ええ。小心者ですから・・・。

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悠遠夜話・番外編


悠遠夜話・番外編~和希さんの場合~四乃巻

2010.07.21  *Edit 
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夢だ・・・・
ああ・・・
これは夢なのだ。

互いに見せつけ合うように 絢爛に咲き誇る藤の花
さらさらと吹く山風が 優しく愛撫するように撫で通り過ぎれば
まるで嬌声を上げる様に 揺れざわめく花の房は 
妖艶な娼婦のようであり 可憐な少女の様にも見えて

うねり、複雑に絡み合う木の蔦は 
お互いがお互いを強く束縛し しっかりと交わり抱きあう 

紅、藍、純白に紫・・・・そして黄金色
目に見える全ての眺めは藤の花房 
気の遠くなるような長い年月をかけて その土地は藤の蔦に絡め取られたのだ

淡く遠く霧のようにけぶるその様は 
生まれ故郷の懐かしい景色 

ああ・・・
これは夢なのだ。
そうだ・・夢なのだ 
夢ならば今少し あと少し この優しい景色に包まれていたい

手を足を赤子のように 小さく小さく
丸くなって 縮こまって 小さく小さく 
誰にもこの夢が盗まれる事がない様に この身の奥深くへと囲い込もう
大切な故郷の景色が消えてしまわぬように

夢でもいい 今はただ
もう決して生きてこの目にすることが叶わない
この景色にそっとたゆとう事にしよう
ただ もう全てを忘れて 夢に溺れる事にしよう



長いまつ毛に縁取られた 目蓋が少しだけ震えると
瞳の端に結ばれた涙がゆっくりとゆっくりと 頬を伝い落ちて
次々に尽きる事無く枕を濡らして行った




::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

あの時から・・・
もう何度 この少年は自分の隣にこうして座っているんだろう?
和希は当然のように傍らに陣取っている
人物をまじまじと見つめた。


あの時
いつものように長い草をかき分けて上り切ったあの丘の上の
あの場所に当然のように座って 真っ先に自分を目にした途端 
大きく手を振って嬉しそうに にっこり笑う少年を見つけて心底驚いた。

もう会う事も無いんだろうと すっかりと高を括っていた和希は
再会した事自体驚きの対象ではあったが
その少年の印象が変わっている事に 酷く驚いたのだ 

「えーっと・・けいた君?だよね??」

「へへっ・・啓太でいいよ。おにいちゃん!!」

・・・・纏う気配は変わらない

「ごめん・・驚いてる?」

「ん?ああ・・・まあ・・・」

変わったのは 外見のみか・・・・
それにしても・・・・・・・・。

大変不思議な事に 今 和希の目の前に立っている少年はどう見ても 
先日より確実に成長しているのだ
ついこの間までは まだまだあどけなさの残る至極幼い少年だった。

それがどうだろうか?
今では顔に少し幼さが残るが 手も足もしなやかに伸び
幼年期のふっくらとした丸みが消え なんとも闊達な少年・・といった感じだ。

・・・なにか昔、そんな一族が居た様な記述をどこかで見た様な気がする
あれは一体どこでだったのか
とても大事な事だったような気がするが
記憶の隅に追いやられてしまった情報を上手く取り出す事が出来ない・・・
しばらく 自分を見つめたまま 動かなくなってしまっている
年上の少年を見上げ啓太は少しだけばつが悪そうに俯いて笑った

「えっと・・やっぱり・・きもち悪いよね・・・」

茶色の髪が風にさらさらと揺れて 
前髪が少しだけ被さった大きな空色の瞳が 心なしか暗く沈みこんでいるように見える

「いや・・・そんな事はない・・よ」

頭の中の情報が上手く取り出せない為に 和希の返事が少しばかり遅れてしまった事を
啓太は自分が嫌悪の対象になっているせいだと思い込んでしまった様で
小さな唇を色が変わるほど 一度強く噛みしめ
和希から目を逸らしたまま 吐き捨てる様に叫んだのだ

「ほら・・やっぱり気持ち悪いんじゃないか!!」

「違うって言ってるだろ!!」
「!!!」

予想していなかった自分以上の荒らげられた声に 小さな啓太の肩がびくりと揺れる 

「えーと・・・いや・ごめん・・その・・・ホントに大丈夫だから・・」
「あの・・・・・俺こそごめん・・」

へへ・・・そんでもって・・ありがとう・・・・と
啓太は 決まり悪そうに 人差し指でぐしぐしと鼻先を強く擦りあげ
大きな空色の瞳の澄んだ色に やっと和希を捉えて映すのだった

そう・・あれから・・・
和希がここに訪れる度 何故だかいつも啓太が居た
会う度に啓太は成長していて 今ではもう和希と肩を並べられるほどだ

だがまっすぐに自分を見つめる澄んだ瞳は全く濁る事無く
植物が成長していくように 啓太は健やかに伸びやかに急速に大人への
階段を駆け上って行くのだ


会う度 段々と二人して過ごす時間が長くなってゆく
二人して 丘の上で和希の持ってきた沢山の書物を読んだ
何度か 啓太の生い立ちや境遇について詳しく問いただそうとした和希だったけれど 
大きな瞳がその時ばかりは悲しげに暗く沈みこんでしまう事に気が付いてからは
詮索を一切止める事にした
啓太も自分の事を一切聞いてくる事は無かったから
きっと何か深い事情があるのだろうと見当をつけてそっとしておく事にしたのだ

