ええ。小心者ですから・・・。

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悠遠夜話・番外編


悠遠夜話・番外編~和希さんの場合~三乃巻

2010.07.08  *Edit 
▽TB[0]▽CO[0]

「・・・・で?私は彼も一緒に・・と言った様な気がしたんだけれど?」

「そうだったか?うちの家令も相当に歳だからな・・・ボケが始まったのかもしれん」

乳白色の水晶で作られた天井と床が 己ずから淡く白く輝く 
煌びやかで緻密な細工が 随所に施されたこの天空の宮の謁見場は
今上天帝の豪奢な玉座が中央の最も高い位置に据え置かれている

朱雀の若宮である西園寺郁は 仕えるべき主の前に跪きもせず 
突っ立ったまま 遠く離れた最上段の玉座に座る若き天帝を見つめていた
否・・・睨みつけていると言った方が正しいかもしれない

「そうか・・・なら仕方がないねぇ・・・」

ふう・・・とため息を一つしてから 和希は半ば予想していたかのように 
大して咎める事もせず 自分を敵意丸だしで睨む 翠の双玉に肩をすくめさせた

この女人に見まごう程 秀麗な若者はその柔らかな見た目に反して 
仙界に朱雀ありと冠絶(かんぜつ)するほどの能力の持ち主だ
朱雀の一族の性を余すことなく受け継いだ 貴公子の中の貴公子
誇り高く勇猛果敢、紅の知将朱雀の正統後継者 西園寺郁

その若者が近々正式に伴侶を娶り家督を相続すると 
浮かれ切った朱雀の父王から書簡が届いたのはつい先だっての出来事だった。 
しかも相手は人間だと言うのだ。

先例が無かった訳ではなかったから 是認しない理由は特に無かったが
書簡に書かれていた名前に酷く心が揺さぶられて 
今日 この日西園寺と共に殿上するようにと 下知を下していた筈だった
だがしかし 広間に現れたのは西園寺ただ一人
よほど伴侶を懐に隠しておきたいらしい
くすり・・と和希は吐息だけで笑って

「でも・・ちょっと・・妬けるねえ・・・」

明るい色の髪を掌で乱雑に掻き上げて 海色の瞳が面白そうに笑う

玉座からゆっくりと立ち上がった和希は 
大層煌びやかでこの上なく邪魔な裾を 蹴飛ばすように
階段を音も無くゆっくりと降りて 燃えるような翠の瞳を持つ西園寺の極近くまで来ると
そのまま階段の上に無雑作に腰を下ろしてしまった。

何の含みも無く近づいてくる所作に 一瞬だけ緊張した面持ちをした西園寺だったが
今上天帝のとった行動にいささか面食らった風で 深々と寄せられていた
眉間のしわが少しだけ和らいだ様に見えた

「ねえ・・恋人は愛しいかい?」

座ったまま己れの膝に片腕を置いて 
頬杖をついた和希の唐突な質問に西園寺は困惑した

「?何が言いたい?」

また直ぐに秀麗な顔に深々と刻まれてしまった眉間のしわを
少しだけ見やってから 和希は西園寺の質問に答え無いまま 
一人ごとの様に呟いた

「きっと可愛い人なんだろうねぇ・・君が盲目になるほどに」

「ああ。私の啓太は素晴らしい」

「?!――――っはははは!君らしいね!」

間髪置かず紡がれる言葉に どうやらこの貴公子は 
謙遜やら恭謙と言った言葉を 
生まれながらに持ち合わせていないらしいと気づかされる

だがそれが 彼らしくていっそ好感が持てるな・・と主の目線の
遥か上で不機嫌そうな顔を隠しもしない不遜な臣下に和希は口端を上げた

「真実を言っただけだ。貴方にとやかく言われる筋合いはない」

笑われた事が気にくわなかったのか ついに腕組みまでして
ぷい・・と横を向いてしまっても この青年の姿は一幅の絵のように美しい
からかうつもりは毛頭なかったが 
いい暇つぶしにはなりそうだなと和希はふと思う
天界の頂点に立つ自分の命令に従わない西園寺への せめてもの意趣返しだ

