をかき分ける音がした



――――――――――・・ざんっ
大きく横っ跳びに飛び退り 和希は直ぐ様体勢を立て直し
力を集中させる為 指先一点に念と力を込めた

・・・が鋭い視線を向けた先に佇んでいたのは
和希が思い描いた人物とは 全く異なる容貌をしていた


「???」

「お兄ちゃん だあれ??」

長い草に半ば埋もれる様にして そこには澄んだ空色の瞳をもつ
小さな少年が一人きり 全く気の抜けた顔で立っていたのだ

天空の宮の領地にあって 今上天帝若宮であるこの自分の顔を知らないとは
・・・・よそ者か?
昼夜問わず 仙界中の仙人が多く出入りするこの天空の宮だ
中には家族を連れだって訪れる者もいるかもしれない 
ひょっとすると迷子なのだろうか?

気配が一切しなかったのも 邪気を感じなかったからだろうか

・・・だが・・まだ油断はできないな・・・・
緊張を途切れさせる事無く 指先に集めた力を
いつでも放出出来る様にして 和希はその少年へ何者かを問う事にした

「おまえ・・どこから来た?名は何と言う?」

「んと・・けーた!!おにいちゃんは?」

「・・・・。」

「おにいちゃんは~??」

「・・・和・・希・・・・」

「・・そっかー・・・うふふ・・よろしくね」

「―――――っ。」
にっこりとほほ笑むその笑顔につられて 
つい名を名乗って こちらも笑ってしまった事に 和希は今更ながら驚いた。
宮中ではこんな何のてらいも無い笑顔に 滅多に会う事はなかったから
正直面食らってしまったのだ

みな 判で押した様な笑顔を張り付けて 腹に一物抱えながら
揉み手をして 若宮である自分に近づいてくる
本当に気を許す事が出来るのは 今ではもう片手に数えるほどになってしまった
そう言えば一体いつからだろうか?
自分がこんなにも素直に笑えなくなったのは

「?!」

いつの間にか 隣に当然の様にちょこんと座る少年は
自分を見上げて 満面のにこにこ顔だ

・・・なんだか・・・調子が狂うな・・・ 

自分の周りにはこんな幼い子供は居なかったから どう接したらいいのか 
全く見当がつかなくて 扱いに困る 
ふう・・と一つ息を吐いてから 和希は指先に集めていた強い力の束を 
風に霧散させ 傍らに座る少年の好きにさせる事にした

聞くとは無しに 話を聞いてやればその少年はやはり 
家族と共に天空の宮に来たのだと言う
両親が用事を済ませる間、外で遊んで来なさいと言われたと言うのだ
こんな小さな子供を一人 外でふらふらさせておくとは
ふざけた親もあったもんだと和希は思ったが 
この子供に言った所で何の解決にもならないだろう

和希が書物を繰る間中 けいたと名乗った少年は黙って
横に座ったまま大きな青い眼で 丘の下に広がる天空の宮の領を眺めていた


さらさらと長い草が 風に揺れる 
草のにおいと土のにおいが風にほんの少しだけ混じる
二人はただ 黙ってそこに佇んでいただけだったけれど
不思議と緩やかに静かに時間が過ぎて行った

吹く風が少しだけ冷たくなった頃 啓太は
着物に付いた草をぽんぽんと払って 軽やかに立ち上がり
和希を振り向いて またにっこりと笑うのだ

「おにいちゃん・・おれ そろそろ帰らなくちゃ・ ・・」

「?ん?ああ・・一人で平気?」

「うん!!平気!!ありがとう!!」

じゃあね~!!と手を振りながら 丘を元気に走って下って行く

少年の影はあっという間に遠くなり 
ついには小さくなって見えなくなってしまった

なんだか・・不思議な子だったな・・・

つい今さっきまで少年が座っていた隣へ眼を落とすと 
長い草が小さく丸く倒れて 存在の痕跡を残す
和希はただひたすらに黙って 景色を眺めていた少年の横顔を思い出していた

何となくあの幼い表情の奥に 隠された影が見えた様な気がしたのは
自分の思いすごしだったろうか?
もう会う事はないだろうから どうでもいい事の様に思えたけれど
何だか酷く心に残る少年だったなと思いながら 
風に乱れたその明るい色の髪を 掌で粗雑にかき上げたのだった

また書物を開く
あと半刻もすれば 忠臣が迎えに来るころだ
それまでもう少しだけ この一人の時間を楽しんでおきたかった。



啓太君・・・ちぃっちゃいです・・・。

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