何故いつもここに居るのか? とかどうしてそんな風に成長が早いのかとか 
どこの一族の出身なのか?とか・・・・聞きたい事は山ほどあった筈なのに
いまとなっては和希にとって どうでも良い事になっていた

そんな些細な事よりも こんなにも打算無く隣に居て 
笑ってくれる啓太の存在が何よりも大切だったから
 

すでに西に傾き始めた陽光を浴びて 橙色に眩しく透ける 
茶色の癖っ毛がふわふわと風に揺れている

大きな瞳は 少年の様にきらきらとして晴れ渡る澄んだ空色
白くまろやかな頬も しなやかに伸びた手も足も
くるくると良く変わる表情も 一時として目が離せない

にっこりと花咲く様な 啓太の朗らかな笑顔が和希は本当に大好きだった

「なんだよ・・・和希。俺の顔に何か付いてる?」

眉を少しだけしかめた啓太が ずいっと顔を寄せてさっきから黙って自分の顔を
見つめ続ける和希へと鼻先を近づけた
まさか啓太の顔に見とれていたと 言える筈も無い和希は慌てふためいて 
目を逸らし 頬をぽりぽりと掻きやるのが精いっぱいだった。

・・・とくん・・・・・
鼓動が一つ波を打つ

「や・・・べつに・・・」
・・・とくん・・・また一つ波紋が胸に広がる・・・・

「変な和希ぃ・・」

言い終わらない内にたちまち自分からさっさと身を引いてしまう啓太を観て
ふと手を伸ばしてしまいそうになる自分に和希は酷く驚いた

一体自分は伸ばしたこの腕で 何を掴もうとしていたと言うのか



・・・・――――ふっっごほっ!!ごほっっ

突然に背中を丸めさせて激しく咳き込む啓太に 慌てて和希は立ち上がり 
直ぐにかけよって背を大きくさすってやる

「大丈夫か?啓太・・」

「・・・ん・・平気・・・」

このところ 会う度に咳き込む回数が増えているのは気のせいではない
心なしか今日の啓太はいつもよりも顔色が悪かった
咳き込んだ事で涙目になった啓太の顔を気遣わしげに覗き込みながら
なおも優しく背中をさすり 和希は治癒の術を施す旨を伝えるのだった

「啓太・・今日こそは俺が治癒を・・・」

「ん・・大丈夫だって・・・自分で出来るから・・・」

ひゅーひゅーと喉を鳴らして途切れ途切れに返事をする啓太が酷く痛々しい
今まで何度か申し出ている和希から啓太への治癒の術の施しは
何故だかことごとく 断られ続けていた

和希は自分の内に秘めたる能力には 絶大なる自負があった
この力を持ってして治癒を施せば こんなに苦しそうな顔をして
咳き込む啓太の顔を見なくて済むのに・・・ 
何故頑ななまでに自分の治癒を拒むのだろうか
何度か同じような問答が以前交わされたが いずれも同じ結果で今に至る

「ごめん・・和希・・ありがとう・・」

まだ整っていない呼吸をしながらそっと身を起して 啓太はさっきから背中を撫でてくれる
和希を振り返り 儚げににこりと微笑んだのだ

「―――――!!」

「か・・ず・・き?」






風がざわざわと丘の上の長い草を揺らしながら 細く長い空の雲を連れて行く
夕闇が迫り薄紫色に染まった空と丘の上の間に 重なって一つになった影が長く長く伸びていた

その体を背後からきつく両腕に抱きしめられて 今 啓太は大きく目を見開いていた

温かい体温が包み込むように背中全部から伝わってきて 
何故だか不意に泣きたくなる

自分の耳の後ろのすぐそばに唇を強く押し当てたままの和希の腕の力が また少しだけ強くなるのを
感じると今度は鼓動がたちまち早くなって 啓太はぎゅっと胸が苦しくなった

「何故・・おれの治癒を拒むの?啓太・・」

「えと・・別にこれ位どうってことな・・いし・・・」

抱きすくめる大きくてしなやかな和希の手に 上からそっと震える啓太の手が重ねられて 
やがてゆっくりと外側へと力が入り 静かに身の解放を要求された

「和希・・離・・・して・・?」

「・・・・啓太・・・」

橙色の夕陽と薄紫の雲の中 一つだった長い影法師はゆっくりと 二つに分かれていった

「俺・・・もう・・帰らなくちゃ・・」

・・・じゃあ・・また・・・

と和希の方を見もせずに その腕から逃れる様にして身をかわし
丘の道を足早に駆け下りていく啓太の姿を 為す術もなくただ茫然と見送った和希は
啓太のその頬が薄紅色に染まってしまっていた事など気付く筈もなかったのだった

どんどんと遠く小さくなる道の向こうの啓太の姿を
見えなくなってもまだ見つめ続けていた和希は 
風に乱れた前髪を乱雑に掻き上げてから さっきまで腕の中に抱きしめていた 
啓太の感触を確かめるようにその掌を硬く結び拳を作り決心も一つ固める

「啓太・・・・」

どんな理由があるにせよ、今度会った時は必ず屋敷に連れ帰り
治癒の術を施さなければならない
例え啓太がそれを拒む事があっても こればかりは譲れないのだ

自分の身分を明かし 多少強引な手段を取ったとしてもそれは致し方無い
和希が焦慮するほどに その腕に抱いた啓太の身体は
余りにも細く酷く儚げに感じられたのだ











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