ええ。小心者ですから・・・。

スポンサー広告


スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


*Edit

天色恋々歌(あまいろれんれんか)


天色恋々歌 ◆肆の巻◆

2014.06.20  *Edit 
▽TB[0]▽CO[0]

天色恋々歌(あまいろれんれんか)
◆肆の巻◆





東の空が橙色に染まり、雲間から生まれたての朝日が差し込めば
木々に落ちた夜露がそれを受けてキラキラと輝きだす。

鳥達も一斉に目覚め、各々が美しい声でさえずり始めるその風景は
誰もが清々しい気持ちになれる一日の始まり。
・・・だがしかし、
ここにそんな風景をこれっぽっちも望んでいない人物が一人・・・。

「・・・・。」

重いカーテンの隙間から、僅かに差し込んだ陽の光を認めた臣は
眉間に皺を深々と寄せたまま、ゆっくりと上体を起こした。
 
「・・・はぁぁぁぁ。」

五臓六腑を吐き出すが如く、長く深い溜息が部屋に落ちる。
臣は、脚だけで乱雑に上掛けを追いやると、室内履きに履き替える事無く、
裸足のまま、自室に備え付けてある浴室へと向かったのだった。

ザアアアアアア・・・・・。
蛇口をひねれば、たちまち熱い飛沫が辺りへと広がり、浴室内の温度を上げてゆく。
勢いよく流れ出るお湯を頭から被れば、それは彫像のような臣の身体の隆起を
忠実になぞって、排水溝へと渦を巻いて落ちて行った。

ここは七条邸。
未だ一般市民の殆どは、時間をかけ薪で焚く風呂を主流としているこの時代にあって
蛇口をひねれば、いつだって適温に保たれた湯が使える仕組みを考え出したのは
誰あろう臣の父親であるエリック・ジャンメールその人だった。

無類の風呂である彼は、思い立ったなら、いつなんどきでも風呂に浸かりたいと考え、
このようなカラクリを一晩で考案し、たちまち設計に至ったらしい。
これは興味のある事には寝食を忘れて取り組むが、それ以外にはてんで無頓着な彼の
数少ない「良い意味での作品」の内の一つである事は確かだ。
(この彼の発案した数々の「良い意味での作品」達が、後に広く世間に普及し
巨万の富をもたらすのはまた、別のお話。)

それまでは、時間を完全に無視した七条家当主の唐突な要望に
いちいち右往左往していた使用人達へのみ、与えられた恩恵かと思っていた臣だったけれど、
まさかこんな形で、父親の才能に感謝する日が来るなんて思いもよらなかった。
暫らく熱い湯をかぶれば、ボンヤリとしていた頭も覚醒するというものだ。

「ぷはっ!!」

水が滴る髪を乱雑にかき上げたその手が、湯気の所為で曇った鏡を二、三度撫でる。
そうすればそこには、父親譲りの恐ろしく整った顔が現われた。
只、残念な事に今朝のその顔には、はっきりと隈が刻まれており
彼の睡眠時間が殆ど無かった事を、如実に物語っている。

「・・・。」

湯が首筋を打つその感覚に、昨夜の出来事が強制的に呼びさまされ、
更なる覚醒を臣にもたらした。

憎悪・・・?いや・・・嫌悪・・・?それとも蔑み・・・?

それら全ての感情であるような、そのどれでもないような・・・。
果たして自分に向けられたあの感情はなんだったのか?
そして、あの介添え人は一体何者なのか・・・?
出口の無い迷宮にぐるぐると臣の思考は廻る。

それもそのはず。
あの式典が終わった後、臣は誰とも口をきく事無く七条邸へと連れ戻されたのだ。
それは「『花嫁と花婿の顔合わせは翌日。朝日が昇ってから初めて互いの顔を知る事とする。
双方は朝日が昇るまで、何人たりとも口をきいてはならぬ』という
妖界側の奇妙な神事に基づいており、その所為で誰にも何も聞く事を許されず、
僅かの解決の糸口も掴めないまま、こうして悶々として朝を迎える羽目になった。
当然。相手方とも式典で会ったきり。

「やはり・・・直接お伺いするしかないんでしょうかねぇ・・・。」

ぼそり、と一晩で随分とくたびれてしまった鏡の中の自分を見つめて臣は呟いた。
そしてしばらく、湯が銀の睫毛を伝い、紫色の瞳に入ろうとも
全く構う事無く、熱い湯に打たれ続けたのだった。


のぼせるほどに湯を浴びてから、必要以上に時間をかけて髪を乾かし、
そしてさらにノロノロと身支度を整える臣の、その行動には十分な理由がある。
今日本日より、妖界から来た花嫁・・・つまりは妖狐族の子息は、
一つ屋根の下、臣と暮らす事が決まっているのだ。
勿論、警備やその他の諸事情を踏まえ『七条邸へ逗留するのが最適』
と言う結論に至った訳なのだが、所々に大人の黒い思惑が見え隠れしており
当事者の臣としては、色々と思う所がある言うものだ。
だがしかし、いつの日も悩める若人を置き去りにして、時は過ぎて行く。
ついに身支度の一切を終え、足取りも重く自室を出た臣は、
長い廊下の突き当りにあるその部屋の前で、扉を見つめたままジッと佇んでいた。

