ええ。小心者ですから・・・。

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悠遠夜話・番外編


悠遠夜話:中嶋さんの場合: その4(再掲載)

2012.10.18  *Edit 
▽TB[0]▽CO[0]

こちらは、以前拍手にあげていたモノを見やすく修正しております。
内容は変わっておりません(>_<)



悠遠夜話:中嶋さんの場合 その4

~啓太君が中嶋さんの所へ連れてこられてすぐのお話~



ご注意:例によってオリキャラ出現注意報。
大丈夫な方のみお進みください。






ふわり ふわり  きもちいい
この手はだあれ?

大きくて 優しくて ほんの少し冷たい
この手は だあれ?







深い谷底を冷えた空気が渡っていく。

凍えて湿った空気は、地熱の恵みを受けて育った
豊かでなめらかに生えそろった緑の苔たちに温められて、
やがて軽やかな春風にと生まれ変わるのだ。



その谷はひどく殺風景な場所だった。
あまりに深い谷底だったから、空を自由に飛びまわる鳥達さえ訪れる事もなく、
時折り、風が通り過ぎるだけの静まり返った谷で、
岩肌一面に天鵞絨のようにびっしりと生えた緑の苔以外は何もない所だったのだ。

ひたすらに沈黙を守る緑の絨毯を踏み込みながら進んでいくと、
遠く上空を見上げるほどに切り立った岩壁の真ん中に、
洞窟がぽっかりと黒い口を開けて待っていた。

入口はそれほど広くは無かったが、中に進むにつれて道の幅がどんどん広くなる。
長い暗闇の中に目がすっかりと慣れてしまった頃、ようやく光が漏れる出口が見え始めると、
突如目の前に水墨画のような壮大な景色が広がるのだ。

ここは仙界の最果て。
この全てを拒絶する静かで深い谷底に、天界の守護 四神将の内が一人 
玄武 中嶋英明の屋敷がある。






どういったいきさつで、その幼い少年をここに連れて来たのかを玄武邸の主は
全く語ろうともせずに、屋敷の侍女たちに放るようにして預けると
自分はさっさと自室へ籠ってしまった。

この屋敷の主であるその男の黒い長衣に包まれていた幼い少年は、
明るい茶色の髪や衣服に泥や血液がこびり付いていて酷く汚れ、
手足を丸めたまま、深い深い眠りについていた。

侍女や下男たちは、相変わらず無愛想な主に特にかしましく質問する事無く 
おそらくはこの屋敷の一切を任されているであろう一人の壮年の侍女の指示の元 
与えられた仕事を静かに淡々とこなして行った。

地下深くから湧き出る、豊富な湯がどうどうと流れ込む大きな湯殿に湯浴みの準備をし 
幼い少年の汚れを優しく丁寧に洗い清めてゆく。
 
それから、柔らかで清潔な床に寝かせてやって、小さな体の至る所に負っていた 
大小ざまざまな傷の手当てを細心の注意を払ってした。

手厚い看護のかいあってか、やがて幼い少年は目を覚ました。


自分が何故こんな所に居るのか?
自分以外の一族の者は一体どうなったのか?
聞きたい事は山ほどあるだろうに。
声が出なくなってしまったのか?
もとからしゃべる事ができなかったのか?
その少年は一切、口を開く事は無かった。



少年が連れてこられた谷底の屋敷の時間は、静かにゆっくりと 
ただひたすらに流れて行く。

ただ簡素に頑強に造られた建物は、豪奢な細工も煌びやかな装飾もない。 

その佇まいは、天空の守護と讃えられる「四神将 玄武」の御屋敷。
などとは到底思える筈もないほど、ただ岩を削って造っただけの
荒々しく実に味気ない建物だったのだ。


だけれど、屋敷に仕える使用人たちは皆、見目麗しく
気がつけば、優し気な微笑みを口許にそこに佇んでいた。
そして、彼らは必要以上に言葉を発する事なく、ともすれば
衣ずれの音しか残さずにその場を去っていくような、物静かな振る舞いを
する者ばかりであったのだ。