「まだ半分人間なんだろう?」

「いや・・もうあと少しで完全体だ。」

「へえ・・そうなんだ・・・お熱い事で・・ご馳走さま」

父王の書簡によると 西園寺の伴侶になる人間は
命の泉が半分枯れかかっていた瀕死の状態から 西園寺の癒しの施しを多量に受けた為 
もうすでに半分は仙人になっているらしかった

半仙人のまま人間界に居れば不浄の気によって身体が蝕まれて行く
能力がもともと無い人間である啓太は 力を充分に扱えないから
必然的にもう仙界でしか生きられないと言う事だ。

身体の内側 残りあと半分の人間の部分は三つのやり方で消し去ることが出来る
一つめには 気の遠くなる様な年月を仙界でただひたすらに気長に待つ方法
次には 絶大なる能力者の天帝である和希から力を強制的に注がれる方法、
最後に 直接何度も身体を繋げて気を送り込む方法の三つだ
このいずれかで仙人としての完全体となる事が出来るのだ

もちろん 西園寺は自身にとって最善で最良の方法を選び 
日々愛する啓太へ実行していると言うわけだ
ちなみに啓太には 残りの二つの選択肢は一切告げられていなかったし
西園寺家ではその事について厳重なる緘口令が敷かれているのだった

「・・・・で。本当の用向きは何だ?」

ひょうひょうとして 核心には一切触れてこない和希の様子に
段々に焦れて来た西園寺は 腕組みをしたまま一定の拍を足で小刻みに刻み始めた
誰も居ない大広間に 乾いた靴の音だけがコツコツと響き渡る

・・・まったく・・・・
ご大層に謁見場での目通りと言うから 暑苦しい事この上ない正装で
まかり越して見れば案の定 豪奢な広間に通された 
啓太の仙籍取得の件で何か落ち度があったのか?と勘繰ったが
しかしそこは完全に人払いをされていたのだ 

自分への気配りなのか 常に傍らに控えている忠臣さえも今日は見当たらない 
恐らく身を潜め気配を殺して 柱の陰にでも隠れているのに違い無いだろうが。

思えば 即位の折から本当に何を考えているのか掴みどころのない天帝だった
自分の不遜な態度さえも咎めず、好きにさせて
そればかりか至極愉快そうな顔をしているではないか

穏健で柔和 
その上政治手腕は辣腕で 更に勤勉な今上天帝とくれば誰もが頭を垂れるしかない
先代が頓死した折 まだ年若い皇太子を天帝位につけるのはどうか?
という意見が取りざたされた事など皆、とうの昔に忘れて久しい

・・・・・気に入らん・・・・・
西園寺はさっきから 自分を見つめて優しげな微笑みを絶やさない
目線の大分下に居る 本来は頭を垂れるべき主を見つめたまま
微動だにしなかった。

宮廷中の臣下達からの人望も厚く 和希が天帝になってからは貴族間の争いが
激減した。仙界史上稀にみる賢君とみな口々に讃えるこの男
確かに良い天帝だとは思う。
だがしかし 何故だかどうしてもこの男には
心から膝を折り頭を垂れる気分にはなれないのだ。
どうしてここまで意固地になるのか 自分でも良く判らない
強いて言うなら 「いけ好かない」・・ただそれだけだ


和希は頬杖をついて 西園寺を見上げたまま海色の瞳をぱちぱちと二度三度瞬きすると
両肩をすくめて 酷くおどけた様子をして見せ言うのだ

「え~?嫌だな・・祝福させてもらいたかっただけだよ?本当に・・・
                         会えなくて残念だよ」

「ふん・・・では私は帰らせてもらう。もう茶番は終いだ」

どこまでも喰えない男だな・・・・
西園寺は広間から退出する事を 早々に決断して実行に移す事にしたようだ
退席の際には さすがに起拝を取らない訳には行かなくて 
薄い衣の袖をふわり・・となびかせて一歩後ずさり 
優雅に膝をつき拝を取る姿勢になった

