ええ。小心者ですから・・・。

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その男厄介につき         ~臣父狂想曲~


その男厄介につき~臣父狂想曲~その3

2012.04.20  *Edit 
▽TB[0]▽CO[0]

今回のお話はエリックとその他オリキャラしか出てきません。
苦手な方はバックプリーズ\(~o~)/








首都の喧騒から遠く離れ、主要産業が主に酪農と農業と言う古き良き時代を
まだ多く残した田舎町にその施設はあった。

ここはフランス共和国。

最新設備を売りにした巨大プラント工場は、レタスやイチゴ、
パプリカなどを気まぐれな天候に左右される事無く一定量を保って、
かつ衛生的に生産できる実に画期的なシステムだった。
その工場立地の候補地になった事は、年々過疎化の進む小さな田舎町にとって
まさに天からの救いの手であったに違いない。
誘致計画は実を結び、町おこしを切に願う町長の目論見通り、
プラント工場への就職目当てで相当数の人口流入があったし、
なにしろ工場からの税収が莫大だった。
住民税と法人税の大幅UP。それに、なにやら政府主導の誘致計画と言う事で
各家庭に恐ろしい程の補助金も交付され、町の財政は未だかつてないほど潤う事になる。

たちまち街は活気を取り戻し、生活も右肩上がりの向上の一途をたどり、
あれ程陰気だった街中は華やかで浮ついた空気に変わっていた。
もう、生モノ相手の搾乳量や収穫量に一喜一憂する無く、
趣味程度に仕事をして暮らせばいいのだ。
まさにプラント工場様様だった。
だから時折り顔を合わせるプラントの工場長がやたらと事務的で、
酷く怜悧な印象だったとしてもそれは些細な事だったし、
実はプラント工場に出入りする者達全員が、例外無く町外からの移転者のみ
・・・と言う事にも皆が皆、気が付かない振りをした。

自分の知らない所で、得体の知れない何か大きな力が
動いている気がしないではないけれど、くだらない正義を振りかざした所で
腹は一杯にならないのを町の人間は知っていた。
町中、沈黙を守る事で有り余る恩恵を受ける方を選択したのだった。



件の巨大プラント工場の真下。
地中深くに、最新鋭の設備を備えた巨大な地下施設が息をひそめる様にして存在している。

地下最深部30階。
幾つものセキュリティを解除し、厳重な警備を抜けたそこに、
昼夜を問わず煌々と明かりがともり続け365日決して眠る事がないその部屋はある。

規則的に点滅する無数の光。
時折り幾つかのスピーカーから漏れ流れるのは世界中の言語。
液晶画面を見つめたまま、秒速で手元のキーボードをひたすらにタイプする人々は皆、
無機質な顔をして作業にあたっている。

見上げれば、広大なフロア全方向から見渡せる超大型液晶画面。
そこには遥か地球上空に打ち上げられている世界中の人工衛星を
追尾、完全データ化した映像が逐一映し出されていた。

「なあ・・チーフ、やたら上機嫌??」
「なんか・・・ときめいてるんだってさ。」
「はあ?この前までもう恋愛はたくさんだ~って騒いでたじゃん」
「今度は違うんだってさ。」
「・・・あっそ・・。」
「・・でトキメキパワーで溜まってた例の件・・完全攻略だって」
「うええ??マジかよっ!トキメキ万歳っ!!・・・でも・・・いつまで続くかな~」
「・・・さあねえ・・・。」

ひそひそと小声で会話する部下達を一向に介さず、彼は今、素敵なアフタヌーンティの真っ最中だ。

「♪~」

鼻歌交じりに作業する彼の前には他の者に設えられたそれよりも、
一際大きな液晶画面が、前方と左右にざっと10台。
それはもういっそ城壁と化して高くそびえ立っていた。

