ええ。小心者ですから・・・。

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


*Edit

悠遠夜話・番外編


悠遠夜話・番外編~西園寺さん編~

2010.08.18  *Edit 
▽TB[0]▽CO[0]

『悠遠夜話・番外編』
~西園寺さんと啓太君~
ただただ 甘ったるい二人です
啓太が仙界へ来てすぐのお話・・・









奥方様!!奥方様――――!!どこへおわします――――???

ああ・・もう・・・
その呼び方は何だか酷く 居た堪れないから止めて欲しいと言ったのに・・・

長い廊下をわらわらと 数人の侍女たちが衣の裾を翻しながら通り過ぎて行く
その廊下の下、堅牢たる支えの柱の陰に「奥方様」と呼ばれる啓太が居た

ひょこり・・と茶色の髪を柱から出して 
くるくると良く動く大きな青い瞳で頭上を確認する 
それからようやく一人になれた事を確認すると ずっと詰めていた息を一つ吐いた

みんな良い人なんだけどなぁ・・・・・
・・・・・良い人なんだけど・・・やり過ぎって言うか・・・

相変わらず上達しない飾り紐の結び方が上手くいかず
廊下を歩く一人の侍女へ声を掛けたのが間違いだったのかもしれない
あとほんの僅かな時間で身支度は整う筈だったのに・・・・
いつの間にか啓太の部屋の前の廊下には 
西園寺の屋敷中の侍女が集まったのではないか?という
黒山の人だかりが出来、誰が啓太の飾り紐を結わえるかで争いが始まってしまったのだ
いつもは真っ先に西園寺家一の年嵩である白髭を蓄えた家令が飛んできて
穏便に事を収めてくれるか、西園寺本人がやってきて侍女たちを蹴散らすかの
どちらかだったが 生憎今日は二人とも朝から長の所へ詰めているらしく
結局 隙を見て窓から逃げ出す羽目になってしまった啓太だったのだ

みんなまだ、半分人間の俺の事が気になるだろうな・・・・多分・・・
ほら・・珍しい動物とかみたいに・・うん・・・きっとそうだ・・・

遠くなっていく何人もの足音を頭上に聞きながら 
何となく明後日の方向に検討をつけた啓太は 遠くに霞む桃園を見下ろしながら
薫風に頬を撫でられ瞳を閉じ ここ仙界へ来てからの眼も回るような
日々を思い出すのだった




西園寺に連れられて仙人達が住む 仙界へ初めて連れられてきた時には
見る事、聞く事全てが驚きの連続だった。

四季の花々が一斉に所狭しと咲き乱れ 山も野も緑にあふれ瑞々しい
其処此処に さらさらと流れる小川はどれも山奥の清水の様に冷たく澄みきっていたし 
ふわりと頬を撫でる風さえも芳しい薫りがした

人間界に比べたら ここは本当に夢の様な国だったのだ。

西園寺の事をきっと良家の子息なんだろうと そのにじみ出る気品から 
大体の見当はつけていた啓太だったけれど 
ここが我が家だ・・・と連れてこられた屋敷を見て 
啓太は驚きのあまり もうすっかりと腰を抜かしてしまった

そこは人間の王宮など遠く足元にも及ばない 屋敷という名の城だったのだ
大門をくぐり鬱蒼とした森を二つ抜け 
遠くに霞む山まで見渡す限りのはるかなる桃園を抜けた所に
やっと目指す西園寺家の屋敷が見えた

腰が抜けてしまったせいで 大変情けない事に西園寺の腕の中に
横抱きに収まる啓太は目の前に繰り広げられる 想像を超えた現実に
ただただ 大きな空色の目を更に大きく見開いたまま さっきから固まってしまっている

その様子を溶ける様な優しい瞳で見つめていた西園寺は 
そっと低い声で囁き 不意に啓太の耳へ口許を寄せ
かしり・・・と甘咬みを贈った

「・・・けぇた・・」

「!!!!なななっ何するんですかっ!!」

甘く蠱惑的な美声を吹きこまれ 更には耳朶をはみはみと甘咬みされた啓太は
真っ赤になって耳を押さえながら西園寺に抗議するが
当の本人はさして顔色も変えず 恋人の不義理を非難するのだ

