ええ。小心者ですから・・・。

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


*Edit

臣嫁日和シリーズ


臣嫁日和シリーズ 「奥さまの秘密」6 

2010.03.17  *Edit 
▽TB[0]▽CO[0]

「郁 これを」

話題を変える事にどうやら成功したようだと西園寺は少しほっとした。

さっきまで馬鹿みたいにデレデレしていた顔が少しだけ真面目になったから
本当に苦情だけを言いに来たのではないのだと確信する。

いつでも表情のあまり変わらない幼馴染ではあったが、自分には手に取るようにそれが判った。

きっと啓太が傍にいたら話せない話題があって今日この日 西園寺が、啓太が 
最低限困らないスケジュールを計算し、かつ夫の疲労回復も慮って
有給を取らせるよう仕向けたうえでここに彼は出向いているのだ。

その能力、もっとまともに使っていれば国も動かせるのにな。

細かな数字とグラフとで為る分厚い書類の束を渡されて
それに目を落としながら軽く嘆息する。

「郁、最近溜息が多いです。幸せが逃げて行きますよ?」

ったく 誰のせいだと思っている。

少し神経が逆撫でられた気がしたが無視を決め込む。
つらつらと目を通し、同じ速度で緑色の美しい眼が文字を追ってゆく。
今はこちらに集中したいし、生憎、もう渡り合う体力がない


大体目を通し終わってから頬杖をついて書類越しに幼馴染を見やった。
勝手知ったる何とやら、すっと ソファから立ち上がり、重いドアを滑り抜け
別室へ行ってしまった。
きっと慣れた手つきで社長室専用の給湯室へでも行って茶の用意でもしているんだろう。
少し話す事もあるし丁度いい。一息着こう。
久しぶりにこの友人の入れる紅茶が飲みたかった。


類まれなる能力を持つのに、全くそれに執着しない。
自分の大切な者の為だけに、その能力はあますことなく発揮される。

それ以外の事には全く関心が無いから 見向きもせず、
ともすれば頓珍漢な行動を取っていると他人には思われてしまうだろう。

実に難儀なことだ。
・・・。まあそれが臣の望んでいる事だから仕方ない。

自分から離れて行った幼馴染の生きざまを思い 西園寺は
何となく、何となくではあるが 少しだけ羨ましく思った。
若かったあの頃には覚えなかった感情だ。
自分も少し大人になったと言う事か。

そして、その銀色の髪を持つ幼馴染の大切な者の中に
確実に自分も入っているのだと思うと口端が知らず弧を描くのを感じた。

ドアを開けカチャカチャと茶器一式をトレーに乗せて七条が戻ってきた。
途端 部屋には芳醇な香りが立ち込める。手際良く準備を進めながら
「どうです??」
といたずらっ子のような目を西園寺に向けた。ふふっと笑うその様は
子供の時より100万倍も楽しそうだ。

「ふん。悪くない。どうやら腕は鈍っていないらしいな?」
「当然です。僕には幸運の女神が付いていてくれますから」
にやり・・・と二人で口端だけを持ち上げてどうやら企みが滞りなく進んでいる事を確認する。

西園寺は渡されたソーサーからカップを持ち上げ、すう。と 
一度香りを楽しんでから口をつけた。

一口 口に含んでこくりと嚥下する。
「まあ、元手がかなりの額だからな、丸一日集中してやっているんだ 当然だろうな。」

「郁。それは違いますよ?これで主婦も中々に忙しいんです」
舐めてもらっちゃ困ります・・・と自分も紅茶を口に運びながら七条は西園寺に抗議した。

旦那様のお見送りの後 ゴミだし、掃除にお洗濯。
夕飯の買い出しに隣近所のお付き合い。そうそう町内会の集まりもあるんです。

だから本当に集中できるのはほんの僅かな時間です。それに向こうの市場が開くのは夜からですからね、
僕も大切な夜のオツトメを疎かに出来ませんから なかなか難しいんですよ・・・。
ふー。身体がいくつあっても足りません。ふふふ・・・

と。いささか途中「?」はて?と思われる単語が混じったが、まあそんな事一々気にしてはいられない。

ああ・・・。話題は変えられた筈ではなかったのか・・・。

どうしたってやっぱり 
この銀の悪魔は愛しい愛しい旦那様の事を話さずにはいられないらしい。 
まあ、仕方ない。この莫大な資金だってその人一人のために動かしているのだから。

あの空色を持つ瞳がふにゃりと笑うのを
若かったあの頃の自分がどんな風にみつめていたかなんて、とっくにこの悪魔もお見通しなんだろう。

この幼馴染が恋敵でなければどんな手を使ってでもこの腕に攫ったものを・・・。

だが、自分ではなくこの胡散臭い幼馴染の手をとったのは啓太だった。
臣が啓太を守っているように見えて実は啓太が臣を守っている事になかなか周りは
気がつかなかったけれど、西園寺だけは知っていた。

自分は傍らにあるだけで、充分に救えなかった大切な友人を
啓太はいとも簡単に しかも完全なる形で助け上げてしまった。
運命なんて言葉は陳腐で弱い人間が使う言葉なんだと思っていたが、自分の世界に色をどんどん取り戻していく友人を見て、もしかするとそんな事があっても良いのかもしれないなと思うようになっていた。