この部屋に、妖狐族の子息が居る。
扉を開けさえすれば彼に会うことが出来るのだ。
こちらには、聞きたい事が山ほどあった。
あの不穏な空気を醸し出す介添え人の件はもちろん、
今回、このような事に至るまでの経緯や、妖界側の思惑も詳しく把握しておきたいし、
そして何より、自分を名指ししてきたその理由を知りたかった。

だが、相手は古から妖界の高位を継承し続ける妖狐族だ。
いちいち高等な礼儀と節度を求められるのは当然の事で、
万が一に備え、その身の安全の確保も取らねばならない。
臣にとっては本当に色々と厄介で、一つ一つが猛烈に面倒だったけれど、
コレは与えられた『長期的な任務の一つ』なのだと無理やり思う事で、
今までどうにか精神の平静を保って来たという訳だ。

大丈夫。
妖界の神事のこまかな手順は、既に頭に入れてある。
いつものように優しげな微笑みを顔に貼り付けて、なんどきも穏やかに
当たり障りなく接すれば、相手の気分を害する事は決してないだろう。
勿論、護衛の方は言わずもがな、だ。

ふむ。と、あらかじめ言い渡されていた挨拶の口上と、
決められた歩の進め方を、再度脳内で反復した臣は
その完成度の高さにどうしてか、げんなりとした。

「・・・まったく。結局、殆んど言われるがままじゃないですか・・・」

ともすれば、そのまま消沈しそうになる気持ちと口端を
強制的に引き上げる事で奮い立たせ、無理矢理に表情を作りなおす。
それから背筋を正し、ぐっと顎をひけば不意に、
あの日、父親に与えられた小さな免罪符のような言葉が頭をよぎった。

一方的に婚約の決定を告げられ、独り悶々とし続ける息子をさすがに哀れに思ったのか、
父は諭すように言ったのだ。

『相手は王族だからね?ものすごーく気まぐれで我儘かもしれない。
もしかするとお家にすぐに帰りたいって言うかもしれないし、
君以外の素敵な誰かを気に入っちゃうかもしれないよ?
要は何事もお姫様の気分しだいって訳。
それにこの話は、まだ公にされてないんだ。それはすべてがとても流動的で、
確定事項は何一つ無いって事だよ?』

解るだろ?・・・そう父は片目をつむり、おどけて見せた。
どうやらエリックは、両国の関係にヒビが入らなければ、それでいいのだ・・・
と、そう言いたいらしい。

・・・そうだ。
婚約は世間には一切公表されていない。
自分は気分を害さない程度に適当に相手をし、頃合いを見計らって、
あの見目麗しい幼馴染でも紹介したならばきっと、妖狐族の子息も気に入る事だろう。
世の中には、分相応と言う言葉があるではないか。

それに、事が穏便に進みさえすれば
花婿の名前が七条臣から西園寺郁に変わった所で、国家としては別段どうという事は無いはずだ。
切れ者で知られる西園寺の父親なぞはもしかすると、そうなる事を密かに望んでいるかもしれない。

これは婚約であって結婚ではない。ようは相手が人間ならそれでいいのだ。
そう・・・僕でなければならない理由は何処を探しても全くない・・・。

本当にこんなママゴトはさっさと終わらせてしまうに限る、と小さく頷くと、
臣はついに覚悟を決めて、静かにドアを叩いたのだった。


:::::::::::::::::::::::::::::::

「・・・っ・・・・」

突如、強烈な光が目を襲って、臣は呻き声に似た息を漏らした。
思いもよらないその眩しさに、紫の瞳が細く眇められて動けなくなる。

「??!!」

まるで雪原に立った時のような、白く眩い光の中で幾度か瞬きを繰り返せば、
不意を喰らった水晶体がようやく落ち着きを取り戻して、
黒い輪郭がぼんやりと滲んで浮かび上がり、その光の正体を教えてくれた。

!!!??しっ・・ぽ・・・???

その姿は、まさしく異形。
彼の人の背後には確かに、尾が存在しているのだ。
それも複数本、だ。

若草色の着物に身を包み、薄絹で顔を隠したその人の豊かで艶やかな尻尾が揺れる度、
天窓からの光を受けたそれは、キラキラと輝きを増して部屋中を白銀の優しい光で溢れさせてゆく。
緩やかに動き、それぞれが自己を主張して見えるそれは、まるで主を包み守っているようだった。

「・・・・。」

妖界式神事の作法の手順は完璧だ。
もちろん仰々しい口上も一言一句、頭に叩き込んである。
・・・はずだった。
つい、今しがたまでは。

臣はさっきから戸口付近で、部屋の中央に静かに座る人物を見つめていた。
正確には動けないと言った方が良いかもしれない。
経験上、禍々しい姿の妖を目にした事は山ほど有れど、
こんなにも清冽で、優しげな空気を纏った妖に出会ったことは無かったのだ。

流石に先ほどから呆けたまま、戸口で微動だしない長身の男を怪しんだのか、その人は不意に、
自分の顔にかかる薄絹へと手を掛けて、何の躊躇も無しに するり・・・。とそれを取り払った。

(・・・空の・・・色・・・。)

心臓がじくり、と疼き、
それっきり臣は美しい対の蒼玉に囚われてしまった。

「・・・。」

一体どれほどそうしていたのだろう?
ただ、ぼんやりと立ち尽くす臣の瞳の端に、ふわり、と一際大きく揺れる尾が見えた。

!!―――――っ!!しまった!!