「啓太・・・・ 少しは私の方も見ろ」

「//////////////うう。」

にっこりと音が聞こえるほどに 満面の笑みを浮かべた西園寺は
少しの躊躇も無く ようやく自分を映した空色の瞳にどんどんと近づいて行って
当人の是非も無く啓太の唇を塞いでしまった。

「!!ん!!んんん~!!!っっ」

温かくて柔らかい舌が啓太の硬く閉ざされた歯列を強請る様になぞる
頑なに閉ざされていた歯列はやがて 割り開かれ優しく蹂躙され
甘い痺れを啓太の身体全体に脈打つ波紋のように届けるのだ

――――っちゅ・・・

小さな水音を最後にして 西園寺の唇が名残惜しそうに離れていく

「・・もぅ・・さい・・おんじさん・・・」

いつしか瞳をすっかりと潤ませて 頬から耳まで赤く染め上げた 啓太の口から
熱い吐息が一つ漏れ 西園寺の胸元にきゅっ・・と顔が埋められた
西園寺は満足そうに茶色の柔らかな髪に鼻先を擦り付け 
そっとまた 愛しくて堪らない恋人の耳へと囁くのだ

「・・啓太は本当に可愛いな・・・・」

真っ赤になったまま 西園寺の胸元に納まって 
啓太は・・・くん・・・と恋人に纏わりつく芳しい薫りを吸い込み思う

ああ・・・この人は甘い毒の様だ・・と

心震えさせる優しい声も 強引な口づけも 彫刻の様なその滑らかな肌からも 
その毒はにじみ出ていて 自分の身体を刻々と侵して行くのだ
甘い甘い毒に蝕まれたこの身体は熱を持ち やがて朦朧として 
手足が痺れて自由が利かなくなるのに 何故だか 
どうしようもなく もっとその毒が欲しくなる

いまだって・・ほら・・・狂おしいほど甘い毒が身体中を支配し始めている

ゆるゆると西園寺の長い指先が 俯いた啓太の顎にかけられて そっと上向きにし
二人してまた 今まさに目蓋を閉じようとしたその時

「ああ~~~・・ごほん!ごほん!!」

ワザとらしく 存在を誇示する為にされた咳ばらいの音に
ハッとして身を強張らせた啓太に対して 
西園寺はなんら意に介さず そのまま啓太の唇を塞ごうと
美しい横顔を斜めに傾けたまま ずんずんと近づいて
咳払いした邪魔者へ 吐き捨てるようにこの場からの退出を命じた

「・・・・じい・・一刻のち出直せ・・・」

「ちょ!!西園寺さんってば!!駄目ですよっ!!」

胡乱な眼差しを一つ 年老いた家令へちらり・・と送って
あとほんの僅かに迫っている 愛しい恋人の柔らかな唇を我が物にする為
掛けられたままの西園寺の指先にも更に力が入るが

「・・だ・め・で・すってば!!」

がっしりと秀麗な顔に僅かの遠慮もせずに 啓太の掌が添えられて
ぐぎぎぎぎ~~~~とあらぬ方向へ西園寺の顔が追いやられてしまったのだ

「ふん・・・つまらん・・・」

頑是ない子供のように 眉間に深々と皺を刻み不機嫌な顔をする西園寺を見て
門前に控えていた家令は堪らず大声を立てて笑い出した

「ふぉふぉふぉふぉ!!若も啓太様には形無しですなぁ~」

「!!―――っだまれ!!この老いぼれが!!」

声を荒らげて 不満の原因の張本人である家令へと西園寺の一喝が飛ばされたが
どうした訳か 間髪置かずに腕の中の愛しい恋人から指導が入った

「西園寺さん!お年寄りは大切にです!!」

「・・・・・・・っちっ」

「!!ふぉーっふぉっふぉ!!これは愉快!愉快!!」

目の前で腕の中の恋人に神妙に説教を喰らっている 若き主の姿を目にしながら
家令は笑い過ぎて滲んでくる涙を拭きながら 感慨深く思いをはせるのだ


・・・・なんということだろうか

未だかつてこのように率直に 朱雀の若宮に意見するものが仙界にあっただろうか?
名門中の名門 貴族の中の貴族 誉れ高き一族のたった一人の
傲岸不遜な御曹司に面と向かって このように臆面も無く
指図し 尚且つ意のままにする者が現れる事になるなどとは思いもよらなかった。