アプリケーションソフトを複数立ち上げたその画面一つ一つを、確実に見ているのか
見ていないのか不明なまま、彼はときおり紅茶を啜りながら思い出したように、キーボードを叩くのだ。
その様子はまるで、穏やかな午後の陽ざしの中、優雅にチェスを楽しみながら
アフタヌーンティを楽しむ紳士の風情そのものだった。



月光を集めた様な輝く銀髪、物憂げな菫色の瞳。
小さな黒子のある口許にカップを寄せて、芳しい紅茶をそっ・・・と啜る様は、
まるで中世に描かれた一幅の絵画の様に煌びやかで美しい。
その現実離れした美しさは、まさに美の女神の寵愛を一身に受けたとしか思えない。
彼は本当に、ただ、そこにあるだけで見る者全ての心をとらえて離さないのだ。

女神に愛された男の名はエリック・ジャンメール。
かつてはウィザードと呼ばれた程の腕を持つ世界屈指の天才ハッカーだ。
どんな難解なセキュリティシステムも彼の前では赤子の手をひねるが如く無力。
まさにコンピューターの申し子。天は確実に彼に二物を与えたもうたようだ。
そも、彼がかつてハッカーだった・・・と過去形なのには充分な意味がある。
今現在、彼はきちんとした定職についているからだ。


彼が所属するのはフランス共和国 国防省傘下、中央情報局。
此処は公然の秘密として運営される、国家利益の為だけに存在する機関だ。
冷戦時代も終わり、今や縮小傾向にある国防省傘下のしがない一部門・・・と
世間一般の多くの人々に思われがちだったが、それは完全な誤りだ。

テレビのチャンネルも核兵器も、小さなボタン一つで意のままに操作できるこの時代。
現在進行形でこの情報局は、軍事はもとより外交、政治経済、その他
ありとあらゆる省庁に多大なる影響力を持ち、絶大な権力の中心にあり続けていたのだ。
まさに此処はフランス国家の影の番人であると断言できた。
ただ、それを知る者はごく一握りの人間のみであったが。

けっして、表立って公にされる事はないがそんな職場に彼はいる。
「情報局技術開発部門 最高責任者」というのが彼の今の役職名だ。
攻撃は最大の防御なり・・・とは一体誰が言った言葉だろうか。
どんな難解なセキュリティもモノともしない彼を、逆手をとって
開発責任者に指名したフランス政府の人事裁量は確かに見事と言えるだろう。
まさか天才ハッカーが公僕となっているなどと誰が想像できようか。
ただ、それを本人が好むか好まざるかは抜きにしてだが。



**************************************************


・・・ふふふ。もう・・・困ちゃうなぁ・・・

芳しい紅茶の香りを胸一杯に吸い込んで、ゆっくりと嚥下すれば、
熱い液体が食道を下降していくのが判り、それはゆっくりと臓腑に染み渡っていく気がした。

困ったと言う割に、口端を僅かに持ち上げて微笑みさえ浮かべたエリックは
その長くしなやかな人さし指を顎に当てトントン・・と拍を刻んだ。
それは彼が思慮に深く沈んでいる時の決まった仕草だった。

少しでもあの夜の事を思い出せば、仕事中だと言うのに勝手に顔面括約筋が弛緩してくる。
小さく笑ったエリックは、もう何度脳内で再生したか判らないあの夜の出来ごとを又、
飽きもせず思い出すのだった。

そう、あの夜――――――。
つまりは息子の家にお泊まりしたあの夜のことだ。

仕事柄、滅多な事では動じない自信はあったのだけれど、その瞬間
全く自分を律し切れない状態だった事を思い出せば、
何故だかやたらと嬉しくなってくつくつと笑みが勝手にこぼれる。

ああ、ほんと。困った。困った・・・。






つい、さっきまで穏やかな笑みを湛えていた息子の旦那が(←紛らわしい)
急に涙目になって、俯いてしまったのだから正直、エリックは焦った。
大丈夫です・・と答えるが、そう言いながら息も絶え絶えなのだ。

