ええ。小心者ですから・・・。

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悠遠夜話・番外編


悠遠夜話:中嶋さんの場合 その1(再掲載)

2012.10.18  *Edit 
▽TB[0]▽CO[0]

悠遠夜話:番外編


以前拍手にあげていたモノを見やすく修正しております。
内容は変わっておりません(>_<)





中嶋さんの場合 
その1 ~二人のはじまり~


ああ・・・また死体の焼ける匂いか・・・・

荒涼とした焼け野原に転がる、これは手なのか足なのか。
風に運ばれてくるのは、硝煙のきつい匂いと焼け焦げた髪の毛の匂い。
赤黒くただれたような一面の焼け野原は、判別がしがたい死体ばかりが累々と
折り重なる様にして放置されたままだ。

それはやがて餓えた動物たちに咬み千切られ、そして雨が降り、風が吹き、 
太陽に照らされ腐って、残った骨や皮も虫に喰われ土に還って行くのだろう。

草も木も・・又 薙ぎ払われてしまったな・・・
愚かな事だ・・・回復するのに一体 何年かかると思っているんだ・・・

ふう・・・と呼気を一つ吐きだして氷の様な眼差しを持つ。
その背の高い男は長い脚を折り、地面へとそっと跪いてから
両手を地面へと這わせ優しく撫でさすると、その薄い形の良い唇でそっと何事か囁いた。
まるでそれは、そう・・・愛しい恋人へ贈られる睦言の様で
気のせいか、その時だけ冷え切った瞳が一瞬和らいだかのようにみえた。

見えない力が男の手から注がれ、やがて大地は微弱に振動を始めた。
それは男を中心に波紋をつくり外側へ外側へと広がってゆく。

「・・・そうだ・・いい子だな・・なに・・
いつも通りで構わん・・・好きにしろ・・・・」

音無き音が大地から空中へ共鳴するように発せられ、びりびりと空気が振動をする。
だがそれはほんのわずかな間で、やがて何事も無かったかのように全てが収束し
あっという間に焼け野原は静寂を取り戻したのだった。

男は黒い影を引きずって、ゆらりと立ち上がると
鼻先に掛る靉靆(あいたい=眼鏡の古語)を長い人差し指で
つい・・と直し、まだ辛うじて緑色が残っている背後に広がる森を指し
大きく歩を進めて行った。


ここもか・・・・

分け入った森の木々はことごとく倒れ、所々草原が抉られて赤黒い土が見えている。
簡素な造りの住居はすでに燃え尽き、あとかたも無くなってしまって、 
男の視界に映る範囲で動いている物と言えば、未だ燻っている白い煙くらいなものだった。 

・・・全滅だな・・・・

自分が来た時期が、一足も二足も遅かった事に気が付いた男だったが、
別段表情を変える事無く、今来た道をさっさと戻ろうと踵を返そうとした。
その時。
ぐい・・・と不意に自分の衣の裾を強く引かれ、導かれる様にして足元を見てみれば 
がれきの下から伸びた細くて青白い手が、その裾をぎちりと掴んでいるのが目に映った。

「・・・。」

片眉を上げ、怪訝な顔つきでその手を少し眺めてから男は、
酷く面倒くさそうに、緩慢な動きで左手を肩の高さまで挙げた。

不思議な事に男が手をかざしただけで、瓦礫全てが波引くように
足元から遠ざかって行く。
刻々とその下に埋まってしまっているものが見えて来きた。
それはどうやら、まだ若い女のようであった。

頭部や腹部から激しく出血し、その色はすでにどす黒く変色し始めていたから
重傷を負ってかなりの時間が経っている事がすぐ判る。
顔面はすでに蒼白で、吐血で汚れたらしい唇の色はもう無いに等しい。
女は突然に開けた視界に眩しいのか、何度か目を瞬かせ、やがて焦点があったのだろう
太陽を背後にして立つ影を見上げると、ほっと安堵した様な表情をして見せた。
そして最後の力を振り絞る様に、震える片腕を伸ばしてその男の名を呼んだのだ。

「ああ・・・玄武様・・・この子を・・どうか・・この子をお助け下さいませ」

女が胸にきつく抱く腕を解くとその中には、まだ年端もいかない
小さな子供が包み込まれていた。
気を失っているのか、はたまた眠っているのか子供はピクリとも動かない。
もしかしたらもうすでに、息絶えているのかもしれなかった。

血みどろの女の腕から男の元へと、その小さな塊りが手渡されると、
女はにこり・・と儚くほほ笑み、 愛し子の名を微かに小さく呼ぶ。 
やがてゆるゆると瞳が閉じられて、限度いっぱいに伸ばされていたその手は
ぱさりとわずかばかりの音を立て、瓦礫の上へ落とされて行った。

