ええ。小心者ですから・・・。

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悠遠夜話・番外編


悠遠夜話:中嶋さんの場合:その7

2012.12.14  *Edit 
▽TB[0]▽CO[0]

時間軸は中嶋さん幼少期のお話(その5)の続きです。
毎度わかりづらくてすみません(>_<)

相変わらず、ねつ造キャラの中嶋爺が出てきます。
その上、中嶋さんも少年なのでちょっぴり弱々しいです(笑)
もう学園ヘヴンは一ミリも存在しません。
ごめんなさいです。

そんなこんなの諸々全部・・・
うふふOK!!OKぇ!!
どーーんといらっしゃいなお嬢様のみお進みくださいませ。


:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::




・・・・止まらない・・

さっきからジクジクと脈打つ傷口は依然、出血が止まらないままだ。
黒い森へと続く、曲がりくねった道にポタポタと滴り落ちた血液だけが、
中嶋の後をひたすらに追いかけて来ていた。

痛みの感覚はもうとっくに限界を超えていて、
今はもう焼ける様な熱さだけが左腕を包んでいる。
このまま放っておけばやがて、出血により命を落としかねない事は
重々承知の中嶋ではあったが、どういう訳か治癒の術のみが
彼の酷く不得手とする所だったのだ。
その上、さっきの妖魔へと大きな術を使ったせいで
著しく疲弊していた事も今、この腕への治癒が上手く施せない大きな要因となっていた。

「・・・――っ。」

森の奥へ大分入った所。
そこで、くらり・・・と大きく目眩を感じた中嶋は、
黒々と葉を生い茂げさせる巨木の根元に、
小さく舌打ちをしてついに崩れる様に座り込んでしまった。
中嶋のぼやけた視界が徐々に暗くなっていく。

仙界のはずれに位置するこの黒い森は、天帝の結界力がほとんど及んでいない。
天帝の加護を得ていないこの界隈は、陽が傾き始めればすぐにでも
大気が急速に温度を失っていくだろう。
いくら青龍一族に守られている仙界とはいえ、まだまだ未開の地は多い。
影さえも出来ない暗闇に蠢くのは、低級な妖魔ばかりではないと言う事だ。

「・・・っふ。」

さっきの妖魔の毒気の所為か、中嶋は熱を帯びてきた息を忌々しげに吐き出した。
とっくに感覚の無くなった指先を、確かめる様にして開いては閉じしていれば
否応なく一つの可能性が脳裏に浮かぶ。

俺は・・・ここで死ぬのか?

しかし、木の根元にうずくまったまま、
裂傷から流れ出る鮮血を映す中嶋の月色の瞳には
ほんのわずかな苦痛の色も、怯えの色も感じられなかった。
その瞳はただ静かで、そしてどこか他人事を見る様に、酷く空虚なものだった。


当代の長である父親が逝ってしまって、ただ一人になってからこの方、
中嶋の小さな身体に一体どれだけの「呪」が向けられた事だろうか。
天涯孤独の身の上になってしまった少年の後見になろうと
鼻息を荒くして集まったのは、玄武の流派にくみする大勢の亜種、亜属の者達だ。
皆、年端もいかぬ少年を思うがままに操って、
あわよくば強大な権力を我が手中にと目論む者ばかりだった。
ところが、子供の事。如何様にでもなるだろうとたかを括っていた面々の企みは、
途方もなく当てを外す羽目になる。
仙界に唯一残された、たった一人の玄武の純血は非常に稀有な存在で、
見てくれは幼子のくせに、その実、大人以上の明晰な頭脳と強大な能力の持ち主だったため、
到底、凡庸で低能な亜種亜族の大人達の手に負える存在では無かったのだ。

