ええ。小心者ですから・・・。

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悠遠夜話・番外編


悠遠夜話・番外編~王様の話~:::頭上の望月:::

2010.11.29  *Edit 
▽TB[0]▽CO[0]

あ~・・・るせえ~・・・・

さっきから このお歯黒は 
一体もう何度同じ事を喋ったら気が済むのだろう
そんな事は どうでもいいから
早く目の前に置かれている豪華な膳に箸を付けたい・・・

丹羽は高い天井を見上げながら 頭をぼりぼりと掻いた


初め 
大勢のむさ苦しい町の男衆に囲まれて 見世の軒先の前に現れた丹羽に
かなり訝しげにして 遠巻きに眺めていた鈴菱楼の者たちだったが
頭を縮こめながら暖簾をくぐった丹羽が 一歩明るい見世に入るなり 
その美丈夫ぶりと ずしりと置かれた革袋の中身の前金の多さに
一瞬で平身低頭 満面の笑みで揉み手をし始めて
すぐに迅速な一流商人の対応をとったのだった

通された見世の中は なるほど今まで見て来た遊郭とは別格だった
大人の男がやっと抱え込めるほどの 太い年代物の檜の柱を何本も贅沢に使い 
花街にそびえ立つ この高い楼閣は支えられているようだ
内装は 廊下も壁板も底光りするほど丹念に手入れされた
漆塗りの黒一色に統一されている

とかく遊郭で在りがちな 朱と金銀のドギツイ色遣いはされていないから
其処ここに飾られた 趣のある白磁の壺や掛け軸が実に良く映えていて
無雑作に飾られているように見えても 見る者が見れば 
計算しつくされた配置のされ方だ
おそらくは その美術品全てがたった一つで
あの場末の酒場の店が一軒 余裕で買い取れる値段なんだろう

先導されて丹羽は 六角の楼閣の壁にそって出来た螺旋階段をひたすらに登って行た
遊郭には珍しく 各部屋が孤立していて中の宴の音が漏れ聞こえるのは
お端が膳を運ぶ為に 観音扉を開閉するその時だけだったから
丹羽の先を行く案内係の女将の耳障りな声が響く以外は
時折り 鴬張りの廊下が鳴くだけだ
まるで欲望渦巻く遊郭とは対極の 
由緒正しき禅寺にいる様な錯覚さえ覚える静かで不思議な空間だった


恭しく開かれた扉を中に入ってみれば 既に宴の席は整っており 
見た事もない異国の果物や 魚に肉が器に溢れんばかりに
盛り付けられて どれも旨そうな匂いをさせている

二、三十人は余裕で入れそうな 広い座敷のど真ん中
座ったら滑り落ちそうな位 分厚い敷物に丹羽は勧められるまま 
邪魔で仕方のない あの豪奢な衣の裾を捲り上げ
胡坐でどっかりと座りこんだ

「本っ当にお客様は幸運でございますわ~」

女将がニコニコと満面の笑みを湛えて そのまま隣に座った時は 
もしやこのまま自分の酌の相手になるのかと一瞬胆を冷やした丹羽だが 
よくよく話を聞いてみれば どうした事か今日は客足がさっぱりで
大口の上得意客の宴の席が取りやめになったらしい
本来ならその上得意の客の接待に当たる筈だった鈴菱楼一の太夫が
今回特別にこの座敷に出るらしいと聞いてようやくほっと胸を撫で下ろした

別にたらふく食べて 旨い酒が飲めればソレで良かったから
遊女なんて 太夫でもお端でも誰でも良かったが 
このお歯黒べったりのきんきん声が
じぶんの横にはべるなんて事だけは遠慮したかった
そんな事になる位ならさっきの ムサイ町の男衆に囲まれているか
一人きり ほったらかしにしてくれた方が千倍マシってものだ



通常 太夫と呼ばれる位の高い娼妓や陰間が相手をするのは
一握りの選りすぐりの上得意客のみだ
丹羽のように 今日初めてこの店の暖簾をくぐった客が
この見世の名太夫に会える事自体が 奇跡の様な事なんだと女将が捲し立てる
嫌々袖を通した派手な衣と 金銭には全く頓着しない丹羽が放った
かなり法外な前金が 鼻の利く商人魂をくすぐったのに違いなかった