その普通ではない様子に、無理に酒を勧め過ぎただろうか?と、自分の行動を猛省する。
息子から、もともと彼はそうアルコールに強くは無いと聞いていたけれど、
ふわふわと優しげなこの天使の様な笑顔を見る度、
なんだかひどく幸せな気持ちになってしまって、調子に乗ってしまったのかもしれないからだ。
それに、心根が非常に優しい義理の息子の事だ。(←実の息子と違って)
もしかすると、義父である自分の申し出を断り切れず、無理して付き合ってくれた確率もかなり高い。

だがしかし、急性アルール中毒にしては明らかに様子が変だった。
気のせいで無く、彼の吐き出すその吐息には、何故だか悩ましい熱が含まれているのだ。

・・・なんて顔をしてるんだ。君は・・・

彼のその姿を見た途端、背筋を駆けあがってくる知った感覚に、
エリックは言いようのない倒錯感を覚えて、ぶる・・・と一つ身震いをした。
知らず、息をするのも忘れて啓太に見入る。
地味で目立たないサナギから美しい蝶が羽化するが如く、
彼は刻一刻と驚くような変化を続けているのだ。

いつもはふわふわと綿菓子の様に優しげで、可憐な印象しか受けないのに、
今、自分の目の前に居る彼は、妖しく匂い立つような色気を纏う。

清廉に見えて、淫猥。
淫猥に見えて純真無垢。
ひとたび、肌を合わせればいくらでも乱れそうなしなやかなその肢体。

それらは確実に大脳旧皮質を刺激し、原始の雄の部分を強引に目覚めさせる。
男ならば誰でも、思うがまま己を刻み付けてしまいたくなるような
焼けつくような焦燥感を煽られ、エリックは、ごくり・・・と音を立てて喉を上下させた。

ここがどこなのか、
そして目の前の人物が一体誰なのか・・・
さっきから痛いほど、どくどくと脈打つのははたして心臓なのか。
それとも・・・。

一瞬頭が真っ白になった気がして、目眩を覚えたエリックは、
ふらふらと花の蜜に誘われた蝶のように歩を進め、あろうことか
実の息子の伴侶に手を伸ばしてしまった。

その柔らかそうな肌に触れてみたい。
ほんの少しで良いから・・・。
それはもう随分と長い間忘れていた、焼けつく様な欲求。



「いえ・・あのっ!一人で平気ですからっ!!」

だがしかし、まさに一刀両断。
その瞬間、彼の周りを取り囲む見えない何かにぱちりと弾かれる様な気配さえして、
エリックは伸ばしたその手を慌ててひっこめた。
途端、何とも言えない高揚感にエリックは胸を支配される。
己の望みが叶わなかったにも関わらず、だ。

手ごわいねえ・・・。でも、それが堪らないかも・・・

・・・・・・って・・・・
ああもうっ!!!!まただ・・・。
そのせいで、今、私は日本に居るんじゃないか・・・。

唐突に自分が来日する羽目になった原因を思い出したエリックは、
頭から冷水を浴びせられたような気がした。
さっきまで熱に浮かされていたような桃色の思考が急速に冴えてくれば、
遥か遠くへと旅立とうとしていた理性も大急ぎで戻って来る。

・・・・あーあ・・・。
ひょっとしなくても、私ってダメダメかも・・・。

すっかりと正気を取り戻して、ふう・・・と小さく息を吐けば、途端に不甲斐なくなってくる。
きっと今、自分は相当おかしな顔をしているに違いない。
そんな所をやっぱり啓太にだけは見せたくなくて、エリックは顔半分を手で隠し、
そうかい?くれぐれも無理しない様にね?と、モソモソと言い残すと一人キッチンを後にしたのだった。



エリック・ジャンメールの両手に数えて余る恋人達は、個性が強く、
皆、性に貪欲で肉感的な者達ばかりだった。
故に、啓太の様に腕に抱え込んでぐりぐりと撫でくり回したい程可愛いらしくて、
天然記念物並みに純情な人物など皆無だ。