今では長く仕えた自分はもとより 一族の長である父王の意見にさえ
素直に頷く事など稀だと言うのに・・・・
しかもそれが忌むべき存在であるはずの 人間の若者だったとは・・・

ふむ・・・・やはり 長生きはしてみるものだと家令は心底嬉しくなって
また声を立てて笑い出したのだった

「~~~~~!!!!」

笑い転げる年老いた家令を見つめ 門前で口端をひくひくと痙攣させる西園寺が居る
ここでまた家令を罵倒しようものなら 律義な啓太の事だ
確実に容赦ない指導が入るのは目に見えている。
愛しい啓太から厳しく示教されるのは この上なく辛かったが
さっきから笑うのを止めようとしない家令も癪に障ってしょうがない

身を捩って大笑いする 家令の事を憎々しい顔で睨んで西園寺は
ギリギリと歯ぎしりをし めったにする事がない沈黙をもってして
怒りをやり過ごす事にしたようだった。

何しろ今日は特別な日だ
これくらいの辛抱は何ほどのものでもない。
愛しくて堪らないこの人が本当の意味で自分のモノになる日なのだから
西園寺は腕の中に居る恋人を抱きしめる力を少しだけ強め
今はもうすっかりと身の奥底に沈んでしまっている 平常心を手繰り寄せる事に専念した



:::::::::::::::::::::::::::::::::::
矮小で忌むべき存在の人間が 誇り高き朱雀族の中に迎え入れられるという
長からの下知に一族は酷くざわついていた。

しかも正統継承者である西園寺郁その人の元へ 伴侶として迎えられると言うのだ。
やがて相続される一族の長の横に 常にはべる事になる正妻の座に
よもや人間ごときが納まるとは誰も思いもしなかった

中には人間に対して好意的で 今回の件に関しても何ら意見なし・・・
と言う者もいたがそれはごく少数で、大半の朱雀族は脈々と受け継がれてきた 
この高貴なる血すじに 穢れた人間が澱のように混ぜ込まれるなど許すまじ
という意見の輩であったから その重々しい空気が屋敷中を取り囲んでいるのだ

今日一族への啓太の初披露目がここ西園寺本家で催される

初めて仙界へ入ってから 三日間の禊と仙人になる為の儀式を施され
正式に朱雀一族郎党に目通りを許されたのだ。

大広間にはすでに 仙界中に散らばっている朱雀一門がぞくぞくと
集結し 嘲笑と侮蔑を心の底にひた隠しにして 先に高座へと
優雅に座る 短気で気難しい一族の長へと機嫌伺いの挨拶に勤しんでいた。

仙人になる儀式を施されるとはいえ 元は人間を
名門朱雀一族に迎え入れる事に対して 到底頷く筈はないのではないかという
大半の予想に反して 広間を見渡す煌びやかな高座に座った高潔なる一族の長は
極上の機嫌の良さだった

年季の入った朱雀族からはひそひそと こんなにも上機嫌な長を見るのは
実に千年ぶりだとそこかしこで漏れ聞こえる程だ

長をここまで上機嫌にさせる啓太という人間は一体どのような人物なのか??
いつの間にか集まった一族の関心は そちらに集中し始めていた



銅鑼が高らかに鳴らされ 広間に響き渡るとざわめき立っていた広間に沈黙が広がり
今まさに話題の渦中の人が入ってくるであろう大扉へと 皆一斉に視線が集まった
幾重にも重ねられた天幕が するすると音も無く持ち上がり
西園寺の手に引かれた啓太が 煌びやかな衣を身に纏いゆっくりと広間へ姿を現した。



「疲れたか?・・啓太・・」

「はい・・少し・・・」

正装を解きに来たと言う侍女たちを全員蹴飛ばすように無理やり下がらせて 
幾重にも被せられた啓太の煌びやかな衣装は 
朱雀族 御曹司自らの手によってするすると乱雑に解かれていった

