ええ。小心者ですから・・・。

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悠遠夜話・番外編


悠遠夜話・番外編~王様の話~:::雲間の居待月:::

2011.05.01  *Edit 
▽TB[0]▽CO[0]

「・・・・・・・はあ~・・・・」

わああ!!っと遊郭の高い天井に遊女達の黄色い歓声が上がり 
そのすぐ後に 拍手喝さいが起こった

思いきり深いため息を漏らした ぶすくれ顔の啓太の視線の先にあるのは
大勢の遊女達に囲まれたった今 大盃の酒を軽々と飲みほして
行儀悪く腕で口先を拭う大男だ

「・・・・はああああああ・・・・・」

広いお座敷ど真中 その大男 丹羽哲也を中心に
丸く陣形を組んだその塊りは 先刻からこの楼閣一の太夫そっちのけで 
大いに盛り上がりを見せている
啓太はその騒ぎから遠く離れ 半目でかなり疎ましげに
宴の中心人物をにらみながら一人 窓際に座りこんでいたのだ

その姿は薄化粧を施し 煌びやかな太夫の装束を粋にまとって
上客をもてなす準備は 万端整った様子だったが 
あの花がほころぶ様な笑顔がある筈の顔は 
実に陰気で 完全完璧にやる気なしだ

そうして又 ちらりと横目で丹羽を捉えて 
今日一体何度目になるか解らないため息を ゆっくりと腹の底から吐き出すのだった

こんな啓太の不機嫌の理由はたった一つ
大層自信のあった幻術を どこの誰とも素性の知らない唐変木に
いとも簡単に破られた挙句 手籠めにされて 好き勝手されてしまったからだ

それに 最重要点を付け加えるならば
啓太にとって あの夜の出来事は初めての体験だったのだから
落ち込むなと言う方がどうかしている

だが これまで幻術で太夫である自分の宴に上る
全ての客を騙くらかしていたから 
自分が丹羽にされた仕打ちに対して 誰にもなんの文句も言えはしないし
ましてや楼閣の者達に気づかれてもいけないのだ
太夫といえども 遊郭にこの身を置いているとなれば 
その身を開いて客人に与える・・・それが役割なのだから

思えば 啓太にとって大変迷惑な事に
あの悪夢の望月の日から 丹羽は三日と開けずに 
この鈴菱楼へと通い詰めて来ていた

ゆっくりと視線だけで窓の外を見上げてみれば 
早いもので あれから18日
月は すっかり居待月だ
心なしか 見上げたその面も寂しく見えるから不思議なものだ

「・・・・・姐さま・・」

「!!わわっ!!」

肩越しに急に声をかけられて 啓太はワタワタと手足をばたつかせた
いつも優雅で堂々とした太夫の姿からかけ離れたその仕草に
声をかけて来た啓太の妹分の若いお端がクスリ・・と笑みを漏らす

「どうなさりました?そんなお顔をして・・・?」

どうやら 丹羽を中心にした賑々しいその輪から 
たった一人 離れたままの啓太を心配して声をかけてくれたらしい

「えっ~と・・その・・。・・ちょっと外の空気が吸いたくなって・・」

そうですか?・・と少しだけ訝しげに啓太を見上げるが
すぐに視線を座敷の中心に向け うっとりした顔で夢心地で喋りはじめた

「ああ・・姐さまが羨ましいわ・・あんな素敵な旦那がお得意で・・・」

「は????」

啓太が素っ頓狂な声を上げてしまった事に 
お端は全く気が付きもせず 尚も流れる様に話を続ける

「だって・・ほかのお客は皆 爺ばかり
・・お金持ってぇ・・若くってぇ・・逞しくってぇ・・おまけに美形!!
他の太夫の姐さま達も みんな羨ましいって・・・
きっと お床の中でも素敵なんでしょうねぇ~ いいな~」

あの 太い腕に抱かれてみたぁ~い!!・・・なんて 
頬を色っぽく桃色に上気させて 
あろうことか 身体に自分の腕を巻き付かせながらくねくねし始めた
 
それを見た啓太は ただ空気を求める魚みたいに 
口をパクパクさせる事しか出来なかった

??美形??
??素敵??
??抱かれたい??
何??何言ってんの??
下品で 卑怯で 野暮で 
ケモノの間違いじゃないの~~~~~~~???
・・今だって 他の女に囲まれて すっかり鼻の下伸ばしてるしっ
あの 馬鹿面のどこが美形だって???