「では・・・失礼する」

「・・・絶対に・・離してはいけないよ?・・・・」

長く柔らかな巻き毛の頭上に囁かれた言葉は あまりにも小さすぎて
どうやら西園寺の耳に完全に届かなかったようだ

「?何か?」

折っていた膝を元に戻しながら 組んでいた拝をほどき、類まれな天帝と
呼ばれる優秀な男を見たが その顔は相変わらず喰えない笑顔のままだ

「いや・・別に・・・お幸せに~」

擦り足のまま金銀の刺繍が丁寧に施された敷物の上を後じ去る 
見上げるほどに高い重厚な両扉を背後にし 
西園寺はもう一度拝を取り静かに広間を退出した

和希はひらひら・・とおよそ礼儀からはかけ離れた気易さで片手を振り
終始眉間から深い皺を消す事が無かった あの顔を思い出してくすり・・と笑った


白く輝く大広間に一人残り 
おもむろに袷に手をかけ 煌びやかな正装を一枚づつ脱ぎ散らかしてゆく
金銀の絢絹も絢爛豪華な金剛石の付いた飾り紐も躊躇なく 白い床に無雑作に投げ出される
沓さえも脱ぎ薄い衣一枚になって 白い胸元が露わになるのも気にすることなく
袷を大きく割り開き 側に控えているはずの臣下の名を小さく口にした

「石塚・・・」

「はい・・・ここに」

返答と共に和希の足元に伸びる 黒い影から滲むようにして
石塚と呼ばれる忠臣が内側から輪郭を浮き上がらせるように現れた
その様子に別段驚きもせずに 一人ごとのように和希は小さく問う

「・・今年も・・あの花は咲いてくれるだろうか?」

「・・・必ず」

「・・・・・・。あの人は僕を許してくれはしないのだろうね・・・」

「――――!!そのような事はございません!!」

いつも感情を露わにしない忠臣の 思いもよらない大きな声で 
和希の海色の瞳が驚きで大きく見開かれた。
見れば声を荒げた当の本人でさえ口許に手を当てたまま
驚いた様子であたふたとしている

和希は見開いた目を そっと和ませてゆっくりと手を伸ばし 
自分よりもほんの少しだけ 背の高い臣下の顎に指を掛け 
その怜悧な眼差しを覗き込んだ

鼻が触れるほど近くに顔を寄せても 臣下の表情は変わらない

だが和希の長い指が石塚の頬をたどり 唇をそっと幾度かなぞると 
僅かばかりだが瞳の奥底がゆら・・と震えた気がした

その様子に満足そうに にこりと微笑むと
妖しく彷徨う指先を唇からさっさと離し いつでも忠実な臣下へ淡々と退出を促したのだ

「ふふ・・・・ありがとう・・下がって良いよ・・」

「・・和・・希さま・・・」

忠臣の何か言いたげな様子には気が付いていた和希だったけれど
一度だけ顎をしゃくってから もう関心が無くなったかのように
くるりと背を向けてひっそりとつぶやいた 

「・・・一人にしてくれ」

「・・・御意」

瞬きが一つ終わるか終わらない内に 石塚は柱の陰に出来た黒々とした闇に
また滲むようにして消えて行った。


白い空間に静寂が落ちる

淡く光り輝く水晶の冷たくてやさしい床に 和希は横たわっていた

天井も床も全てが曖昧になるほどに その空間は白い
こうしていると自分の今いる位置さえも 危うくさせるようだ

それから額を強く冷たい床に押し当てたまま 
和希はそっと歌うように呟いたのだ

「・・ねえ・・・絶対に・・離してはいけないよ・・・
誰かに攫われてしまうから・・・
隠して・・囲って・・閉じ込めて・・・この腕から出られないように・・」

くすくすと笑いながら 何度も何度も呪文のように繰り返す



ゆら・・・・
その時 天空の宮の領地のそこかしこに出来ている影全てが 
陽炎のように立ち上り 一瞬だけ色濃くなった事に 誰も気づくものは居なかった


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