「西園寺さん・・これ・・こんな適当にしちゃ・・・」

「なに構わん・・後で侍女たちが集めに来る・・・放っておけ・・」

啓太が人間界に居た頃には目にする事さえもなかった
金糸銀糸で細かく艶やかに意匠を凝らされた反物で出来た衣は
今 無残に足元に打ち捨てられている
何だかひどく分不相応な気がして 心が痛んだ啓太は西園寺に声を掛けた

「あの・・やっぱり侍女の方々に来て頂いた方が・・・」

「啓太・・・」

忙しげに動いていた長く美しい指先がぴたりと止まり
跪くようにして啓太の前に陣取って飾り留めを外しに取り掛かっていた西園寺が
半ば睨むようにゆっくりと顔を上げた

「駄目だ・・・お前の肌をあの五月蠅い女どもに易々と見せる訳にはいかん」

「・・・。えと・・・肌って・・・俺 男ですよ???」

「だが私の花嫁だ。花嫁は夫以外に肌を見せる事は許されん」

「・・・・う・・花嫁って・・・・。」

西園寺が啓太のきつく結いあげられていた腰紐を解き 
袷を大きく引き 何枚も重ねられた内掛けを落として行く

床に次々と色とりどりの絹で織られた衣が 花びらのように広がって行く様を
啓太はただもう黙って見つめているしかなかった



美しく動く西園寺の指先を見つめながら さっきまでの事を思い出す
・・・・・銅鑼が鳴り響き広間に入場した時の事を

極度に緊張して手足が一緒に動きそうになり 身につけた事もない煌びやで
重い衣装にどうしたって足がもつれそうだった

自分がどうしてこんな所に居るのか 一瞬混乱しそうになった啓太だったが
不意にきつく抱きしめられて 口づけられてしまえば不思議と心が凪いだ

そうだ 自分の隣にはいつだってこの人が居るのだ
見上げた翠の双玉に自分が映っている
綺麗で優しくて それでいていつだって高潔なこの人が
大丈夫だと言えば もう本当に何もかも上手く行く気がする

この人の側に常にありたいと 
どんなに時間が掛っても この人に少しでも近づきたいと
仙界に旅立つあの日 心に決めたのだから

啓太は一つ力強く頷くと 愛して止まない西園寺と共に歩を進めていったのだ





「あの・・西園寺さん・・俺どこか変でしたか?」

「ん?」

煌びやかな啓太の衣装を もう殆ど解きほぐし終わった西園寺は
不安そうに首を傾げて問う恋人を面白そうに見つめた

「何故そう思う?」

「えと・・だって・・みんな俺の事見て固まっちゃって・・」

「ふふ・・そうだな・・あれは愉快だったな・・」

啓太の言う先ほどの披露目の儀式での 一族の事を思い出したらしい西園寺は 
珍しく声を立てて笑い出したのだ

「え??やっぱりどこか可笑しかったんですか???俺!!」

胸元に必死な様子で取りすがる この恋人のなんと愛らしい事か

西園寺は啓太の頬へと指先をゆっくりと這わせ 輪郭をなぞりながら 
黒く渦巻く良からぬ気配が 広間に啓太が現れて 
長の許しを受け顔を上げると 瞬く間に霧散してしまった事を思い出す

自分達二人が入場してすぐに 暗くおどろおどろしい陰の気が 
たちまち軽やかな陽の気に変わってしまったのだ

どうやら朱雀一族に極度に好まれる気質を備えているらしいこの恋人は
一瞬にして広間に居た全員の心をわし掴みにしてしまったらしい
朱雀族の男も女も皆啓太を一目見た途端 ほう・・と一つ溜息をついて
一様に頬を赤らめてしまったのだから

もともと啓太自身が持つ気は 人間では滅多に見る事が叶わない
清浄かつ無垢なものであったし、そこへ朱雀族正統後継者である西園寺の気を
多く吹きこまれ 奇しくも類まれなる美しい気が出来あがったのだ





「うむ・・まさしく仙人殺しであるな・・・郁・・・」

そう言って にやりと大層面白そうに笑った一族の長である父の顔が忘れられない

内心、初めて啓太を目通りさせる時 
人間など朱雀族に迎え入れる事まかりならんと
大喝される事を予想していた西園寺にとって 
拍子抜けするほどに父王の態度は寛大だったのだ。