「・・えと・・・あの・・そうだね・・・ははははは・・・」

まさか 大切な客人をお端の前で罵倒する訳にも行かず
彼女がまだ丹羽の方を向いて 身体をくねらせている事を良いことに
啓太は 口端を著しく引きつらせたまま 
乾いた笑いをもらすしかなかった

「よう・・俺の話か~?」

「げっ!!」

「きゃああああ~んっ!!」

啓太の蛙を踏みつぶした様な声は どうやらすぐそばで上げられた
黄色い悲鳴のお陰で 宴を囲んだ他の者達の耳には届かなかったらしい 

啓太と若いお端 両方の腰を がっしりと囲い込んだ丹羽の太い腕が
二人を一気に抱き寄せる格好になる

「どうした?太夫・・そんな顔して 寂しかったか?」

そう言って丹羽は 甘えるように啓太の頬に鼻先を擦りつけたのだ

ひいいいいいいっっ!!
と声にしてはいけない声を 心の中で盛大にあげてから啓太は 
周りの者達に気がつかれないよう 
さり気なく自分の腰に廻された 太い丹羽の腕を拒絶しようと
満面の笑みを造ったまま 力一杯身をよじって逃れようとした

だがしかし 悲しいかな・・・
細い腰を捉えたその腕は 全く微動だにしない
それどころか 益々顔を近づけられて子犬の様にスリスリと懐かれる始末だ

「さあ・・・皆はお開きにしてくれ・・後は太夫と俺のお楽しみの時間だからな~」

そう言って右腕の中に居る啓太一人を 
ひょいと その肩口に荷をさらうように軽々と抱きあげれば 
座敷に居た他の遊女達に また羨望やら嫉妬やらが入り混じった歓声が上がるが
さっきまで憧れの旦那である丹羽に 腰に腕を廻されていた若いお端は 
早々に一人ほったらかしにされて かなり不満顔だ

「わりいな・・俺は太夫一筋なんだ」

そんなお端にむかい丹羽は ぱちりと片眼をつぶり笑って見せる
その様はまるで子供の様に無邪気な有様で 
どうやら一瞬でお端の機嫌を元通りにしてしまったようだ

その証拠に 未通女でもあるまいに
・・ぽっ・・っと頬を赤らめて
ああーん!!素敵~!!などと
さっきより更に くねくねしながら身悶えているではないか

「わわわっ!!ま・・待って・・・」

一方 啓太は大慌てで丹羽の腕の中 
まだ見せていない舞を披露したらどうか?とか
新しく異国から取り寄せた 珍しい酒を持って来てはどうか??等と 
宴の延長を声高に訴えるも どうやら誰も聞く耳は持っていないようだ

啓太としてはこの野獣の様な男と二人きりになる事だけは
避けたかったのだが どうした訳か丹羽が通い詰める様になってから 
僅かな期間しか経っていないと言うのに
この楼閣の人々は すっかりと丹羽と言う男に魅了され切っていたのだ
今では丹羽のその一言で 
場が仕切られるようにまでなっていたから堪らない

「では・・丹羽様どうぞごゆるりと太夫とお過ごし下さりませ・・・」

「じゃあ・・太夫・・今夜もたっぷり可愛がってもらうんだよ」

「では・・失礼いたします」

遊女やお端達は 口々に退室の言葉を述べて広い座敷から去って行き
さっきまで あんなに賑やかで騒がしかった宴の席は
最後の一人が座敷の大観音扉を閉めるのと同時に
たちまち しんと静まり返ってしまった

「・・・うう・・・みんな~・・・」

丹羽の肩口に高々と抱えられたまま 無情にも閉ざされた扉に 
目一杯伸ばされた啓太の腕が 力無く宙を彷徨う

「さてと・・・」

ぐったりと肩の上でしなびた啓太を まるっと無視して丹羽は
隣室に設えられた 豪奢な寝室へとずんずん歩いて行きながら
自分の顔のすぐ横にある 丸くて形の良い啓太の尻を一つ撫で上げた

「ぎゃーーーっ!!!」

「ちっ・・なんだよ・・色気ねえな・・」

舌打ちをしながら不平を洩らすも その表情は笑顔のまま 
鈴菱楼太夫のあり得ない失礼な言動を 別段気にも止めてはいないようだ

「降ろせっ!!降ろせったらっ!!この助平!!!」

「おいおい・・暴れんなって・・」

じたばたと大層元気よく両手両足をバタつかせる啓太をそのままに 
丹羽は苦も無く 楽々その歩を目的地へと進めて行く

「はい!到着~!!」

そう言ってまるで荷物みたいに
ぽん・・・と 寝台の上へと放り投げられたから
啓太は 手足がむなしく空を切る不格好な形のまま 
必要以上に柔らかでふかふかの寝台に 首元まで深くめり込んでしまった

