ええ。小心者ですから・・・。

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悠遠夜話・番外編


悠遠夜話・番外編~王様の話~:::頭上の望月:::其の二

2010.12.13  *Edit 
▽TB[0]▽CO[0]

・・・・ったく~・・・これだから田舎者は困るんだよな~

華がほころぶ様な笑みを浮かべた啓太は
心の中でもう確実に 三度目の舌打ちをしていた

あんなに無礼な真似をされたのは初めてだ
生まれ育った故郷でさえ こんな礼儀知らずな扱いをされた事一度だって無い

ここ鈴菱楼は遊郭とは言え客層はごく一部に限られていた
場末の酒場兼遊郭みたいな 酒宴の席で酒を飲んで酩酊した客に
ただ好き勝手され泣き寝入り・・・なんて事は一切あり得なかったのだ

天下の楼閣の敷居を跨ぐ客人のほとんどは ジジイばかりで
最終的な目的は結局 場末の遊郭となんら変わりばえはなかったが 
富裕層や貴族達が大半を占めるそれらの者達は皆 
一様にその名も高き太夫をうやうやしく 崇める様にして扱ったし 
粋と礼儀を重んじて紳士的な態度を取る者が大半だった

だから今日のように 初見で挨拶の口上を述べる前にあろうことか
顎をすくわれ鼻先をくっ付けて 舐めるようにジロジロと品定めをされるなんて
全くもって考えられない事だったのだ

もう絶対に 一見の客なんて相手にしないぞっ・・・

本当に珍しく 急きょ取りやめになった上得意の客の酒宴の席
ぽっかりと出来てしまった暇な時間に啓太は
今夜はゆっくりと湯浴みでもして 温かい飲み物を飲みながら
読みかけの書物をおわらせてしまおうか・・・なんてのんびり構えていた
そこへ騒がしく自室の扉を開けた女将が 一見でやって来た客人の
宴の席の相手をして欲しいと訴えて来たのだ

随分と面倒くさかったけれど 他の太夫は誰も空いていないから是非とも頼むと
言われてしまえば 雇われている身としては「否」とは言いづらい

まあどうせ 酒をたらふく飲ませて琵琶を使って幻術をかけてやれば
一人 涎を垂らして眠っていてくれるから 
読みかけの書物をめくるのはそれからでいいか・・・
と思って安請け合いしたのがいけなかったらしい

若くて凄くイイ男なんだからぁ~ きっと太夫も気にいるよ~

なんて三日月みたいな目をしてにやにやしている女将に半ば呆れながら
座敷に登ってみれば 遠めに見える人物はなるほど確かに
この楼閣にやって来るには珍しい まだ若造と呼べるほどの青年だった

高位である太夫の接待は 本当に限られたごく一部の金持ち連中で 
そのほとんどが 腹の大きく出っ張ったオヤジや 
禿げあがったジジイどもばかりだったから
あの女将の眼にも一見で暖簾をくぐった若者が やたらと新鮮に見えたんだろう

それに相当な前金の量だったと鼻息を荒くして興奮していたから 
新しいカモ・・・いや客人の潤沢な金の匂いにつられ 今のうちに
どうにか上手く こちらの懐へ囲い込みたいと言う算段があったに違いない
その為には 手っ取り早く天下名だたる啓太太夫の虜にしてしまえばあとはもう
色に狂ったカモが勝手に通い詰めるから
女将は座って金が入るのを待っていればいいのだ

何と浅ましい・・・もとい・・・・逞しい商人魂だね~・・・

お端が播いた真っ赤な異国の花びらの上をゆっくりと歩きながら
啓太は 嬉しさのあまり小躍りして歌でも唄いだしそうな
一回り鼻の穴を大きくしている さっきの女将の顔を歩きながら思い出して
大仰な扇の下に顔を隠したまま そっと苦笑した