だがしかし、彼らの権力への執着も尋常では無かった。
初めこそ第一正統後継者の後見人にならんと、正攻法で挑んできた彼らであったが、
中嶋少年に対し、それらが全くの無効と知るや否や迅速に作戦は変更され、
呪詛や祈祷、泣き落としに脅迫、果ては色仕掛けまでと日々、低級でえげつない戦いが挑まれ続けたのだった。
悲しいかな、と、言うべきかはたまた当然と言うべきか。
そのどれもこれもが、全く功を奏す事は無かったけれど。


しかし、仙の言葉は呪詛であり、仙の思念は容易に呪縛になり得る。
いくら低俗な輩が施す陳腐な「呪」であっても、幾重にも絶え間なく施されれば
中々に厄介なシロモノが出来あがるのだ。

少しでも気を抜けば、その黒い思念に引きずられる可能性がある。
四神将の地位にも、ましてや一族の長となる誉れさえも
煩わしいばかりの中嶋であったけれど、
あのように程度の低い輩の利益になる事だけは、どうしたって不愉快だった。
その為、中嶋は常にその身の周りに結界を張り、精神を研ぎ澄まし続ける必要があったのだった。

さすがに・・・少し疲れた・・・な。

今正に、中嶋の意識が白く塗りつぶされようとしたその時。

「うーん・・・最後の詰めが・・ちぃ~っとばかし甘かったの~・・・・」

「!!」

ふいに、頭上から降って来た声に中嶋は身体を硬直させた。
弾けるように振り仰いでみれば、ざわざわと葉擦れのする巨木の大枝の上に
いつの間にか白髪の老人がニヤニヤしながら立っているではないか。

「・・誰だ!?・・・・・・」

中嶋はぎょっとしたような声を上げた。
それは全く彼らしくも無い仕草だった。
流れる血と深く沈む思慮に気を取られていたとはいえ、
気配を感じる事が出来なかったのだから、無理も無い。

「儂か?儂はそなたの爺じゃ・・英明」

「はあ?」

「ぷ・・・わっははははっ」

突然の告白に素っ頓狂な声を挙げた中嶋を見ると、老人は大声で笑いながら
ふわり。と音も立てずに大枝から舞い降りて、
草一本揺らすことなく中嶋のすぐ目の前へと着地してみせた。

「・・・あと、もう少し左に寄った所へ拳を込めねばならんかったなぁ・・・」

「!!」

すりすりと自分の真っ白な顎髭を撫ぜながら、まるで独り言を言う様に
小さくぼそぼそと呟いた老人だったが、中嶋はそれを聞いて愕然としていた。
詰めが甘かった事も、あと少し左寄りに一撃を加えてさえいれば
妖魔の心の臓へ命中し、こんな無様な傷など負わなくて済んだ事も事実だったからだ。

自分の身内だと突拍子もない事を告白した不可思議な老人はさっきから
ジワリジワリと血液が滲んでくる左腕の傷と、警戒して身構える中嶋の顔を
交互に覗きこんでは相変わらずニヤニヤしているばかりだ。

その顔は実に面白そうにしていて、深く刻まれた皺の中に在る
青空を切り取ったようなその瞳を、子供の様にきらきらさせて中嶋を映している。
その行動にムッとしたまま不機嫌な様子を隠そうともしない中嶋を見て
老人はまた髭を一撫でして、ぼそりと呟いた。

「ふむ・・・その不機嫌そうな顔は母者に似おったな?」

老人は、あやつも年がら年中、眉間にしわ寄せて小言ばかりじゃったからの~
はぁ・・やれやれ・・どっこいしょ・・などと言いながら
いつの間にかすぐ側まで近づいた中嶋の隣に、断りも無く腰を下ろし、
その腰から下げている革袋から煙管を取りだすと、これまた勝手に煙草を
詰めてふかし始めた。

「・・・・。」

煙管からふわりと蒼い煙が立ち上り、風にたなびいてはゆっくりと消えて行く。
その煙をのんびりと目で追う、完全に脱力しきっている老人を横にして、
正直、中嶋は混乱していた。