「イタたた・・・・何すんだよっ!!唐変木っ!!野暮天!!」

「ったく・・ひでぇ言われようだな~ ・・・・」

沈み込んだ身体を起こしながら 尚も自分への謗りを続ける啓太に
丹羽は ポリポリと頬を指先で掻きながら苦笑いをしたまま
寝台の片端へとその身を乗り出した

「ふん・・」

楼閣の華美で豪奢な寝所の中 
その場に全くもって似つかわない 奇妙な沈黙が落ちて行く

啓太は視線をすっかりと明後日の方にむけ 完全に無視を決め込んでいるが
丹羽の方は 何がそんなに嬉しいのか 
満面の笑みを浮かべて そんな啓太の顔をじっと見つめたままだ

「・・・・・」

「・・・~~~~~~~~っ」

ついに長い沈黙とその視線に耐えられなくなったのは啓太の方だった

「な・・何?・・・こっち見るなっ!!助平っ・・」

「助平ねぇ・・・・いいじゃねえか・・別に 減るもんじゃ無し・・」

「!!」

丹羽に満面の笑みのまま ずいっ!!っと鼻先に詰め寄られた啓太は
不意をつかれて 堪らず後ろ手に倒れてしまった
だがもっと驚いたのは 自分の身体が倒れる瞬間
丹羽がその太い腕に啓太の細い腰を捉え 柔らかな寝具へ 
どっぷりと共に倒れ込んだ事だった

「んじゃ・・ご要望にお応えして助平な事するか?」

身に降りかかった危険を察知し 慌ててわめく啓太の真上には
ご馳走を前にした子共みたいに 舌なめずりをた丹羽が眼を輝かせている

「・・っ!!ちょ!!やだっ!!ご要望してませんてばっ!!」

細い顎に長い指先が掛かって 啓太の動きが完全に拘束される
丹羽の顔がどんどんと近づいて ついに唇が重なろうとするその時
耐えきれず啓太はその空色の瞳を ぎゅっと力一杯つぶった

判っている
力ではこの男に 到底敵いはしないのだ
このままいけば いつかのあの夜の様に
自由を奪われたまま 貪り喰われる様に好きにされてしまうかもしれない
不安と何か得体のしれないものが 背筋を駆け昇って来るのを啓太は感じていた

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」

だがしかし
いつまでたっても 想像していた行為は行われず
不思議に思った啓太は ついに片方だけそっと目を開けて見る事にした

「!!」

どくり・・
鼓動が 高く波打つ

啓太は 黒曜石の様な切れ長の瞳の中にいる自分を認めたのだ
丹羽はその唇が後わずかで触れる位置で 微動だにしない

そこには さっきまでのふざけた様子の丹羽の顔はなく 
ましてや以前に一度見た 情欲に滾る様子さえ伺えない
深く静かな瞳の色は どこか悲しげにさえ見え
つい どうしたのかと問いかけたい衝動にかられそうになる

「なあ・・啓太 お前が好きだ・・・」

「!!!」

また一つ 啓太の鼓動が波を打った

真っ直ぐに ただひたすらに 
自分だけが見つめられる その瞳の強い力に耐えきれず
それから逃れようと すぐにでも顔をそむけたいのに 
丹羽の 強くしなやかな指先がそれを許さない

「好きだ 好きだ 好きだ 好きだ 好きだ・・・・・・」

甘い低音が小さく囁かれ 次々と啓太へ降り注ぐ
それは とても苦しそうで酷く自信なさげにそっと 
吐息のように繰り返されるのだ



高熱に浮かされる様にして 紡がれ続けていた言葉が小さく消えた
やがて啓太と丹羽の間に わずかばかり残されていた空間がなくなって
そっと羽根の様に触れられていった唇は すぐに離れて行ってしまった

「・・・なあ啓太 お前が好きだ・・だからお前も俺を好きになれ・・」

そうしたら お前を抱く!!もう無茶苦茶に抱くっ!!
丹羽は急に大きな声でそう言ってから 発達した犬歯を見せて笑って見せ 
啓太の上から離れて行った瞳にはもう
さっきまでの暗い影はどこにも見当たらず いつもの輝きが戻って来ていた

「―――――す・・好きになる訳ないっ!!
・・・ばっばばばば馬鹿じゃないのっ??」

重なった唇に 一瞬
そう・・・ほんの一瞬だけ 
迂闊にも目を閉じそうになった自分に気付いた啓太は
丹羽の腕の中から弾けるように逃れ 唾を飛ばしながら
目の前の男へと否定の言葉を投げつけた

