ええ。小心者ですから・・・。

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


*Edit

臣嫁日和シリーズ


臣嫁日和番外編~奥さまの憂鬱~その2

2011.07.08  *Edit 
▽TB[0]▽CO[0]

・・・イライラする・・・
非常に 
猛烈に 
もうもう どうしようもなく
・・・イライラする・・・

おかしい・・・ほんのつい三時間前までは
あんなにも幸せ気分だったのに
どうしてこんな事になってしまったんだろう

アイランドキッチンの向こう側に広がる景色に
きいいいいいいいいいい―――――――――っ
と 奥様は濃紺のエプロンの端をギリギリと噛みしめていた






三時間前・・

『ピーンポーン・・・ピーンポーン・・・ピンポーン・・・』

・・・しつこい・・・

(まったく旦那様が起きてしまうじゃありませんか・・・)

深々と眉間にこれ以上ないほどしわが寄せられて
コメカミにびきびきと血管が浮き上がると ようやく
その美しい髪と同じ銀色の長いまつ毛がゆっくりと持ち上げられた

さっきからもう何度も鳴らされるインターホンの音が煩わしい
宅配業者ならとっくに諦めて不在票を入れ、早々に帰るだろうから
恐らくこれは誰か訪ねて来たのだろう
でも、奥様は判っていてさっきから無視を決め込んでいた
今日からの三連休は最近、いつも仕事で忙しい旦那様の貴重な休暇だ
たまにはどっぷりとずっぷりとラブラブで過ごしたい
よって来訪者など御免被りたい訳で・・・

早いとこインターホンの電源をぶっちぎり、
完全に居留守を使いたい所だが
奥様にはすぐに行動できない訳があったのだ 
その長い腕の中には今、パジャマを着たまま妻にアレコレと致され
またもやすっかりと疲労困憊した旦那様が、
すやすやと寝息を立てているのだ

くふ・・・くふふふ・・・
事後の心地よい倦怠感と旦那様のまだ甘い吐息の残る寝息
それを腕の中へと納め、うとうととまどろむこの極上の幸せ・・・
嗚呼、神様。僕は今、確実に世界一幸福です・・・

・・・ああ・・・でも・・・

ちょっとやそっとのことで目が覚める旦那様ではないけれど
さすがにこう騒がしいと、いい加減目覚めてしまうだろう
ついに奥様はそっと細心の注意を払って
旦那様の頭から自分の腕を抜いてベットから起き上がり、
インターホンのあるリビングへと足早に向かったのだった。

さすさす・・・と
未だ旦那様の頭の重みの感覚が残る二の腕を撫でながら、
リビングへ向かうほんの僅かな間に奥様は
さっきまでの旦那様の様子を牛の如く反芻する事にしたらしい
 
昨夜も相当やらかしてしまったから 
セーブしようと心に決めていた筈だったけれど
パジャマ姿で内股を擦り合わせ 
しかも目をうるるっとさせておねだり(←勝手な奥様目線)
なんかされてしまったら股間直撃だ(←アカラサマ過ぎ)
もうこれは口腔内の唾液が枯渇しようとも徹底的に
ご奉仕しなければ罰が当たるではないか(←どんだけ舐めた?)

それに、パジャマを着せたまま事に及んだのも
何だか背徳的で妙に盛り上がった
旦那様もいつも以上にいろんな所が大変な事になっていたから、
お気に召した事、うけあいだ
むふん・・と鼻を鳴らした奥様はさっきの旦那様の反応から
アレコレ応用出来そうな可能性と、今後の二人の夜の生活が
より一層充実しそうな予感に心から満足そうに微笑んだ

ああ・・・・
ホント―――――――――に僕の旦那様は可愛らしい(←しつこい)
両手をワキワキしながら、意味不明な身震いを一つ。

萌え萌えし過ぎて禿げあがるとは
日本語とはなんと言い得て妙なのだろう
もしそれが本当の話なら、このままでは短期間で若禿げ確実だが
この伊藤啓太の妻の座の価値に比べれば、
己の毛髪の価値など取るに足らないものだ
例え、つるぴかくんになってしまったとしても
我が人生に一片の悔いなしだ(←拳を高く上げ絶命)