そして同時に 自分はもうあの澄んだ空色の瞳の中に入り込む
 ほんの僅かの隙もないんだなと・・・気がついた。

だから決めたのだ。この二人が何処まで行くのか。何処に行くのか。
自分で見守る事を選んだのだ。

今まで味わったことの無いこの名前を知らない感情を心の奥底へ押し込んで。

あれから何年たつだろう。
変わらず、二人の仲は睦まじい。
ほっと安心する自分がここにいるからあの感情はもうきっと消えてなくなってしまったのだろう。
今はもう凪いだ瞳で二人を見つめていられるから。自分にとって大切な大切な二人を。

「しかし。あと少しばかり足りないな。」
と西園寺が言えば
「ええ。あと5,6億は必要でしょう」と頷く。
目標金額まであと少し、二人はそれぞれにまた紅茶を口に含んだ。


七条はある目標を持って莫大な資金が必要だった。
始めその計画の提案を西園寺にした時は本気にしてもらえなかった。

だがしかし 幸運の星の下に生まれた旦那様のおかげで、
軍資金が手に入ったのだ。 その結果西園寺の会社を退職し今現在に至る。
軍資金となったのは会社の飲み会で配られたBIGという宝くじだった。
俗にいうサッカーくじのtotoだ。

啓太が駅の近くの売り場で購入し 宴会場でみんなに配ったものだ。
西園寺にも七条にも手渡されたそれは、14個の数字を全て当てると6億円!というものだった。
啓太の幸運を知る二人だ。 西園寺は面白半分、そして七条は完全に確信して
啓太に数字を好きにさせた。

だがまさか一等と二等に当たってしまうなんて思いもよらなかった。
キャリーオーバー含め6億近い大金が二人に転がり込んだのだ。
常日頃から 億の付く金額を眼にしていた西園寺と七条は心乱すことなく、
以前から立てていた計画を実行するべく 瞬く間に行動したのだった。


奥様は今 デイトレーダーだ。
運と奇跡を信じるなんて言葉は博打をしているのと同じだ。
綿密な計画と先を計算する力。過去の膨大な資料を操る頭脳と豊富な情報。
この奥様はことのほか条件に恵まれていた。

利益を1パーセント上げるのが困難とまで言われているこの世界。
ぽっとでの素人がどこまでやれるのか 西園寺も興味があった。

なに。もともと無かった金だ。全て無くしてしまっても別に振り出しに戻った位に考えればいい。

だが、しかし 奥様の力量は常識を超えていた。
経済の不安定な日本市場だけでなく、外国株、外国債、外為。
下げ相場で利益を生むなんて玄人が逃げ出してしまうような事も何なくやってのけた。

種銭が倍になったんです と七条から聞いた時、
「ああ、気分がいいな。こんなに浮かれた事などそうないぞ。」
と見たことが無い位 上機嫌の西園寺が居た。

昼間の日本市場と、そして時差14時間の関係でニューヨーク市場は日本時間の
午後10時~翌朝5時まで・・・。両方をまんべんなく無駄なくこなす。

 奥様は部屋いっぱいに配置されたパソコンの画面を見つめ 何台ものキーボードを操る。
まさか奥様も自分自身これほど株取引が性に合っているだなんて、思いもよらなかった。
「とても 楽しいんです」
ふふふ。とそう笑う銀髪の男は南の方にある貧しい小さな国の
国家予算なんてとっくに追い越している金額を ゲームを楽しむ小学生のように何と言う事もなく動かす。

正確な判断と確実なタイミングで。

だから、もう 目標の金額まであと少し。


自分の夢に一歩踏み出せる事が 嬉しくて西園寺の元へ報告に来た。
思えば 自分の夢に・・・などと前向きに考える事が 
あの愛しい旦那様と出会う前の自分が考えた事があっただろうか?
答えはもちろん「否」だ。

ぐんぐんと前に進む力も、自分が欲しい物を欲しいと口にしていいのだと言う事も
旦那様が教えてくれた。
真っ暗な中、丸く小さくなってうずくまっているしかなかった自分を
見つけてくれたのも、手を引いてそこから出してくれたのも愛して止まない旦那さまだ。

「当たり前の幸せをあなたに。あなたと一緒に」

とそう言ってほほ笑んでくれた あの澄んだ瞳が忘れられない。
この身体が生きて 動いているのはあの人がいるからだ。
ありったけの愛情をいつだって注いでくれるから僕はこうして生きていられる。
本当に愛しくてどうしようもない。

愛してる。愛してる。愛してる。
そして
愛されている。愛されている。愛されている。


重い扉が音もなく閉まる。
簡単に茶器を片付けてそのまま やつは帰ってしまった。
旦那様と過ごせる貴重な時間ですからと。
今晩の夕食はなににしましょうかねえ・・・と
昨日と一昨日のメニューを 聞いてもいないのに教えてくれた。

黙って二人して紅茶を啜った時、一瞬 昔のような顔をしたから心配したが、
どうやらすぐにその影は消えてしまったようだったから、きっと大丈夫なんだろう。

臣が計画を提案してきた時、非現実的極まりないといったが、
これほど早く形になるとは思ってもみなかった。きっと最後までやり遂げるんだろう。
その為に、その為だけに自分の片腕を辞めたのだから。
実現してもらわないとこっちだって割に合わない。 

「愛の力とは偉大だな」と一つ呟いて、座ったままゆっくりと椅子の向きを変えた。

そして西園寺は 自分の後ろいっぱいに広がる景色に眼を細めた。


*Edit ▽TB[0]▽CO[0]

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。