気が付けば 自分の左胸の鼓動が
ドクドクとせわしなく動いているのも 全くもって気にいらない

「お前は俺のもんだからな~・・ 」

嫌がる啓太の茶色の癖っ毛を 大きな手でわしわしと乱暴に撫でてから
その柔らかさを楽しむように 長い指先に巻き付けていた丹羽は
やおら立ち上がり寝所の窓を目一杯に開けて 桟に片足を掛けた

「じゃあな・・また来る。誰にも抱かれるんじゃねえぞ?」

丹羽は片手だけを上げ 啓太の方を振り向く事も無く
当たり前の様に 桟に掛けた足へと力を込めて
躊躇することなく窓の外へと 一気に跳躍をしたのだ


此処は天下の鈴菱楼の最上階 
この花街を一望できるほどの高さだったから
気易く飛び出しては打撲どころではすまない事は誰が見ても確かだ

啓太は 初めてそれを目にした時 
それはそれは驚いて 卒倒しそうになったものだが
今ではもうすっかり慣れっこになってしまっていた

のろのろと着物を引きずりながら 寝台からでて
さっきまで あの大きな背中あった窓際に向かい身を乗り出してみれば 
一体どうやって無事に着地するものやら
既に丹羽は 豆粒ほどの大きさになっていて 花街の雑踏の中に消えて行く所だった

「・・はあ・・・」

知らず 啓太の口からまた ため息が漏れ出る

実はこうやって 小さくなる丹羽の背を
見送ったのは今日が初めてではない
あの夜から あの男は啓太をけして抱こうとしなかったのだ

今夜の様に大勢で賑々しく宴を開き 皆を下がらせ二人っきりになってからは
渋る啓太に琵琶を弾かせたり 珍しい酒を飲んだりして朝まで時間を潰すか 
今みたいに窓から飛び降りて すぐに帰ってしまうかの
どちらかを 丹羽は律義に繰り返していた

つまりは
大枚を叩いて 鈴菱楼の太夫にひたすら『会いに来るだけ』なのだ
もちろん 楼閣の人間はそんな事とは知らずに
もうすっかりと花街一の名太夫に骨抜きにされている
と思い込んでいるのだが・・・


静まり返った寝所の中 
月光を浴びながら もうすっかりと見えなくなってしまった丹羽の姿を
見送ったまま 啓太は窓から離れられずにいた

指を伸ばしてそっと自分の唇に当てれば
嫌でも さっき遠慮がちに触れて行った唇の感触を思い出す

「・・馬鹿みたい・・・好きになる訳ないじゃないか・・・」

そう 小さく小さく誰に言うともなく言って啓太は 
きつく唇を噛みしめると ぴしゃりと窓を乱暴に閉めたのだった





「――――――ううううっ・・あぶねぇ あぶねぇ・・・」

大きな背中を珍しく不格好に丸めた丹羽は 
左肩に担いでいた酒瓶をぶんっと器用に一廻しして
さっきまでの事を思い出していた

今日も自分の想い人は大層可憐で美しかった
だけれど 甘い匂いを胸一杯に吸い込んでしまった瞬間 
またもや歯止めが利かなくなってしまいそうで 相当に危険だったのだ

「いや~・・マジで今日はヤバかった・・・」

その大きな手で自分の頬を 
ベシベシと乱暴に張りながら 気合いを入れ直し
これはもう 今夜は酒を浴びる程のんで 
無理やり寝るしかなさそうだと 雑踏の中を進んでいたが 
想い人の面影が頭をよぎる度 どうしたって 
だらしなくニヤつく顔を止める事が出来なかった

「!?」

不意にその広い背中が緊張し 背後に近付く見知った複数の気配を捉える

それは 千鳥足で歩く酔客や白粉臭い遊女でごった返す
雑多で陽気なこの通りに 全くもって似つかわしく無い殺気立ったものだ

丹羽は振り向きもせず すぐさま暗い路地へと横っ跳びに飛んだが
その様子に慌てる事も無く 複数の気配も丹羽の後を追って路地へと向かったのだ

「・・ちっ・・もう嗅ぎつけやがったのか・・・」

舌打ちした丹羽の肩に 担いでいた酒瓶がするりと地面へ滑って割れ 
破片が辺りに飛び散ると それを合図にしたかのように 
路地の暗闇から ゆらゆらと滲むようにして
一つ・・・また一つと影が浮かび上がってきた