それに僕の旦那様は大変に心優しいから、
決して容姿で人を判断したりしないだろう
例え僕が若禿げになってしまったとしても
変わらず僕の事を愛していると言ってくれるに違いない

まあ・・よしんば嫌がられたとしても、日本の増毛技術は世界屈指だ
元通りになる事など造作も無い事だろう

ああ・・優しい優しい旦那様
本当に僕は貴方の妻になれて幸せ者ですっ!!・・・
くすん・・・と嬉し涙にくれた奥様は、今日もまた自分勝手に
改めて旦那様との永遠の愛を心に誓うのだった

それにしても・・・

「・・ちっ」

奥様は旦那様の前では到底見せる事のない
真っ黒くて極悪な顔で盛大に舌打ちをした。
一体全体 夫婦水入らずの素敵な三連休を邪魔しに来た奴は誰なのか
いつもなら(←いつもやってんのか)
音量スイッチを切って完全に無視を決め込むのだけれど
この時、珍しくモニターのスイッチを押して確認しようとしたのは
やっぱり、奥様だって色々出し尽くしていたから
ほんの少しだけ疲れていたのかもしれない。

「はい。伊藤です。」

もし通りすがりのセールスマンだったりしたら 軽く呪ってやろうと、
薄笑いを浮かべたままモニターの画面を覗いた奥様の顔が
ピキ―ンと音を立てて凍りついた

「おっ~み~きゅーん♪」

「げっ!!」

凍りついた顔にびしばしとヒビが入り、
バラバラと床に落ちて行く錯覚に狩られたのは
モニター画面目一杯にその人物の満面の笑みが映し出されたからだった。

あまりにカメラに近寄り過ぎて、魚眼レンズからのぞいたみたいに
ぎゅわ~んと顔が歪んで見えるその人は、画面の中 
やけにニコニコと無駄に愛想を振りまき続けている

その美しい髪の色も、長いまつ毛も、年齢を除けば奥様と実によく似ていて
違いと言えば、奥様の左目の下にあるホクロが
彼の口許にある事くらいだった

ぶちっ・・・・!!!

奥様は秒速・・いや光速でモニターを消した
しかしいつも冷静沈着な奥様は どうやらかなり動揺していたらしく
音量の電源を切る事までには頭が回っていなかったようだ

「開けてよ~♪パパだよ~ん」

マイクロホンへやたら近づいて訴えられたその声は
モニターに映る整った顔立ちに似つかわしく無く、
呑気に間延びしている。
一向に空く気配のない階下のエントランスドアに痺れを切らしたのか
ピンポンピンポンピンポンとけたたましいコールまで連打され
それが大音量でリビングに響いていった

「い・・居ませんっ!!」

奥様は高校球児の如く大声で不在を宣言した
それから慌てて、忘れていた音量スイッチもぶっちぎり
ワタワタとどこからか大急ぎでガムテープを持って来て
災いの元凶である来客確認用モニターへ滅茶苦茶に重ね張りをしたのだ。
そうそれは、まるで悪霊を封印をするみたいに。

これでもか――――っ!!と、
こんもりとテープを張り終わった奥様は肩を大きく上下させて、
やっと止めていた呼吸をぜ~は~として空気を取り込んだ
その額には嫌な汗がふつふつと湧き出てきては留まり切れずに
もはや滝の様に流れ始めて来て、ついにじんわりと脇汗まで
シャツに滲んできた頃、奥さまはふと背後に注がれる視線に気が付いたのだった
 
ゆっくりと振り返れば、そこには愛する旦那様が立っているではないか。

「臣さん・・誰か来たんですか?」

「あ・・いえ・・誰も来てませんよ・・・」

いつものポーカーフェイスは一体どこへ行ってしまったんだろうか
奥様は額に汗したまま視線を完全に空中へと泳がせながら
実に下手くそな知らんぷりを通す事を決めたようだ。