初対面の相手に此処まで近づく事を未だかつて許した事は無い。
間合いを取られる事、其、すなわち命を危うくするという事に結びつくのだ。
中嶋はわずか拳一つ離れた距離に腰を降ろす老人の次の行動が、
全く予想できずに、たらり。と嫌な汗が自分の背中を落ちて行くのを感じていた。

一体敵なのか?味方なのか?
ただのひやかしか?それとも・・・・・本当に・・
依然、ぷかぷかと煙管から煙を燻らす老人は、脱力しきって見えるのに
不思議と隙がない。

「なあ・・英明。儂と来い」

「は?」

何故だか中嶋は無性に腹がたってきた。
気が付けば自分はさっきからオウムの様に、同じ言葉しか発していないではないか。
これではまるきり阿呆のようだ。
だけれど、本当にこの老人の行動と言動は容易に予測できるものでは無くて、
悔しい事に、どうしたって間の抜けた言葉しか発せない自分がいる。

「・・・では。」

突然。これでもかと深く眉間にしわを寄せる少年の腕を老人は鷲掴みにした。

「な・・何をする!?離せ!」

否を口にする中嶋をまるきり無視して、グイグイと引っ張り続ける老人に
流石の中嶋も面喰らっていた。
慌ててその手を振りほどこうと身を捩って見るが、どうした事か腕はビクともしない。
見ればさっきから老人の片方の手には煙管が握られたままだ。
驚いた事に今、中嶋は一本の腕だけで拘束されているのだ。

「ちっ!!」

「ほっほっ。・・・随分と嫌われたもんじゃの~。だがな、そのままだと
確実におっ死ぬ羽目になるぞ~?」

まるで老人とは思えない怪力でぎりぎりと中嶋の利き腕を締め付けながら、
素っ気ない顔をしてまた、かか、と笑う。

「どうやら癒しの術は随分と不得手の様じゃな?
ヌシも馬鹿ではあるまい?今はその傷を何とかする事の方が賢いと思うぞ?
なぁに・・・、どうしても儂の事が気にいらなければ、
適当な頃に出て行けばいいだけの事じゃ。
それともあんな馬鹿な奴らの為に此処で死んでやるか?」

「!!」

諸々を完全に言い当てられて、一瞬だけ中嶋の口端がピクリとした。
ほんの一瞬だけとはいえ、あんな低級な奴らの為にこの命を
投げ出そうとした自分を思い出せば反吐が出そうになった。

だがその、むかむかと胸に湧き起こった怒りの感情は、さっきまで身体を繭糸の様に
がんじがらめにしていた、暗く冷たい思念をすっかりと吹き飛ばし、
中嶋の中にある生への執着心をかき立ててくれたようだ。

「ふん。」

小さく鼻を鳴らし、ほどなくして一切の抵抗を止めた中嶋は、
四肢に込められていた力を抜くと、尊大に顎を上げ、その強い光を取り戻した瞳で
老人を睨みつけた。

「ふむ・・・商談成立じゃな。」

中嶋の行動を即座に「是」と受け取った老人は
片方の手に握ったままの煙管を又、口に運び鼻の穴をフガフガとさせると
ぷかり。と煙を中空に吐き出した。
老人はその煙が輪になりゆっくりと消えて行くのを満足そうに見送ると
クルリと振り返り、相変わらず氷の様に冷たい視線を自分に送り続ける中嶋に向かって
にんまりと笑って見せたのだ。