静々とお囃子に合わせて衣を引きづりながら 歩を進めて行けば 
噂の新しいカモは既に酒を口にしているようだ
それにしても この若さで天下の鈴菱楼の敷居を跨ぐなんて
何者なんだろうか?
まあどうせ どこかの王族の三男坊とか 
成りあがりの豪商の跡取り馬鹿息子とか まともな人間じゃない事は確かだ 
ここから遠目にだってありありと判る 
あの馬鹿みたいに派手派手しい衣に袖を通すなんて
全くもって 趣味と思考が疑われる証拠ではいか

確かに繊細な龍の刺繍は 大層美麗で 
それを施した技術はいかばかりの名手であるのかと感嘆するし 
深海の様な深い色合いの生地も 相当高価なものだと一目で判る 

・・・それにしても・・青龍・・・とはねえ・・・。

青龍と言えば仙界の四神将だ
絶大な能力と統率のとれた精鋭を抱え 天帝に命を捧げ生涯の忠誠を誓う
お硬い天空の番人ではないか

中空にその巨躯をうねらせ まっ黒な雷雲を呼び 光る稲妻を操る
長く鋭利な爪先は大地を深くえぐり取り 
その咆哮は山を粉砕し海を分けるとまことしやかに言われている

実際にこの目にした事はなくても 神とも崇めるその存在を 
いくら見栄えが良いからといっておいそれと 
気軽に衣に刺繍を施していいものではないだろうに
ましてや夜の欲望渦巻く花街に 信仰心のかけらもあったものではない
ジジイどもから幻術を使って 金を吸い取っている自分を
完全に棚に上げて 啓太は扇の要で隠した口許に
んべーーーーーっ!!と小さく 紅い舌を出したのだった

こんなのはさっさと酒を喰らわせて 一人眠ってもらうに限るよな~・・・
あ~・・・早く酔っ払ってくんないかな・・・

花街一の太夫は とっとと目の前に座るでかい客を床に蹴り飛ばし 
読みかけの書物をめくる事ばかりを考えながら 
やっとたどり着いた 大広間の高座若者の前に
煌びやかな衣の端をそそ・・と折って優美に座ったのだった
 
そうして いざ口上を述べようとした途端 
大きな手で顎をすくいとられたのだ

触れるほどに近くで見た目の前の青年は 存外目鼻立ちが整っていた

息がかなり酒臭かったけれど その身に纏った衣の色と同じ
深海の色をした瞳は いささかも酔ってはいない
それどころかまるで獲物を狙う獣のように 爛々と光り輝き
見ている者の身を絡め取ってしまうほど 深く強い力を宿していたのだ

・・・な!!何??・・・・

気のせいか ぐらり・・・と一瞬 座敷が揺らいだ様な気がした
のぞきこまれたまま その武骨な手を払う事も出来ずに
粗野で乱暴な客人のされるがままになっている自分に啓太は酷く戸惑った

「・・・綺麗だなぁ・・・」

ふと 呆けたような ため息交じりの低い声がぼそりと聞こえ
今まで獰悪な程に輝きを放っていた瞳の光がかき消えたと思ったら
目の前の男は 目の端をふにゃりと下げてにっかりと白い歯を見せて笑ったのだ

笑ったその顔はひどく人懐っこそうで さっきまでの人物とは思えないほどだ
途端 がんじがらめにされていた啓太の身体も呪縛を解かれたように
自由を取り戻した

・・・!!!・・・

しん・・と 静まり返り 掛け軸の絵のように固まってしまった酒宴の席を
もとの華やかな空気に戻したのは それが例えまがい物でも
天下の鈴菱楼の名太夫と呼ばれている矜持だ

未だ何となく痺れが残っている様な気がする指先に
ぐっと力を込めてから 啓太は拍子を打ち
お端の女達に新しい酒を用意するように声をかけたのだった

こんな礼儀知らずで趣味の悪い野暮天に 
好きなようにされるなんてまっぴらごめんだ

きっとさっきの変な出来事は気の所為に違いない
現に今 酌を勧める隣の男はさっきからずっと自分の事を
チラチラと厭らしい眼で見ているではないか
どうせ 遊郭に来る男どもの目的は一つ・・・
なら ご希望通り極楽に案内してやればいいだけの話だ
こんな図体ばかりでかい男は 絶対に早漏に決まってる
せいぜい一人で ヨガってな!! ばーか!!