「当 鈴菱楼の太夫は それはもう!
崑崙山の女仙様のようなお方でございますのよぉ~」

おーっほほほほほ~ と高笑いする声が無駄に座敷に響き渡る
お歯黒が言うにはなんでも ここの太夫は琵琶の名手でその腕はこの国一
そしてたった一晩床を供にすれば 皆 極楽を味わい太夫の虜になるらしい

・・・・おいおい・・・
・・・コレをあのばあさまが聞いたら 八つ裂きにされっぞ・・・・・

確かに琵琶の名手で美形とくれば 崑崙山の女仙が代名詞だ
大見世 鈴菱楼が誇ると言えば相当の腕に違いあるまい

だがしかし 実際何度も会った事のある 
あの崑崙山の 老いて尚美しく猛々しい女主を思い出してから 
丹羽はその巨躯をぶるりと身震いさせて
襲い来る悪寒に自分の太い両腕をさすった

気位がその住まう崑崙山よりはるかに高い彼女の事だ 
女仙と人間の遊女を一緒にするとは何事ぞ!と 
烈火のごとく怒り狂い 何をするか判ったものではない
世に熟年のご婦人のご不興ほど 恐ろしくて厄介なモノは無いのだ 

まして崑崙山の女主である西王母は もう随分と長い年月 
女仙の頂点に君臨し続ける女傑だ
いつだったか所用で青龍の屋敷に迎えた時などは 
遠目に見た丹羽の服装と言葉が全くもって成っていない!!と首根っこを掴まれて
天空の守護 四神将が内の一つ名門青龍一族もなんのその・・・
丹羽の父親ともども 地べたに正座をさせられ 
ほぼ一刻 説教を喰らった大変に苦い思い出がよみがえる

噂ではあの天帝でさえも ご機嫌伺いに余念が無いらしいと聞くから
さすがと言うか・・何と言うか 知らず勝手に口端が引きつってくる
やはりここは 己が本能の鳴らす警鐘を信じて
なるべくなら顔を合わせない事が一番の防御と信じて疑わない丹羽だった

・・・・ううう・・・おっかねえ~・・・・

しかし 仙界を思い出させるこの派手な衣装といい 
今の女仙話といい 何だか今晩はがっくりと気の萎える様な事ばかりだ
後はもう 何も起こらない事をひたすらに願うしかない

なおも喋るのを止めない女を勝手にさせて 
ついに我慢ならなくなった丹羽は 勝手に膳に箸を付け始めた
このまま遠慮していたら 夜も白々と開けかねないし
せっかく用意された温かい肴も台無しだ
銚子を傾け とっとと手酌で酒を並々と猪口へ注ぎ始めた丹羽に
さすがに女将も気がついたのか 慌てて酌をしだしたのだった

「おおっ!!さすがに良い酒 出してんじゃねえか」

一口 口に含んで柔らかなのど越しを確かめるや否や
丹羽はくう~っ!!と唸りながら片膝を軽く叩き にんまりと口端を緩める

・・・これさえあれば 後はどうだっていいか~・・

早々に銚子を一本空にしながら 隣に控えているお歯黒に
丹羽は鷹揚に 顎でしゃくって次々と間を開けることなく酌を取らせた

人間界へやって来て こんなに好き勝手放題暮らしては居ても
丹羽は未だ 人間の女も男も抱く事は無かった

小さな頃から母を始め 身の周りに美しい女仙達が居たせいもあり
心が騒いでどうしようもない・・・と言う事にならなかったのだ
平たく言うなら 美形を見慣れ過ぎていて未だトキメキを
覚えるほどの人間に出会えていないと言う 他人が聞けば
幸せなんだか 不幸なんだか判断に困ると言う状況だった

遊郭へ遊びにいっても一晩中 豪快に酒と肴だけを喰らい 
決して肌を合わせる事を強要しないこの美形の若者に 
遊女達の方が焦れてしまう事もしばしばあったほどだ

もう一杯・・と口許に猪口を運んだ丹羽の耳に
華やかな鈴の音と笛太鼓のお囃子が部屋に聞こえてきた


しゃんしゃんしゃんと鳴る鈴は♪
天の誘いか 地獄の唄か~
開いた扉の向こうには 何が待つのかお楽しみ♪
さても 見事な花魁は 誉れも高い啓太太夫
さあ 御大尽 御大尽~♪