「でも・・今 誰かと話してませんでした?」

明らかに疑いの眼差しを送る旦那様の質問に 
奥様はヘラヘラしながら明後日の方向を向いたまま答えた。
 
「あ・・・あ~・・セールスマンが・・」

「臣さん・・今・・誰も来てないって・・」

「!!ぅぅぇっと・・その・・」

うう・・!!
いつもなら、こんな簡単な旦那様の誘導尋問に引っかかる筈も無いのに。

「もうっ・・ちょっと どいてください」

「いや・・その・・」

「臣さん!!」

「・・は・・・い・・」

ついに痺れを切らした旦那様の声が少しだけ大きくなって、
びくり・・と小さく奥様の肩が震える。
そしてとうとうその長身で隠していたインターホンのモニター前を
旦那様に明け渡す羽目になってしまった。

ガムテープでぐるぐる巻きにされたモニターを見て『何これ!?』と
一瞬だけひるんだ旦那様だったけれど、
直ぐにその封印を解きにかかったようだ。
べりべりと何枚も旦那様のその手によって剥がされ
次々に丸められ床へ落とされて行くガムテープの屑を、
奥様は今はただもう、何処か虚ろな顔して眺めているだけだった。

「お~い!お~いぃ~!!」

やっと現れたスイッチを全てオンにして、
尚も画面部分にシツコク張られたテープを引っぺがす作業を続ける
旦那様の耳に来客の声が届いた。

「わっ!!お義父さんじゃないですか!!」

「OH!!その声は啓太!!わー!久しぶり~っ」

すみません!すぐに開けますね!と旦那様が
マンション一階ロビーにあるメインエントランスドアの解錠ボタンを
押しているすぐ下で、膝を抱えて体育座りをする奥様が、
梅雨時のナメクジみたいに陰気にぶつぶつ呟いた。

「・・・なーにが久しぶりなものですか・・」

そうだ。
なにが久しぶりなものか。
久しぶりって言うのは1年・・
いや・・5年ぶりくらい期間が空いてこそ使っていい単語だ。
それにしても・・・うう・・・
あの時、居留守を使っていれば・・・・

体育座りをしたまま奥様は、自分の父親の来訪に
ギリギリと親指の爪を噛みながら、その端正な顔立ちに
全く似つかわしく無い鼻水を、すん・・・とすすったのだった


ここ最近、旦那様は仕事が立て込んでいた。
今回のプロジェクトは海外の政府機関も巻き込んだ
随分と大きなものらしく、奥様もそのプロジェクトに賭ける
旦那様の意気込みと重要性を充分に判っていたから、
毎日お手製の愛妻弁当を作り、甲斐甲斐しく旦那様の体調管理に
万全を期していたのだ。
当然、夜のご奉仕も出来るだけ我慢を重ねて最小限にしていたし、
欲張って、もう少しだけ・・と奥様が盛り上がってみた所で
旦那様がそれを許してくれなかった。

奥様にとってはあまり面白くない状況が続いてはいたが、
心に密かな野望を抱く事で、なんとかやり過ごしていたのだ。

旦那様の携わるプロジェクトで
何らかの問題が起こる(←何故かコンピューター関係にて)
    ↓
プロジェクトが頓挫(←何故か都合よく)
    ↓
華々しく自分が問題解決(←あれ?)
    ↓
【プロジェクトが大成功】
    ↓
【旦那様大喜び】
    ↓
【素敵なご褒美をおねだり】 
の構図が当然の様に奥様の頭をよぎる

嗚呼・・・そうですねえ・・・
いつもは恥ずかしがって、なかなかしてくれない
あんなことやこんな事。うーん・・例えば・・・
・・・道具とか道具とか道具とか良いかもしれません(←結局限定)