会いたい時に会い、食事をしたり欲望のまま肌を合わせたりする。
その日の気分次第で洋服を変える様に、恋人も代えるのだ。
面倒な駆け引きは不要。
来る者は拒まず、去る者は追わず・・・。
もちろん、あからさまな嫉妬や、窮屈な束縛はNG。の、はずだった。
が、どうやら、女神に愛された男も人の思惑までは思い通りにいかなかったらしい。

気楽で後腐れのない大人の関係を望み、
それを了承した人物だけを選んで交際して来たつもりのエリックだったが、
段々と恋人達は変貌を見せ始めた。
皆がみな、いつの間にか彼の見目麗しい容姿と、
今ある地位や富に固執し恋人の特別な一人でありたいと必死になり始めたのだ。
もちろん、恋人の心を一人占めしたいと思うのは至極当然の事で
古今東西、今も昔も世の常だろう。
だがそれは、エリック・ジャンメールと言う男にとってハタ迷惑以外のなにものでもなかった。

近頃ではいつだって、血走った眼で自分を見つめる恋人達の、なんというか、
獣のような猛々しさに少々疲労感さえ覚えて、外出するのも億劫になって来ていたほどだ。


あーあ・・・みんなもう少し軽~く考えれば良いのに。
何で、こんなに面倒なのかなぁ・・・・。
・・・そうだ!!いっそのこと、皆とお別れしちゃおうか?
これからの人生は、一人で生きてくっていうのもなかなかカッコいいじゃない?
うーん・・・でもなぁ・・・。それじゃお坊さんみたいだし?

決定的な打開策も見いだせぬまま、鬱々とした毎日を過ごしていたそんなある日。
エリックの耳に、日本から持ち込まれたと言う一つの話が入った。
それは、日仏で共同出資し合弁会社を設立するという話だ。
日本屈指の大コンツェルンある鈴菱グループとフランス政府が提携し、
次世代型エネルギー開発を行うと言う。


別段、その共同開発話は情報局に直に持ち込まれた物では無く、
外務省を通して通産省の下層部へと廻される話だったはずなのだが、
どうしてかその日、鼻歌交じりに早退する情報局技術開発部門・最高責任者の姿があった。

・・・うんうん。少し時間と距離を置けば、彼らも
冷静さを取り戻してくれるかもしれないし・・・?
・・・ってゆーか冷めてくれ。頼む。
それにここの所、しばらく臣達とも合ってないしね。丁度良かったぁ。
ふふふ。日本っ♪日本っ♪久しぶり~♪
待っててね~!!今、行くよぉ~っ銀座に歌舞伎町~!!

どうやら世紀の天才は、人格的に少々(!?)問題があるらしかった。
だが意思決定をするや否や、彼は寸分のブレも無く怒涛の行動に出る。
本来なら軽々しく海外へ渡航する事すら許されない立場に居る筈のエリックが、
スキップして早退した翌日には、政府専用機のコンコルドをチャーターし羽田に単身乗り付けていた。
ちなみに誰にも頼まれていないのに、だ。

当然、彼が空港ゲートをくぐる前にフランス官邸側から彼に
即刻帰国の命令が下るが、どう言う訳かそのきっかり1時間後には帰国命令が完全撤回された。
更には、例の開発プロジェクトのフランス政府側責任者の地位に
いつの間にか任命されており、翌日行われた公開レセプション中継には、
すました顔をして若き鈴菱総帥と握手を交わしていたという。

これぞまさしくエリック・ジャンメールが女神のウィザードたるゆえん。
彼が常に小脇に携帯している小型端末は本当に、何でも願いを叶えてくれる魔法の小箱なのだ。
さて、ウィザードが使うその魔法。
神秘なる白魔術か、イカガワシイ黒魔術かは多分に不明だが。