しかもあろうことか啓太を見つけるや否や 高座から一足飛びに飛び下りて 

「良く参られた!!嫁御殿―――――!!」

と啓太をひしと抱きしめた時には
あまりの展開にあんぐりと口を開けかけた西園寺だったが 
直ぐに我を取り戻し 威嚇をしながらされるがままになっている啓太を
父王の腕から引っぺがした
強力な能力を持つ朱雀族の長が一目で啓太に魅了されてしまったのだから
凡庸な一族の者などひとたまりもないと言うわけだ



「愉快だったが・・不愉快でもあるな・・・・」

仙人殺し・・・か・・・・

世俗の欲を一切無くして仙人となる・・
と人間界では言われているようだが なかなかどうして 
人間ほど好戦的でないにしろ仙人界だって色々あるのだ

色恋沙汰や跡目相続 日々の他人の噂話に貴族達の醜聞・・・ 
悠久の命を生きる仙人は兎に角 時間を持て余している
面白そうな事には何でも首を突っ込みたがる 悪い癖を持つ輩が多く居るのも
西園寺の頭痛の種だった

これからは僅かな可能性が含まれた種であったとしても 
それが芽吹く前に 徹底的に根こそぎ摘み取ってしまわねばならない

この無自覚この上ない愛しい愛しい恋人に 
邪な恋心を持つ者は 全て闇に葬って行かねばならないのだ

ふふ・・知将 朱雀の腕の見せ所という訳だな・・・・
・・・・ふふふ・・

さっきからなにやら黒い気配を盛大に漂わせている恋人を見つめながら
啓太は ぶるりと身を震わせて両腕を自分でさすった。

何となく背筋が薄ら寒いのは すっかりと豪奢な衣装を剥ぎ取られて 
薄絹一枚になっているせいばかりではないと知っているのだ。
この美しい恋人が妖艶に微笑みながら 何やら画策している時は大抵
凡人の自分が聞けば 仰天する事間違いなしの事実が待っている

今回は一体誰が標的なんだろうか?

願わくば その人が健やかなる朝を無事迎える事が叶いますように

そんな心からの祈りの最中の啓太に唐突に美しい恋人から声が掛った

「啓太。お前は誰のものだ?」

明晰な美しい恋人の突然の予想外の質問に啓太は慌てた。
ここで うっかりと良く考えもせずに適当な答えを返すと
いろんな意味で酷い目に会う事は今まで随分と学習して来たからだ

「えと・・・その・・・」

畳みかけるように 西園寺が質問を繰りかえす

「誰のものだと聞いている」

答えは当然たった一つしかなかったけれど
頭のいい恋人に 何やら謎かけをされているようでつい答えるのに躊躇してしまう

「・・・・西園寺さん・・の・・・です・・」

「ああ。そうだ。私の物だ。他の誰にもお前は渡さん」

おどおどと呟く様な小さな声を聞き取った 美しい恋人の満足そうな笑顔を目の前にして 
啓太は自分が求められている答えを 導き出せた事にほっと小さく安堵し
その安堵からか つい思ったままの事を 口に出して言ってしまったのだ

「えと・・・西園寺さんは?」

「何だ?」

「あ・いえ・・何でも無いです・・」

言ってから後悔がどっと押し寄せる
こんな なんの取り柄もない自分を選んでくれたのは西園寺だ
仙人という人間を超越した存在。
彼人は本当に明晰で 強く麗しい

そんな恋人に 愛していると昼夜問わず溺れるほどに囁かれても
心のどこかにいつもある影

何も持っていない自分は 西園寺に何を返してあげられるのだろう
一体いつになったらこの秀麗な恋人に釣り合う人物になり得るのだろう
どんなに頑張っても努力しても
何も返してあげられない自分は、
釣り合う事の出来ない自分は
いつか西園寺から愛想を尽かされてしまうのではないだろうか
好きだから 愛しているからこその暗い小さな焦燥


「何だ?言ってみろ」

西園寺の少しだけ怒ったような声がする
びくりと肩をすくめた啓太はそのまま何も言わずに俯いてしまった

「啓太・・」

長く美しい指がそっと伸びて 啓太の細い腰にかけられ
それはやがてゆっくりと西園寺側へと引き寄せられた
西園寺の胸元に俯いたままの茶色の髪がふわふわと揺れている

・・・啓太・・・
ともう一度優しく恋人に名を呼ばれてしまえば 
胸の奥に仕舞っておきたい事でさえ 白状するしか無くなるのだ
やがてそれは 小さく小さく西園寺の胸で囁かれた