♪だのに~な~ぜ~♪

小学校の時無理やり参加させられた林間学校で、
これまた嫌々臨む羽目になったキャンプファイヤーの前
同級生達と肩を組んで唄った歌のワンフレーズが奥様の頭をよぎる

全く嫌な気分の時は、総じて悪い記憶と重なるのはどうしてなんだろう
今はこんな事になるなら 例え、唯一の幼馴染である西園寺の
社会的信頼が地の底までおとしめられようと(←!!)
こんなプロジェクトなんて、始めから潰しておけばよかったと
後悔しきりの奥様なのだ

「すみません。お義父さん・・お待たせしちゃって。」

「ああ~良いんだよ啓太。はい!これお土産~」

「わっ!!これ並ばないと買えないんですよ!!」

「ふふ・・可愛い息子の為だもの。どうってことないさ」

スリッパの音をパタパタと鳴らしながら
玄関ホールから二人分の足音がリビングへと到着する。

そうして膝小僧の間に顔を埋めて、
体育座りのまま微動だにしない奥様の前を素通りして二人は
大きな窓から柔らかな日差しが差し込むリビングへ置いてある
ソファへと進んで行ったのだ


奥様の父親エリックはここの所、休日の日には二週間と空けずに
自分の息子の家へと遊びに来ていた。
さて、フランス在住のエリックがどうして此処に居るかと言うと
実は西園寺の会社が手掛けた海外の政府がらみのプロジェクト・・
その政府はフランスだったと言う訳で(←・・まあ今回はそんな設定で)

伝説の凄腕のハッカー・・『ウィザード』とも呼ばれた臣の父エリックは
今、政府情報機関お抱えのコンピューター技師だ
(↑という設定でひとつ・・)
その腕を買われて、セキュリティー部門の最高責任者を任されるまでになり、
随分と多忙な生活を送っているはずだった(←だからそんな設定)
本来なら、一企業である西園寺の会社とのプロジェクトなどに
気軽に参加できる身分では無かったはずだし、
第一、 彼にはそんな悠長な時間は皆無だ
だからそんな彼が一体どういった経緯を経て
日本の一企業である西園寺の会社とのプロジェクトに参加する事に
なったのかは甚だ疑問だったが、こうして来日し
精力的に仕事をこなしている事は紛れも無い事実だった。

奥様の計画を知ってか知らずか、
珍しく本気を出したらしいエリックの仕事っぷりは実に見事でそつがなく、
さすがの奥様も全く付けいる隙が無かったらしい(←付け入る気満々だったらしい)

やはりまだ父親の域には遠く及ばないらしい事を知った事(二割)と
思い描いていた激しくピンク色なオネダリの構図が崩れて行った事(八割)で
奥様はかなり落ち込んでいたのに、更に傷口に塩を塗るかのごとく
エリックは休日の度、今日みたいに伊藤家にやって来ては
奥様が言う所のどっぷりずっぷりのラブラブ生活に
水を差しまくっていたのだった。

こんな・・こんな事になるくらいなら・・・

奥様はぐぎぎぎぎ・・・と奥歯を噛みしめた。
ついでに握りこぶしにも力を込めてみる。
ここで腐っていても仕方がないのだ。

「じゃ・・今、お茶入れますね?お義父さんは紅茶でいいですか?」

「ああもう啓太。何度も言っているだろう?パパって呼んでおくれ?」

「・・・は・・はは・・」

「遠慮する事はないんだよ?さあ・・・パパと!」

「ちょっと待った!!遠慮して頂きたいのは貴方の方ですよっ!!」

ふんぬーーーーーーっ!!と鼻息を荒く吐いて
ついに奥様はじゃきーんと超合金ロボみたいに立ち上がったのだった。

「あ・・何?臣居たのぉ?」

カチンとくるもの言いに、
確実にエリックがけん制攻撃を仕掛けて来た事を知るが
イチイチ反応してなんかいられない・・・無視無視

「―――なっ!!居ますよ!ここは僕らの家です!!
そもそもなんですか貴方は!!
毎回、毎回、旦那様のお休みの日に非常識だと思わないんですか??
はっきり言いますが迷惑ですっ!!」