「さてとぉ・・・。行くとするか。」

それから、ぽんっ!と小気味よい音をさせて煙管を木に打ち付けた次の瞬間には
もう二人の身体は空高く舞い上がって、跡形もなく消えていたのだった。



パチパチと火がはぜる音が聞こえる。

「・・・・・ん。」

月色をした瞳がゆっくりと開き、その目の端に赤々と踊る炎を映した時、
軋む扉を静かに押しあけて、この屋敷の主が部屋へ入って来た。

「どうじゃ?英明。傷は痛むか?」

「・・・。」

「で、何か食うか?」

「・・・。」

「今日は水瓜を持ってきたぞ?」

「・・・。」

「ふむ。上等な枇杷もあるんじゃがお前は好かんか?」

「――――っ・・・今は・・・今は・・要らん。」

「そうか。そうか。ではまた此処において置く。好きな時に好きに喰え。」

老人は、大きな籠目一杯に瑞々しい果物を山盛りにしたそれを
寝台の脇にある卓子へと乗せると、敷布の中に眼元まで
どっぷりとうずくまる中嶋の額へとそっと手を当て、熱が無い事だけを確認すると
何も言わずに又、音もなく部屋を後にしていった。

「・・・。」

あれから数日

自分はどうやらその間、情けない事に意識を失って過ごしていたらしいと
目が覚めてすぐ中嶋は理解した。
それほどに思考がぼやけ、ずっしりと頭が重く、手足が思うように動かなかったからだ。
床の中、柔らかで清潔な掛布に包まれた己の身体を確かめてみれば
グルグルと何重にも巻かれた包帯の向こう側、出血は当然止まっており、
傷口もほぼ塞がりつつあるようだった。

真偽の程は全く定かではないが、身内だと突然に告白したあの老人が、
随分と熱心に自分の看病をしたらしい事は紛れもない事実だ。
存外、厄介だった妖の毒気にあてられた中嶋の所に一人、
来る日も来る日もやって来ては、ああして甲斐甲斐しく世話を焼いて行くのだ。
話し声や気配からして使用人も大勢いる筈なのに、だ。

不意に、床の中からぬっと手を伸ばした中嶋は籠の一番上に置かれた水桃を
掴むみ、おもむろにそれにかぶりつくと、溢れる果汁が口端から滴るのも構わずに
ぞぶりぞぶりと咀嚼し、次々と嚥下していった。
その横顔は健康的な赤みを取り戻し、ふっくらとまろやかで
随分と少年らしい印象へと変わっている。

ごくり。と最後に喉を大きく上下させた中嶋は、すっかりと種だけになった水桃を
いつもの様に床に放ろうとしたが、どうした訳かそれを止め、その手の中の桃の種を凝視する。
濃紺のけぶるまつ毛に縁取られた月色の瞳の中には今。
明らかな躊躇の色が見て取れるのだ。

あの老人が持参する籠にはいつだって様々な種類の果物が盛られていたが、
中嶋が食するのは決まって桃のみだった。
多い時は三つほどもその口に運び、食べ終われば無雑作に床に種が捨てられた。

今日も、水桃は当然の様に籠の一番上に置かれていた。
そう。今日も昨日も、おとといも・・・。
この屋敷で食物を初めて口にして以来ずっと、水桃が一番上に置かれているのだ。
その事に気がつかない中嶋では無い。

「・・・。」

中嶋は片眉を上げたまま、種を忌々しく睨みつけると
至極ワザととらしく、ふん・・と鼻を小さく鳴らした。
それからいつもなら、そのまま床に投げ捨てる筈だった手の中の種を
卓子の懐紙の上へそっと置いたのだった。

そしてまた彼は次の桃へと手を伸ばし、その果肉へと喰らい付くのだ。
今まで会った大人達とは全く違う何かを、あの老人に感じながら・・・。

相変わらず側では、赤々と踊る火が時折り音を立てて爆(は)ぜ、
室内を心地よい温度に保ってくれている。
この部屋は、いや、この屋敷が建つ場所は本当に何と静かな所だろう。
時折り、外で吹く風の音以外なにも聞こえない。

二つ目の桃を食べ終え、行儀悪く衣の袖で口端を拭った中嶋の
瞳が再び、ゆっくりと閉じられて行く。
たっぷりとした寝具の中にうずもれ、静かに呼吸するその表情は実に穏やかで、
あの日、鮮血の流れる腕をどこか他人事のようにして見ていた虚ろさは、
もう何処にも見当たらなかった。




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