「あの・・西園寺さんは・・・その・・・俺のものですか?」

「?」

「あの・・すみません」

「何故謝る?」

「・・・だって」

だってこんな事。言う筈じゃなかった。
言えば何だか酷く自分が惨めになって行く

西園寺の隣に居られる・・・ただそれだけで幸せに感じていたのに。
本当に何も無い自分には それだけで十分だったはずなのに

いつのまにかそれだけでは足りなくなっていて 
西園寺を自分一人だけのものにしたくなる

そんなのは望み過ぎだって判ってる
いつから自分はこんなに欲が深くなってしまったんだろうか
自分勝手で分不相応・・・そんな自分が嫌になる

不意に西園寺の両手が啓太の頬を挟んで強引に上向きにされた
きっと今の自分はひどく嫌な顔をしているだろう
そう思った啓太は いやいやと首を振って西園寺の拘束から逃れようと必死に
なるが視線を外す事を西園寺が許してくれなかったのだ

「啓太・・お前は愚かだな・・・」

燃える様な翠の双玉が啓太の空色の瞳を絡め取る
低く囁かれた言葉は何故だか掠れていて 恋人の眉はひそめられ
美しい翡翠の様な瞳は 奥の方で静かにゆらゆらと揺れていてとても悲しそうに見えた

どうしよう・・
自分は何か恋人を悲しませる様な事を言ったんだろうか
だとしたらすぐにでも謝らなければいけない
西園寺に嫌われてしまったら もう生きていけないのだから


「西園・・・・」

口を開きかけた刹那
いつもと違う荒々しい噛みつくような所作で啓太の唇が塞がれた
抵抗する間もなく硬い床に乱暴に組み附せられて 
あっという間に口内は西園寺に蹂躙されていった

突然の出来ごとに 混乱した啓太は西園寺の腕から逃れようとするけれど

・・・啓太・・・・・・・・啓太・・・
と熱に浮かされたように何度も紡がれる西園寺の声を聞いてしまえば
もう両の腕をまっすぐにのばす為の力を 一切入れる事が出来なくなってしまう
だが さすがにもう苦しくて顔を叛けるけれど 
すぐに西園寺の手が啓太のあごを捉え 尚も抵抗する啓太の両手首を押さえ付け 
依然と貪るような口づけが施され続けた

「・・んん・・・ふぅ・・・」

いつしかお互いの口端から どちらのものかも判らない唾液が漏れ
朦朧とし始めた啓太の四肢からは すっかりと力が失われてしまっていた


こんな口づけは知らない
優しく蕩ける様な甘い口づけしか自分は知らない

どくどくと身体中の血液が沸騰する様な
狂おしくて堪らない こんな口づけは知らない
知らない



空色の瞳がようやく恋人の美しい顔を正確に捉え 焦点が合い始めた
少しだけ西園寺の顔が霞んで見えるのは 涙のせいだったんだと判ったのは
しなやかな指先がゆっくりと頬を拭ってくれたからだった。
一体どれだけの間 この恋人に好きにされていたのだろうか
肩が大きく上下して あがった息も未だ整っていない



――――――どん!!

啓太に覆いかぶさったままの西園寺の両腕が 啓太の顔の両側の床に激しく打ち付けられ
びくりと空色の瞳が大きく見開かれ西園寺を見上げる

「西・・・」

「啓太・・いいか忘れるな。私は最初からお前のものだ・・髪の毛一本。爪の先に至るまで全てお前のものなのだ。お前にがんじがらめに囚われているのは私なんだぞ?・・・判らないのか?この愚か者め」

・・・だが、お前がきちんと理解するよう伝えなかった私が悪いな。
・・・すまなかった。

一息にそう言いきると 今度はそっと羽根の様な口づけが啓太の唇に掠める様に落とされ
西園寺は啓太の額に自分の額を擦りつける様にしてから空色の瞳を覗き込み
ため息の様に小さく呟いた