今まで我慢して来たけれどもうこれ以上、無理無理無理――っ!!
堪忍袋の緒が例えナイロンザイルで出来ていようと
既に限界、ぶっちぎれだ
旦那様との甘くとろける様な貴重な時間を
これ以上、一秒だってくれてやる訳にはいかないのだ。

言った!!とうとう言ってやった!!
とばかりコンピューターで敵わなかったヒステリーもだいぶ含め
ひと息に捲し立てた奥様を見た途端、父親であるエリックは
くるり・・・と回って大きくよろめいたのだ

「ごめんね・・啓太。君達二人の幸せな生活を邪魔する気なんて全然ないんだよ・・
ただ・・ただ僕はね・・ちょっぴりだけ寂しかったんだ・・随分と一人が長かったからね・・・
家に帰っても電気の付いていない部屋は何だか寒くてね・・ああ・・
僕は一人なんだと心の底から思うんだよ・・・」

気のせいか室内の照明が暗くなり、エリック一人に
スポットライトが当たったような錯覚に陥る
床へがくりと膝を落とし、何処からか寒々しい木枯らしが
吹き込んできたのはどうしてだろう??

(はん・・・しらじらしい・・・)

半目になった奥様の口端が著しく引きつって、ひくひくとうごめく
寂しいも何も、一日の大半を馬鹿みたいに仕事に費やしているのは
昔からの事だし、おまけにそれを好きでやっているから救いようがない
唯一結婚生活を送った自分の母親と別れて未だ一人身でいるのも、
沢山の恋人達の間を自由に行き来するためじゃないか。

それにフランスでもずっとホテル住まいだったから、
電気が付いているとかいないとか関係ないし、
おまけに時期的に考えて今は初夏。
寒さを感じるならば、速攻病院へ行った方がいいはずだ


いくらなんでもこんなに大げさで芝居がかったセリフが
旦那様に通用する筈は無い
後は早々にお帰り頂いて、晴れて二人きりちょっぴりだけ遅い
ラブラブランチにでも出かけようではないか!!

よよよ・・と涙にくれる(ように見える)中年男子を横目で見ながら
奥様はふんっ・・と鼻息を荒くして完全に勝利を確信した。

だから、次の瞬間に起こった出来事を目にしても
それを脳内でシナプス前細胞からシナプス後細胞へと
情報が伝達されるまでにかなりの時間を要する羽目になってしまった

「お義父さん!!寂しかったんですねぇ!!ずっと気が付かなくって
ごめんなさい!今夜はどうか泊っていってください!」

旦那様が猛烈なスピードで横を駆け抜けて、
涙でくれる(様に見える)義父の手を
がっしりと両手で取り優しく語りかけている

旦那様のその眼はどうしてか、うっすらと涙まで浮かんじゃっている

(はあああ――――――――――――――??)

奥様の顎が盛大に床に落ちた。
帰すどころかお泊り決定って・・・。

「ちょ・・ちょっと旦那様っ!!冗談ですよね?」

口から魂が半分飛び出しそうになったけれど、
ここは気絶なんかしている場合ではない。

「ええ??何でですか?臣さんの実のお父さんなんですよ?
家族なんですよ?今日は親孝行しちゃいましょうよ!」

ねっ!!臣さん!!そうしましょう!!
そう言った旦那様の一切の曇りのない笑顔がぺか―――――っと光る

悲しいかな、この笑顔に奥様は滅法弱かった。
それは、どこぞのちりめん問屋のおせっかい老人が持っている
印籠ばりの効き目で、もうそれを見てしまったなら土下座して、
額を地面にこすりつけ
うへ―――っ!
参りました―――――とするしかないのだ

だがしかし、今日の奥様は踏ん張った。
ここで踏ん張らなければ、この先にあるラブリースウィート時間にありつけないのだから

無条件で屈しそうになる自分の手足に、檄を飛ばして奮い立たせ
なんとか土下座の格好になる事だけは避けた
旦那様の可愛らしい顔を見てしまうと、もうもう何でも言う事を
聞きたくなってしまうので、あえて目を逸らしたまま、ぼそぼそ否を口にする