低俗なこの男も 金が続いている間は大切なお客様なのだから
鼻息を荒くし 白目をむいて忘我の域を彷徨う間抜けな様子を
側で焼き菓子でも食べながら 眺めてやる位なら付き合ってやっても良い
そうして全財産をこの鈴菱楼へつぎ込んで とっとと路頭に迷えばいいのだ

「ささ・・どうぞ もう一献・・」

飛び切りの微笑みで 啓太はまた酒を丹羽に勧める
新しく用意させた銘柄の酒は遠く異国の地からの特別なものだ
清く澄んだその酒は 軽い飲み口に反してかなり度数が高い
小さな銚子を二本も開けたなら 突っ伏したまま高いびき間違いなしの代物なのだ

ここの所 大きな酒宴が続いていたから調子に乗って夜通し本を読み過ぎた 
この男を酔いつぶしたら 自分も少し横になって
ゆっくりと休養を取る事にしよう
そうしたら また明日から 元気になれるはずだ・・・

早く!!早く酔い潰れてしまえ!この野暮天~っ

そう強く念じながら こくん・・・と小首を傾げ
自分が一番可愛らしく見える角度でまたにっこりと微笑んで見せれば 
客人は思惑通り 一気に盃を煽ったのだった



・・・おかしい・・・

座敷で行われる余興も終わり、他の遊女や大勢のお端は
全員広間から退出してあんなに華やかだった座敷は静まり返っていた
いつもなら ほろ酔い加減の客人と扉一枚隔てた
豪奢で広くほの暗い寝所に二人っきりになり 寝台の上で尚も酒を勧めながら
自慢の琵琶を聞かせて術をかけ
はい!! 一丁上がり~!!・・・・の時間のはずだ

????・・・の・・・筈なのに・・・・????

目の前の男はあれから 次々と酒の銘柄をひっかえとっかえし
休みなく延々と飲み続けているにもかかわらず 
全く・・・さっぱり・・・引っくり返る様子が無い
持ってこさせた酒はみな 驚くほどの度数の筈なのに
酌をすれば満足そうに頷き 一滴も残さずに飲み干して行く様子に
啓太は半ば呆れかえっていた

「丹羽様・・お酒・・お強いんですね・・」

「ん?そうか?オヤジやオフクロに比べたら まだまだだけどな~」

「・・そ・・そうなんですか・・・」

「それよりも・・あんたも相当イケる口だろ?」

「・・はあ・・・まあ・・・」

ははっ!!いいねえ~・・そうこなくっちゃ!!
目の前の野暮天はそう言うと にっかりと大口を開けて笑い
自分がもっていた硝子の切り子を取りあげて 酒を勧めるのだ

ああ・・もう・・こうして一体どれくらい 
自分も酒を飲んでしまったんだろうか?

もともと啓太は酒には相当強い方で かなりの自信がある
見世に来るジジイ共には 今までだって一度も負けた事は無かったから 
飲む事に関しては 全く支障は無いのだけれど
目の前のほろ酔いもしていないこの男には 少々焦れてきていた

・・・っもう・・・時間がもったいないっつーの・・・
こうなったら、強硬手段に出るしかないか~

「ねえ・・丹羽様・・太夫の琵琶をお聞かせしとうございます。」

「おう!!やってくれ!!」

尚も手酌で酒を煽る丹羽をそのままに 啓太は側に立てかけてあった
琵琶を抱え込み 胡坐をかいて調弦しながら背筋を伸ばすと
すっ・・・・と息を吸い込んで寝台にだらしなく座って
こちらを見ている丹羽に 真っ直ぐに視線を合わせた