************************************************************


「・・・ック・・・・・エリック・ジャンメール!!なにを呆けている!!」

しなやかで長い指を顎につけたまま、仕事中だと言うのにそれはそれは美しく
堂々とぼーっとしている「情報局技術開発部門・最高責任者」を一喝する声がフロア中に響いた。

「失礼な。呆けてなんかいませんよぉ・・。プログラムの構築中です。
あぁ~もう・・忙しい忙しい。」

―――――嘘つけ。
その場に居た誰もがそう思ったが、それを口にした者はただ一人。

「嘘も大概にしろっ!!第一ここで飲食は禁止のはずだ。機器にさし障る。
それから襟をだらしなく解放するなと何度言ったら判るんだ?部下に示しがつかんだろう!?!!」

まくしたてる様に言う軍人特融の怒声が、エリックの頭の上から容赦なく注がれた。
その瞬間、そこに居た誰もが肩をすくめながらやれやれといった顔をして、
この、毎度おなじみとなった二人の対峙に、完全なる傍観者を決め込んだようだ。


のんびりと午後の紅茶を楽しむ紳士と、僅かの隙も無く直立不動のまま激怒するこの二人。
つまりは情報局技術開発部門・最高責任者と情報局統括責任者(長くてごめん)
の彼らは全くもってそりが合わなかった。

呑気でマイペースな世紀の天才と、つい最近、情報局に配属されたばかりの
金太郎飴みたいに切っても切っても軍人印の超堅物で有名な責任者である統括は、
人間と言うカテゴリーが一緒くらいで、後はもう何も共通点が無い。
完全に両極に位置する彼らは、決して譲らず歩み寄ろうとしないのだ。
だから、いつだって顔を合わせれば、何かしらの諍いが起こるに決まっている。

まあ普通なら、技術屋であるエリックが雇用先の責任者に謙るのが
常なのだろうが、言うまでも無く孤高の天才は普通じゃない。
その証拠に歴代の責任者達は皆揃って、この天才に随分と手を焼き、
短期間で職場を後にして行ったという黒い歴史がある。
それらは表向き、一応は栄転と言う形の辞令になってはいるが、
彼らが今でも胃薬を手放せない体質になったのは確実にエリックの所為なのだ。

奔放にふるまう天才の所業に耐えきれず、歴代の統括達は一人の例外なく、
彼の解雇を求めた。だがしかし、上層部の答えはいつだって「否」のただ一つ。
人格的に多少(・・・いやかなり?)問題はあっても、
もはや一国の財産とも呼べるその類いまれなる才を利用する事に重きを置いたのだ。
それに、エリックを野に放せば確実に自国の脅威となる事は目に見えている。
ならば公僕として飼いならす方が幾分ましと考え、多少の犠牲は良しとしたようだ。

しかしながら、「多少の犠牲」という名の生贄に捧げられた側は堪ったもんじゃない。
中央情報局に居る、天才困ったちゃんの噂はあっという間に省庁中に広がり、
ついには誰も情報局責任者の椅子に座る事を拒否し始めてしまった。

このままでは番人の機能が停滞しかねない。
上層部がやっとその重い腰を上げたのは本当につい最近の出来事だ。

世紀のウィザードを思うがまま番人が使役できるように。
まさしくそれは、毒を以て毒を制す人事。

情報局の黒歴史を払拭すべく、投下された新統括は、歴代最年少で幹部候補となり
エリート街道を爆進中の人物であった。
エリックよりも一回りほど若いが、なによりも規律を重んじ、
怠惰を憎む彼の着任当初の第一声は「公僕であるならば国の為に死んでも尚、働き続けよ」である。
生粋の軍人でかなりの切れ者と名高い彼の、並々ならぬ矜持と意気込みに職員達は一斉に震えあがった。
たった一人、女神のウィザードを除いては。


エリックに唯一対抗できるであろう最終にして最強の人事は、
上層部の目論見通り、今現在は、どうやら功を奏しているようだ。
だから今日も今日とて、二人の不毛な諍いは続く。