少年が谷底の屋敷へやって来て、相変わらず声を発する事は無かったけれど 
漸く、両の指を2回程折り数えるようになった頃、
硝子玉のように、ただそこに在る景色を映しているにすぎなかった美しい空色の瞳に 
ほんの少しずつではあるが、感情の起伏が読み取れるようになって来ていた事を、 
屋敷の者達は一様に喜んでいた。


少年の名は啓太といった。
それが屋敷の者たちに伝えた唯一の少年の素性を知らせる主の言葉であった。

啓太が意識を取り戻し、瞳に感情の光を宿らせるまで
この少年を胸元に抱え込み、自分の屋敷に連れて来た張本人である中嶋は
まるでその事を忘れてしまったかのように、一切その姿を見せる事は無かったけれど。

「啓太様・・またここにいらっしゃったのですね・・お寒くはございませんか?」

この屋敷一番の年嵩の侍女が気遣わしげに、小さな肩へと温かな上掛けをかけると
振り向いた小さな茶色の頭に長い耳がふわりと揺れた。

少年は一度だけぱちり・・と大きな空色の瞳を瞬いて侍女を認めると
僅かにそっと両の口端を持ち上げてから、ふるふると頭を振って見せた。

常に温暖な気候にある仙界だが、この最果ての地に在る深い谷を渡る風は冷たい。
でも、啓太はこのびっしりと地面を覆っている緑の絨毯に直接腰を下ろして
午後の柔らかな日差しを身体いっぱいに浴びながら、長い時間 
庭の草花を眺めるのがどうやら、とても気に入りの様子だった。


目の前に広がる玄武の屋敷の庭は実に広大だ。
もともと、四神将玄武としての豪奢な屋敷は仙界の中心部の別の場所にあったが 
中嶋が玄武の名を正式に継いだ時にすっかりとその屋敷を引き払い 
この辺境の谷底の屋敷へと籠ってしまったのだ。


谷底の屋敷は、かつて中嶋の祖父が愛して止まない屋敷だった。
ここは幼かった中嶋と祖父が、その命を風に舞わせるまで穏やかに過ごした
思い出の場所でもあるのだ。

何の手も加えず、自然のままに残された苔むす巨大な岩石や
その硬い岩を押しのけるようにして天を突く針葉樹。
岩の亀裂から絶え間なく、湧いて流れ出る山の清水が作る数々の小さな滝。

背丈のばらばらな名もない草花。
その隙間を全て、踏み込めばくるぶしまで埋まる長く豊かな苔が覆う景色。

人工的な細工を施された庭ではけして見る事が出来ない、強くて優しい 
見事な風景がそこにはあった。

武骨でいっそ味気ない、岩を主にして造られた玄武の屋敷も
この庭から眺めてみれば一対の掛け軸のようで不思議と心が凪いでくる。



・・・ぴくり!!・・・

啓太の長い耳が揺れ、遠くの音を捉える。
すぐ近くに控える年嵩の侍女を見上げて、衣の端をつんつん・・・と引き
どうやら屋敷の方で何か騒ぎがあったらしいと指をさす。

啓太は長耳族だ。
その頭には頭髪と同じ色の被毛で覆われた、長くしなやかな耳が揺れている。
長耳族は人外の身でありながら、無謀にもその身を人界に置いた種族でもある。

美しい容姿、類稀なる慈愛の精神。 
その長い耳は風の行先を読み、草花の声を聞き分けたと言う。 

自然を愛し、争いを嫌い、狩られながらもその人間と共存を求めた一族。
その長耳族が人間界でついに滅んでしまった、と、いま啓太がその小さな手で衣を引く 
年嵩の侍女が風の噂で知ったのは、啓太がこの屋敷に連れてこられて 
もう随分経ってからの事だった。

自分が仕えるあの主は、本当に口数が少なかったから仕方のない事だったけれど、
事の重大さに今回ばかりは歯咬みしたくなったものだ。

小さなこの身に、その日何が起こったのか想像するだけで目の前が霞んでくる。
おそらくこの少年はこの世界にただ一人、最後に残された長耳族。

それをどんな縁(えにし)でこの屋敷の主はその胸に抱えたのか、
自分の置かれた立場では知る由もないけれど、
あの何時だって冷えした月の様な瞳をした主が、少しでも心動かされる何かがあって 
この少年を屋敷に招いたというのなら、
自分にとってそれは本当に待ち焦がれた出来事であるのに。