浮かび上がった数はざっと十五
その姿は 頭の天辺からつま先まで黒一色の装束に身を包んでいて
皆が皆 衣の上からでも判るほど屈強な肉体を持っていた

「若 お迎えに上がりました」

丹羽の周りを取り囲んだ黒装束の中の一人が 
音も無く丹羽の前に歩み寄ると その膝元へと恭しく頭を垂れる 

「随分と素敵なお出迎えじゃねえか・・・」

「はい・・我々も 若の相手では必死になりませんと・・・」

丹羽は相変わらず突っ立ったままで かしずく男へ視線だけをくれ 
挑発的に にやりと笑ってみせるがその姿勢は微動だにしない


ぽたり・・・・と
丹羽の額から一筋の汗が滴り落ち 土へと滲んで消えて行く
その横顔は 幾分青ざめて見えた

丹羽は動かないのではなく 動けなかった
さっきから 黒装束集団が小さく唱え続けている言の葉は
その身体をがんじがらめにし その生命力あふれる躍動を許さなかったのだ

「なあ・・・見逃してくんねぇか?」

「そればかりは出来かねます」

「ケチケチすんじゃねえよ~」

「申し訳ございません」

「桃饅頭付けるぜ?」

「・・生憎 甘いモノは苦手ですので・・」

二人の間で 気易い会話がやり取りされる中 
後ろに控えている黒装束集団は 尚も呪縛の言の葉を一心不乱に唱え続けていたが
それは啓太の幻術など到底及びもしない程 強固で複雑な呪の言の葉であったのだ

「くっそ―っっ!!!」

「若 動いてはなりません」

「うるせぇっ!」

威嚇に似た叫びを一つ上げると ついに痺れを切らせた丹羽が拳を握り 
上腕二頭筋へと力を込めると その額には青筋が浮いてくる

呪縛を力任せに断ち切ろうと もがき始めた丹羽の様子を目にした男は
素早く立ち上がり 右手を軽く上げて
背後に控えていた黒装束集団へと何やら指図をした
すると 布陣がゆっくりと動き出して丹羽の周りを回り出したのだ
 
まるで無数の巨大な岩石が 積み上げられていくように
見えない力が 丹羽の身体を押し潰して行く

やがて 歯を食いしばり懸命に耐えていた丹羽の長い膝がついに折れ
終いには その両腕も地面に付いて四つん這いの形になってしまった

「離・・・・せっつてんだろ・・・」

無様に地面に這いつくばっても尚 その瞳の輝きは微塵も失われていない
それどころか 爛々と光を増し凶暴な色を濃くさせて行くのだ

「若!どうか大人しく!!」

「るせ―――っ!!黙って聞いてられっかよっ!!」

丹羽の咆哮に合わせて 黒装束集団の内の何人かが後方に吹っ飛んだ
するとたちまち陣形がみだれ 
呪縛の言の葉が途切れた事で丹羽のその身体には
僅かだが自由が戻って来ていた

丹羽はそれを逃すことなく 
四つん這いの姿勢から瞬時に跳ねあがり 戦闘態勢を整えた
その身体から放たれる見えない力によって
一人 また一人と黒い影達は 後方へと吹き飛ばされて行き
いつの間にか黒装束集団は すっかりと勢い付いた丹羽に じりじりと間合いを狭められ
完璧だった陣形は 千々に乱れていったのだ 

両者の形勢は逆転されたかのように見えた
丹羽自身も勝利を確信しかけたその時

「!!!」

丹羽が気配に気づいた瞬間 振りむく間も与えず
その途方も無い力は 屈強な身体を一瞬にして地面へとめり込ませたのだ

「―――っ・ぐはっっ」

臓腑に加えられる 急激な圧迫感に耐えきれず 
丹羽は 食道を逆流してくる胃液を口から吐き出した

ゆっくりと夜の海の波が引くように 黒装束集団の中央が割れ
道が作られると その後ろから低く威圧的な声の主が現れた
 
「面倒掛けやがって・・この馬鹿息子が・・・・」

その人物が現れると 集団は戦闘の布陣を解き 皆一斉に頭を垂れたから 
どうやら今 丹羽を羽交い絞めにしているのは
たった一人の人物の力によるものである事がうかがい知れる

尚も圧倒的な力が丹羽をギリギリと押さえ付け
地面に擦りつけられているその秀麗な顔が 一層歪む事になるが
一切容赦することなく それは続けられているのだ

「く・・そ・・オヤ・・ジ・・・」

急激に白く塗りつぶされていく意識の中 
何とか絞り出すように一言だけそう言うと 
ついに丹羽は 気を失ってしまった




うふん
丹羽父登場~(>_<)


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