「・・・私は・・・啓太なしでは生きていけない・・こんな気持ちは初めてだ
・・・啓太になら殺されても良い・・・・」

真っ直ぐに深い翠色の双玉の瞳が 自分を見つめている
啓太は西園寺から僅かも目を離す事が出来なかった

どうしようもなく切なくて
苦しくて
恋しくて
そして嬉しくて
瞬きする事さえ忘れてしまっていた

「・・・ごめ・・んなさ・・・」

一言だけ吐きだすのが精いっぱいで あとはもうあふれる涙と
嗚咽をどうしても止める事が出来ない
啓太は西園寺の胸にすがって ただもう後は泣く事しか出来なかった

しなやかな指が 柔らかな茶色の髪を撫で梳いて行く
啓太の顔中至る所に そっと優しい口づけが降ってくる

硬い床の上
その夜 巻き散らされた色とりどりの花びらの様な美しい衣の上
二人は抱きしめ合って 眠りについた




・・・・・太
・・・啓太!・・・

渡り廊下の下 堅牢な大梁に腰掛け 足をゆらゆらとさせながら
気持ちの良い春風に身を任せていた啓太の耳に愛しい恋人の声が届いた

「探したぞ。来い」

薫風の中 宙空にふわりと浮かんだ西園寺がにこりと笑って両腕を広げている
明るい巻き毛や薄衣の上掛けが優しく風に揺れ 
まばゆい陽光を背に受けて その姿はきらきらと輝いていた

「西園寺さん!!」

啓太は迷わずに腰掛けていた梁を思いきり蹴ってその腕に飛び込む
ふわり・・・と大した衝撃も無く西園寺の胸にたどり着く事が出来るのは
眷属である風たちが優しくその身体を支えてくれるから

主の得た素晴らしき伴侶に 風たちはどこか誇らしげに賛美の唄を歌いながら
啓太の衣に纏わりつくようにして その身体をぐるりとまわり頬を一撫でしてゆく
その様子にくすぐったそうに少しだけ肩をすくませてから 
へにょりと笑い 啓太は西園寺の頬へ鼻先をそっと擦りつけた

「何だ?随分と私の奥方は機嫌が良いな・・」

「・・ふふふ・・・」

・・だって・・良いお天気だから・・・
と微笑んで言う腕の中の恋人に 西園寺は首をかしげた

ここは仙界だ
人界と違って 通年 春の様に穏やかで静かな悠久の時が流れている
天気が良いから機嫌が良いと言うのも全く不可思議な話だったからだ

「???」

啓太の言葉に考え込んでしまった西園寺の唇に
ふわ・・と微かで柔らかな感触が触れてやがて離れて行った

「―――――!!・・・・・啓・・太・・・」

恋人からの思いもしなかった初めての行動に 柄にもなく西園寺は慌て
大きく目を見開いて口許を手で押さえるが 見る間に顔が上気していく
ついにそこに耳まで桃色に染めて ふるふると震えたまま
為す術もなくただ突っ立っている 西園寺が出来あがってしまった。

「西園寺さん??」

不思議そうに自分の事を見上げる空色の瞳に かなり間抜けな顔をした自分が映っている

・・・・仙人・・殺しか・・・・
・・・まったく・・・困った奥方だ・・

こんな湯当たりした様な顔を あの家令にでも見つけられてしまったら
また物笑いの種にされてしまうだろうから とっととこの場所を離れてしまいたい
それにこの大変に困った奥方を 今すぐにどうにかしてしまいたくて堪らないから
西園寺は口許を覆った反対側の手で 目を白黒させている啓太に有無を言わせず
素早く胸元に抱きよせ その身体を空高く風たちに運ばせた

すっかりと伸びてしまった鼻先を そのしなやかで美しい手で隠しながら




酷暑のこの季節には少しばかりシツコイ 甘過ぎる二人だったでしょうか(笑)
拙サイト・・・漢前西園寺さんの前では啓太君も弱冠乙女仕様です。
どうかお許しを~(>_<)
暑い日々が続き 体調不良のじゅえるですううう・・
皆様も十分お気をつけ下さいませ。
本日もお付き合い頂きまして ありがとうございます!!


*Edit ▽TB[0]▽CO[0]

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。