ゆあん ゆあん  と琵琶が啼き
この世にある華 全てを散らす
かくも悲しき弔い唄が 亡者の舟を彼岸へ運ぶ

ゆあん ゆあん  と琵琶が鳴り
この世にある華 全てを咲かす
崑崙山の女仙を招き 華の宴をいざ開かん いざ開かん
 


深くて豊かな琵琶の音が 啓太の声と共に閉ざされた寝所に
沁みる様に響き渡ったり やがて落ちてゆく

「・・・本当に・・女仙のような見事な腕前だな・・・」

口許の酒をすするのを止めた丹羽が うっとりとその音に
聞き惚れている様子をちらりと見て啓太は 更に琵琶をかき鳴らし続けた

震える弦の音は 時に高く 時に低く 
それは唄い そして嘆くのだ
共鳴が共鳴を呼び 部屋の壁にぶつかっては 跳ね返る
やがてそれは波紋となって 丹羽の身体にしっとりと纏わりついていった

ゆっくりと琵琶をかき鳴らす 啓太の空色の瞳は段々と明るさを増し
生まれたての太陽に照らされた 朝焼けの空色に近付いて行く
心の中で何度も 目の前に座る丹羽の精神の縛を唱えている所為だ

「ああ・・なんか・・すげぇ・・気持ちいいなぁ・・・」

・・・!!!あともう少し!!!!・・・

酔いがあまり回っていないから、術の利き目が心配だったけれど案の定だ
こんなにも極限まで力を高めて術をかけたのは 山を降りてから初めてだった 
渾身の力を持ってしてもこの男は ようやく堕ちかけていると言った所ではなか・・・
今まで こんなに手こずった相手は初めてだ

・・・早く!!・・・早く堕ちてしまえ―――!!!・・・

ゆあん・・・
と一つ大きく弦をかき鳴らした啓太は その響きに乗せて
更なる縛を丹羽へと放った
啓太の目にしか見えない術は もう僅かの隙間が無いほどに
丹羽の巨躯を絡め取っている
常人ならば夢どころか 既に遠く意識を飛ばしてしまっている筈だった

やがて 少しして丹羽の手からするりと盃が落ちて寝台を転がり
音もさせずに 床に敷かれた毛足の長い敷物の上に落ちていくと
丹羽の身体はゆっくりと華美な敷布へと前のめりに沈んでいったのだ

「―――――っはぁ―――――――!!!」

つ・・疲れたっ!!!!
啓太は巨躯が倒れるのを見届けると同時に 散々詰めていた息を大きく吐いた
頬は紅潮し 額にはうっすらと汗が滲んでいる
なかなか息が整わなくて 肩を上下させながらも
丁寧にそっと琵琶を元あった壁に立てかけさせた

それにしても 一体全体この男の神経はどんな太さなんだろう
恨めしげに小さく口を尖らせて 敷布へと前のめりのまま
動かなくなっている巨躯を啓太は振り返る

本当にこの野暮天は 神経まで動物並みに無礼に出来ているらしい
大きくため息をつきながら 啓太は重くて役立たずの煌びやかな上掛けを
床に放りだして 突っ伏したままの丹羽の肩に手を掛け
寝台から引きずり落とそうと試みるが 全くびくともしない
試しに 両足を踏ん張って蹴り落とそうとしても同じだった

「あーもう・・やだやだ・・・」

こんな失礼極まりない男の隣に寝るのは 物凄く気が滅入るけれど
寝台はこれ一台しかないなら仕方ない
本当はこの野暮天を床に放り捨てて 柔らかで気持ちのいい寝台に自分一人
ゆったりと眠りを貪ろうと思っていたのだけれど
動かせないのでは仕方ない ここは妥協するしかないらしい

幸い 天下の大見世 鈴菱楼の寝台は大人三人が両手両足を広げても
なお余りある広さだ 万が一この巨体が寝返りを打った所で
反対側に陣取っていれば然したる問題も起こらず 朝まで熟睡出来る事だろう

「・・ふぁ・・」

小さく伸びをしてからあくびをした啓太は ぽふぽふと柔らかな枕の形を整えて
丹羽が居る寝台の反対側の端の敷布へと潜り込み 
早々に穏やかな寝息を立て始めたのだった




あーあー
王様・・・啓太君の術に負けちゃった~・・・
・・・のかな???本当に・・・・



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