女は、一瞬だけ遠くへと思いを馳せかけた自分を現実へ引き戻す様に 
軽く頭を振ってから、足元から自分を見上げている耳長族の少年を見やった。
そうしてから啓太の小さな手を、引いてゆっくりと立たせ 
そっ・・・とその衣に着いた草を払ってやる。

啓太を連れた女が、緑の絨毯の上を少しだけ急ぎ足で屋敷に向かうと、そこには
真冬の凍った月色の眼をしたこの屋敷の若い主が、
足元に転げる二つの塊りに一瞥をくれ、踵を返す瞬間だった。

「若・・・何事でございますか?」

近づきながら、その場を後にしようとする中嶋の背に年嵩の侍女は声をかけた。
同時に周りを遠巻きに取り囲む者達をぐるりと見まわし、一体ここで何が起こったのか 
侍女は瞬時に察する事になる。

見れば、侍女たちの顔面に一切の血の気が無くなって、皆一様に肩をすくませ
ぶるぶるとふるえており、お互いに寄り添うようにして支え、ようやく立っていると言う感じだったのだ。

「!!」

瞬間。
悪い予感が的中した事を知り、後ろ手に遅れて歩いて来た啓太の視線を逸らそうと
自分の身体にすっぽりと抱きこもうとしたが、僅かに間に合わなかった。

かっぷくの良い侍女の向こう側。
中嶋の足元に転がる二つの塊りに啓太の眼が釘付けになり、
脳裏にあの日、自分をかばって刀を受けた母の姿が重なった。


目の前で崩れ落ちる様にして倒れた母からは、生暖かい鮮血が噴水のように吹き出ていた。 
それはあたり一面へ飛び散り、びしゃり・・・と音を立てて自分の頬にも滴った。

母の腹から飛び出した臓物は、何やらとても不思議な形をしていて
驚くほど美しい桃色をしていたっけ・・・。



「―――っやあああああああああああ!!!」

刹那。
啓太の口から細い悲鳴が突いて出た。

大きく目を見開き、身体を反らせるように突っ張ったまま
がくがくと震えながら蒼白になった啓太のその表情に、侍女の心がえぐられる様に痛む。

あれほどに、この小さな少年が口を開くのを心待ちにしていたのに、
誰がこんな最悪の形でそれを迎える事を望んだだろう。

女は空気を切り裂くような悲鳴と共に、気を失った小さな身体を大切にきつく抱きしめ 
我関せず、その場を去ろうとする自分の主を睨みつけた。

「若!!あれほどお約束したではありませぬか!!」

「・・・・」

「若!!」

「・・・五月蠅い・・」

縋る様に喚く侍女の声を背にしたまま
一度も振り向く事無く中嶋は、長く続く廊下を足早に去って行った。



冷たい石造りの屋敷の中に足音が消えて、ほんの少しの沈黙が辺りに落ちる。

「啓太様の・・・お床の用意を・・・」

若い主の背中を唇を噛みしめたまま見送った女は、やっと絞り出した声で 
今なお顔面蒼白なまま、自分の周りを取り囲んでいる侍女たちに指図し 
腕の中でくってり・・と力を失ってしまった小さな啓太の身体を静かに運ばせたのだった。



皆が去ったその場所には、玄武の屋敷に仕える若い侍女が無残にも
胴から上と下、二つになって転がっていた。

しかし、不思議な事に本当なら辺りに飛び散るはずの大量の血液は
一滴もその見事な玄武邸の庭を汚してはいない。
 
今はもう、ただ二つの物体となってしまった女の胴体と別たれた腰から下は
奇妙なほどの静かさで、穏やかな午後の陽光の中にごろりと置き去りにされたままだった。 


うわー
中嶋さん・・・人でなしですねえ・・・・


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