「ぼ・・僕は嫌です旦那様。」

「・・臣さん。どうしちゃったんですか?」

「だって・・旦那様も疲れていることですし・・」

「俺は大丈夫ですよ?だからね?」

「でも・・・これからお出かけを・・」

「ふふ・・それはまた今度のお休みにすればいいじゃないですか?」

「次のお休みまで、あのお店が潰れてしまったらどうするんですか?」

「もう!!臣さん!!こう言うのって大切な事なんですよ??」

幼い子供を諭すように辛抱強く説得していた旦那様の声が
段々と痺れを切らしてついに大きくなった
と、同時に、
それまで一切目を合わせようとしなかった奥様の両頬を
旦那様の両手がぐわっしと捉えて挟みこんで
ぐいと自分の側に引き寄せたのだ

「臣さん。どうしちゃったんですか?」

旦那様は奥様の額に自分の額をぐりぐりと擦りつけ
唇を尖らせながら、ぷう・・と頬を膨らませてかなりご立腹の様子だ

一瞬、奥様は何を討論していたのか忘れてしまいそうになった
鼻先にあるこの旦那様の可愛く突き出された唇を
今すぐ貪ってしまいたい衝動に駆られたのだ

うう・・・・
なんて可愛らしい・・・僕の旦那様・・・

結局、旦那様に最後の同意を求められた奥様は血の涙を流しながら、
そうしましょう・・・と力なく小さく呟く羽目になり、
ダメダメな自分を心底呪ったのだった

「って事ですから、お義父さん!どうかゆっくりして行って下さいね?」

「ありがとう!!ありがとう!啓太。僕は素敵な息子を持てて嬉しいよっ!!
本当に本当に臣は幸せ者だっ!!嗚呼!!啓太!!本当に君は素晴らしい~」

さっきまでしょぼくれていた中年男子エリックは
啓太の手を取ってブンブンとして、フォークダンスよろしくクルクル
回りながら、まだ茫然としている奥様を上からちらり・・と見ると
素敵親孝行計画をアレコレ思案している旦那様に見えないよう向き直り、
勝ち誇ったように、ふふん・・と笑って見せたのだ
笑って見せたのだ(大事なことなので2度・・・)

なっ!!!!!

全身に百八ある経絡秘孔のうちの一つを最終奥義で突かれた奥様は
身体中の毛孔から噴水の様に出血した

今この瞬間、奥様の脳内でカチリ・・・と音がして
緊急事態を知らせるサイレンがけたたましく鳴り響く

さっきの完全に自分を小馬鹿にしたようなあの顔・・・
旦那様への馴れ馴れしい態度・・
もう・・・・・これは・・・・・・
これは・・・・・・

(・・目的は・・・旦那様ですかぁぁぁぁぁぁ)


七条臣の98パーセントは伊藤啓太で出来ている。

恋は盲目・・・もとい愛は盲目、腐れ脳(←なんのこっちゃ)
どろんどろんと渦巻く陰気な瘴気を背中にしょって
ぎりぎりと下唇を噛みしめる奥様にさっぱり気付くことなく旦那様は、
素敵な親孝行実行中だ

「ささ・・お義父さん座って下さい!!肩でもお揉みしましょう」

「ああ。啓太、パパエリックって呼んでくれないか?」

「ええ?!・・・なんか恥ずかしいですよ~」

「さあさあ・・これも親孝行だよ?」

「うう・・えーっと・・わ・・解りました・・パパ・エリック/////////」

「ああ!!いいねぇ啓太!!私は幸せ者だよぅ」

「そうですかぁ??へへ・・・」

かくして物語は冒頭へと戻るのだ。

その日
奥様は度々吐血にむせびながら、終始お給仕役に徹したそうな。


このお話の続きは
『その男厄介につき』(こちら)へとつづきますー

::::::::;:::::::::;:::::::::;:::::::::;:::::::::;

最強はだあれ?


*Edit ▽TB[0]▽CO[0]

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。