玄武と呼ばれたその男の腕の中に託された塊りを、良く良く見てみれば
腹を規則的に上下にしていて、まだ息がある事が判る。
どうやら大した怪我も無い様だと判るのは、埃だらけではあるが
血色の良いまろやかな頬が、それを証明してくれるからだ。
おそらくは気を失い深く眠っているだけなのだろう。
すっかりと土と血に汚れて、所々束になってしまった明るい茶色の髪は 
元気良く方々を向いている。
手足を縮め、丸くなり己を守る様にして塊りは
呼吸を繰り返して懸命に生命を紡いでいるのだ。
恐らくはこの幼子が、この森に生きた一族の最後の一人になってしまうのだろう。



彼ら一族の風貌は酷く特徴的だった。
男の大きな腕に包まれる様にして抱かれた、その小さな塊りの頭のてっぺんからは
髪の毛と同じ色の柔らかな毛で覆われた長く大きい耳が伸びている。

・・・最後の・・長耳族か・・

自然を慈しみ、争いを嫌い、人外の身でありながら無謀にも
人間との共存に心砕いた一族。
その美しい容姿と、類稀なる慈愛の精神を持ち合わせた彼らは 
人間に狩られ続けながら尚も、人間界にとどまり続けた崇高な魂の一族。

愚かな事だな・・・・ 

それは一体。 
人間に向けて発せられた言葉なのか?
哀れな長耳族へとたむけられた言葉なのか?


玄武と呼ばれた男は、すっかりと丸裸になってしまった草原に、その長い膝を折ると 
指先で地面を2、3度軽く突く動作をしながら、一言小さく言葉を紡いだ。 
すると、見る間に男の指が触れた先から、どんどんと草や木が水分を失い
枯れ始め、乾燥してぱさぱさになったそれらは、やがて粉々に崩れ細かい砂になって、
ついには風に飛ばされて行くのだった。
それは波紋が広がる様に森全体へと広がって行く。

燻ぶり続けていた木材も、腐乱した死体も、崩れ落ちた石垣も、 
僅かに木影を作り出している斜めになった森の木々たちも、
全てが一斉に色を失い、端の方からさらさらと砂になって跡形もなく崩れ落ちて 
軽やかに風に乗り、一粒残らず舞うように飛ばされて行ったのだ。

やがて耳長族が永の年月暮らし続けた黒い森は全て砂に変わり、
風に攫われ、ついにそこにはなにも無くなってしまった。

全ての終わりを眉ひとつ動かさずに見届け終わった男は、鼻先の靉靆(あいたい)を
つい・・・と持ちあげると、氷の様な冷たい眼で腕の中の塊りに一瞥をくれた。 

それから、ふう・・・と、一つだけ小さく呼気を落とすと 
諦めたように左腕を上げ、その夜の帳のように黒くて冷たい長衣を大きくばさりと翻して 
まだ目を覚まさない柔らかな塊りを、丁寧にくるりと囲い込んだ。

男の足先が焼けただれた地面から、ゆっくりと持ちあがり長衣が風にふわふわと揺れた。
するとその身が宙空高く持ちあげられるのを、まるで待っていたかのように、 
地底の奥底からびりびりと地鳴りを轟かせて、地面が水面のようにゆらゆらと 
大きく波を打ち始めたのだ。

外から内へ。内から外へ。 
地層が突き上げられ、隆起し、収縮を繰り返す。
岩と岩がぶつかり合い、土煙りがもうもうとあがり
耳をつんざくような轟音が大気を揺るがした。
 
遠い景色に累々と重なる屍も焼けただれた野原も、砂に飲み込まれた長耳族の黒い森も
幼子の玩具の様に軽々と転がり飛ばされ、地獄の底まで達しそうな程
黒くて深い巨大な亀裂へ次々と簡単に飲みこまれていく。

『我が主・・玄武よ・・・これでよろしいか・・』

「ああ・・ご苦労だった。しばらくは寝て居ろ」

『・・・御意・・・』

大層しわがれた声が辺りに響くと、波打つ大地はやがて静かに終息の時を迎え 
辺りは急に耳が痛くなる様な静寂を取り戻した。
男の手によって、戦場は一切の無に還されたのだ。

さっきまで脈動していた地上の遥か上。 
そこへ留まったまま地面の激しい隆起を見つめていた玄武と呼ばれた男の 
氷の様な冷やかな瞳がゆっくりと閉じられる。

その身は 風に飛ばされた砂の様に一瞬でかき消えてしまっていた



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