遠く離れた向こう側の大きな観音扉が 
ぎりぎり・・・・と唸りを上げながら開かれる 
大勢のお端を従えて来た所を見ると 
鈴菱楼一の名太夫と呼ばれるその人が現れたようだ

しゅるしゅると 色とりどりの反物が太夫の行く先を転がって
華やかな道中が出来あがり その上をしゃなりしゃなりと長く煌びやかな衣を
引きずりながら 客人の居る部屋の中央へ時間をかけて進んでくる

華やかな絹反物で出来た道には 異国の真っ赤な花びらがまかれ
むせ返るような強い薫りが立ち上り やがてそれはゆっくりと部屋中に広がって行った

天下の鈴菱楼の名太夫と呼ばれる位だったから
毒蜘蛛の様な妖艶な人物を想像していた丹羽だったが
段々と近づいてくるその人は まだ遠目にだが涼やかで幼くさえ見える

ふわふわと歩くたびに揺れる 明るい色の髪は綿毛のように柔らかそうで
もったいを付けて大きな扇で半分隠された顔には うっすらと化粧を施されたのか 
扇の要の隙間から時折り見える小さな唇は 遠目にも紅く艶やかだ
そして折れそうな程細い首も 長いまつ毛に縁取られた空色の瞳も
全て中性的で どこか危うげなのだ

儚げな両肩に掛かる やたらと重そうな衣の色は
どうやら太夫の瞳と同じ 空の蒼らしい
それは どこまでも晴れ渡った真っ青な空の中 光浴びながら
風に乗り自由気ままに流れて行く雲海が 細やかに見事に刺繍された代物だ

黒や赤 そして紫といった今まで見て来た多くの太夫が
好んで着ていた衣とは全く違う色使いの衣だったが 
実に涼やかで可憐なその容貌によく合っていると
物事に頓着しない丹羽にしては珍しく素直に感心しきりだった

散々と時間をかけて進んできた行列は 丹羽の前へとやっと到着して
従えた遊女達から仰々しく 奇妙な節回しを付けた口上が述べられた

「ようこそ!!鈴菱楼へおいで下さりました。
当 楼閣一の啓太太夫でございます。どうぞ 御贔屓に・・・・」

お仕着せの女将の口上も終わり ようやくゆっくりと顔を持ち上げた太夫の
その瞳の色に 丹羽は傾けていた盃に唇を付けたままそのまま固まってしまった

「!!!」

ざわざわと部屋が騒がしい
太夫の脇に控えていた他の遊女達はあからさまに眉をしかめ 
大見世 鈴菱楼の名太夫に驚くべき無礼な態度をとった一見の客人に 
皆 驚きと不快感を露わにして隠そうとしなかった

「へえ・・・・ホントの空の色だな・・・」

皆が驚くのも無理は無かった
丹羽は自分の前で これらから酒宴に登る挨拶を述べようとした太夫を
丸きり無視して立ち上がり 無遠慮に大股で近づいて行って 
その細い顎へと手をかけ 眼をまん丸にして驚いている太夫の顔を 
鼻先がくっ付く程間近で じろじろと覗き込んでいるのだ



・・・ああそうだ・・・これは雲海の向こう側の空の色だ・・・

どんなに下界が 大荒れの天候でも 雲海を抜けて出た先の空はいつだって
美しく澄んだ 蒼い蒼い世界が広がっていた

仙界と人界の狭間 
空気が薄くなり下界の塵が一つも届かない あの凛とした空と雲の境界線を 
変化した巨大な龍の姿で駆けるのが 丹羽は好きで堪らなかった

夜が明けたばかりのきらめく朝日の中 生まれたての真っ白な雲の上 
耳が痛くなるほどの静まり返った空気を破ってたった一人 
思いのままに どこまでも突き進むのだ 

気が付けば陽が高く登るまで その蒼い世界の中に身を置く事さえあった
龍の姿に変化して 遥か上空まで駆けあがらないと決して見る事叶わない
この心を捉えて離さないあの色が 今 自分の目の前にある