「身支度を整えろ。今、すぐにだ!!」

「はあ・・・だって息苦しいんだよぉこの制服。少し開けるくらい良いじゃない? 」

怒声などまるで聞こえていないかのように、ふぁ・・・と
小さなあくびさえ漏らしたエリックは、だらしなく緩めていたネクタイとシャツの襟元に、
長くしなやかな指をかけまた更に開け放した。
シャツの襟元が大きくはだけて首筋から、鎖骨までもが露わになる。

「!!//////////////////」

恐らく、本人は完全に無意識でやっているあろうその行為は、
何故だかやたらと性的で、そりゃもう様々な妄想を駆り立てられる。
お色気ダダ漏れ中年に対してあまり免疫のない、比較的若い職員などは
見ただけであっという間に耳まで赤面してしまった程だ。

途端、鬼の様な形相でエリックを睨む局長の額に、
ビキビキと血管が浮き上がる音がフロア中に聞こえたような気がした。
見る間に怒りの飽和状態を越えた統括は、ぶるぶると震える拳を握りしめ、大きく肺に吸気した。
自然、フロア中にいた誰もが来る災害に備え、肩を小さく竦めさせる。

次の瞬間、大方の予想を裏切り聞こえてきたのは
大音量の喝では無くエリックの呑気な声だ。

「あ、ほらほら、大変。君も窒息死しちゃうよ?」

「??」

統括の目の前で銀髪の悪魔が、ねぇ?なんて同意を求める様にして、にこりとほほ笑んだ。
その菫色の瞳にいたずらな光が宿って見えたのは気のせいでは無い。

それは一体どうやったのか。

いつの間にか彼の鼻先まで伸ばされていたエリックのしなやかな指先は、
軍服の高く固い詰襟に軽く触れたか思うと、ぱちんっ・・・と、
いっそ軽やかな音さえして、さっきまで閉ざされていた襟元が難なく開かれたのだ。
禁欲的な濃紺の軍服と開放的な白いシャツのコントラストが妙に艶めかしく目に映る。
当人が己の襟元で弾けて鳴った音と、その解放感に気付くまで、コンマ005秒。

「??――――っっ」

ぱくりと開かれた胸元と、にっこりと効果音付きで笑う悪魔、
そしてあんぐりと口を開けたまま固まっているギャラリーの面々を
見比べた統括の顔の色が、赤から青へ高速で変わっていく。

「なっ・・・・!!!」

やがてすべての血色を失くし、ついに土気色になった所で統括は、
からからに乾き切った唇からやっとの事で声を絞り出した。

「ェ・・・・エリック・ジャンメール・・貴・・・様・・・。」

開かれた己の襟元を強く握りしめたままの指先は、小刻みに震え白く濁る。
覚えてろ・・・。と呻くように言った語尾が小さく消えて行く。

やがて、よろよろと相当に覚束ない足取りのまま、
頭やら膝小僧やらを壁に盛大にぶつけながら中央情報局を後にする
統括の後姿を見送った所で漸く、相変わらず口を開けたままのフロアの面々は、我に返った。

「~♪」

鼻歌に振り返れば、エリックはとっくにアフタヌーンティの続きを開始したようで、
どこから取り出したものか、スウィーツらしきものを口へと運んでいる。

「ねえ。みんなもお休みしたら?」

美しい顔の横にティーカップを掲げ、この上もなく妖艶に微笑んだ技術開発責任者に
ひいっ!!と小さく悲鳴を洩らした職員一同は、ぶんぶんと顔を横に振ってから
中断していた業務を再開すべく、わたわたとフロア中に散って行った。
一人の例外なく、己の胸元をキツク握りしめて。

それから、氏の優雅なティータイムは実に小一時間ほど続いたのだった。








うふふ。恐らく、職員一同が思った事。
それは「絶~対に軍関係の恋人いるだろっ!!!」ですね(笑)


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