「・・・綺麗だなぁ・・・」

何だか やたらと喉が渇く
五月蠅いくらいにドキドキと脈打つ自分のこの心臓は 
一体どうしてしまったんだろうか?
ざわざわと胸あたりが騒がしくて 落ち付かない事この上ない
出来るなら今すぐにでも 変化して天空へ駆けあがり
四方の山々が震えるほど咆哮を 力一杯上げたい気分だ

・・・だが
そんな事は出来る訳がない
少しの我慢もならない性格の自分だったけれど いくらなんでも
こんなに多くの人眼の中で変化するにはいかなかった
一時の心の高ぶりで 今までの苦労を水泡に帰す事だけは避けたい

人界に下り立った時点で丹羽は 柄にもなく
今までの人生の中で断トツ一番の細心の注意を払って 
仙人である自分の力を極力抑制して過ごしていた

青龍一族は伊達に仙界の番人を名乗っている訳ではない
それは一族の血を濃く受け継ぐ 自分自身が良く判っている事だ
ほんの僅かでも 仙人の力を放出すれば
すぐに鼻の利く青龍の家の者に気がつかれて 即仙界へ連行
問答無用で あの退屈でカビ臭い世界へ強制送還だ


ほう・・・
と一つ 大きなため息をついて丹羽は太夫の細い顎からようやく手を離し 
きっとこれは 人界に降りて来た日以来 すっかりとご無沙汰している
あの大好きな蒼い世界を しばらく見ていないせいなんだろうと決めつけて 
この自分でも訳のわからない高まりを強引に片付ける事にしたようだ

周りの状況に一切関心を裂くことなく 鼻先をくっ付けていた太夫の
側からふいに離れて 用意された分厚い敷物に
また当然のようにどっかりと 腰を下ろした巨躯の若者に
尚も宴の席はざわついていた


・・・ぱんぱん!!・・
すると突然小気味良い音があがり 場が一瞬にして静まり返り
そこに 良く通る声が座敷に響き渡った

「さあ・・新しいお酒を早く・・・」

拍子を打ったのは 丹羽に顎を取られた太夫その人だった
太夫の合図で我に戻ったお端や遊女達が たちまち商売の顔に戻り
止まっていた風景は 今また華やかに艶やかに動き出し始めた

すぐに膳に真新しく別の銘柄の酒が用意され 
今度こそ定位置である丹羽の隣にはべった太夫は
その細い両の指で つい・・と優雅に銚子を傾けると
硝子の切り子の盃に並々と酒を注いでいく

「ささ・・どうぞ一献・・・」

小さくて艶やかな紅い唇がそっと囁き 丹羽に酒を勧めた

「あ?ああ・・・。」

さっきから目の前の高座敷では 唄や舞が披露されて 
なんとも賑々しく宴の場を盛り上げてくれていたが 
丹羽は隣にいる太夫が気になって仕方が無かった
あんなに楽しみにしていた珍しい酒の味も
何だかよく判らないまま 胃袋の中へどんどんと消えて行く


・・・・・太夫と一晩過ごせば皆 極楽へ行ける・・・・

お歯黒の女将の言葉が頭の中でぐるぐると回って 知らず喉がごくりとなる
今 横で次々酌をしてくれる太夫からは 妖艶のかけらも見つけられなかったけれど 
その可愛らしく涼やかな印象が 一体どんな風に裏切られるんだろうと
逆に想像が猛烈に掻き立てられて 宴に全く集中できないのだ

こくん・・と小首を傾げ 
あの大好きな空の蒼色の瞳で 上目づかいに悪戯っぽくほほ笑む 
その顔の何と愛らしい事だろうか

不意にまた咆哮を上げたい気分になった丹羽は
慌てて凝視していた太夫から目を逸らし 
注がれた酒を 口端からぼたぼたとこぼれてしまうのも構わず 
ぐいっと一気に煽ったのだった





丹羽会長は咆哮が良く似合うと思います(笑)
叫ぶ・・じゃなくてもっと動物的な「咆哮」ってのが。
感極まると何時だって「うおおおおおおお~っ」って言って欲しいじゅえる希望・・・でした。


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