それを機に己の失態を自覚した脳内が突然に動き出す。

『・・・・・!!九尾の・・・狐!!』

・・・尾が複数に分かれた狐。
強大な力を持つ妖狐の最終形態・・・。
・・・狐の大妖怪。
それから、それから・・・・。

光る複数の尾が、ふわり、ふわり、と陽光を反射して輝く度、
それに触発されるようにして、脳の機能が加速度を増してゆく。

ああ、口上の最初の一句は一体なんだったのか。
やけに長ったらしく、仰々しい一文だった気がするのに。
・・早く・・・なにか・・。なにか言わないと!!!・・・。

「あ~・・・こほん。おはようございます。昨夜は良くお休みになられましたか?」

「・・・。」

「ああ、その様子ではあまり良く眠れませんでしたか?
・・・・やはり、人界の寝具が合いませんでしたでしょうか??」

「・・・。」

カラカラに乾いた喉と唇が、ようやく絞り出したのは
事前に指定された長い口上では無く、実に凡庸極まりない朝の挨拶だった。
それきり言いようの無い沈黙が部屋に広がって、臣の背中に滝のような冷や汗が流れる。

(????どうした????僕!!!)

一体、自分は何をやっているのだろうか?
完璧に仕上げた口上も礼儀作法も、どうしてか今は忘却の彼方だ。
オマケに、かつて鉄の精神と謳われた心臓も、情けないほどに乱れた拍を打っている。

(そ・・・・それにさっきのは・・・か、かなり・・・頂けないっ。)

苦し紛れとはいえ、この口を突いて出てきたのは、どうしてか酷く陳腐な言葉の羅列のみ。
あれなら、もういっそ喋らない方が幾分マシだったかもしれない。

さっきから相手方が無言なのも、恐らくは相当に気分を害した所為なのだろう。
事前に矜持の高い一族と知った上での大失態に
もう、この顔が上手く笑えているのかどうかすら自信が無い。

辛うじて顔面筋肉を保持しながら、内心はオロオロと取り乱している事実を
知ってか知らずか、向かい合う青く美しい瞳は静かにこちらを見上げたままだ。

「///////―っ」

それを意識すればどうしてか、臣の心臓は更に激しく拍を刻んだ。

「あっっ!!。えっと・・・あの・・・ど・・・どうでしょう?
此処でこちらから内々に提案があるんですが、どうかこれを決定事項とは捉えず、
人界で十分に羽を伸ばし、改めてあなたのお気に召す相手を探してみてはいかがでしょうか??
やはり結婚と云うものは本当に愛し合った方とする方が幸せと言うものですし、
その方がお互いに気楽というものじゃありませんか?
・・・ああ、でもご安心ください。貴方の人界での護衛は
僕が責任を持ってしっかりとさせて頂きます・・・。」

(??・・・・なななな何故・・・言って・・・しまったーーーーー・・・・・??)

結局、頭の中に在った計画をわずかの希釈も加えることなく、
ただ一方的に提案した臣には当然、多大な後悔が押し寄せて来た。

遠くで何かがガラゴロと崩れ落ちる音がする。
アレコレと思案に思案を重ねて錬り上げたこの計画は、
本来ならゆっくりと手順を踏んでこそ、格別に効力を発するシロモノなのだ。
嗚呼、だけれど、あのままじっくりと相手方の返答を待っていたなら、
馬鹿みたいに騒々しいこの心臓の音が、あの人の耳にまで届いてしまいそうで、
酷く居たたまれなくなり、口が勝手にまくし立てていたのだ。
これでは本当に、何もかもが台無しだ。

(こ・・・こんな・・・はずでは・・・)

「・・・あの・・・。何と言ったらいいか・・・その、色々すみません。」

「・・・?」

見る間に萎れて行く秀麗な顔のその男を、一体どう思ったのだろうか
黙って臣を見上げていた彼の人はやがて、
その小さな頭を大層不思議そうにこくん。と傾けて見せた。

「―っ!!」

刹那、臣の脳髄に言いようのない衝撃が走った。
眼にかかる少しだけ長い茶色の前髪が揺れ、
その向こう側に隠れていた、美しい虹彩の中に光が幾度も乱反射したのだ。
それはまるで青色の焔が踊っているようだった。

「・・・綺麗・・・だ・・・。」

耳に届いた甘ったるい声が、己のそれなのだと気が付いた時、
臣は青く美しい光彩の中に、どうしてか自分の顔が映り込んでいる事を知った。

「―――??」

その不自然な近さに、よくよく見れば何という事だろう?
あろう事か彼の人のまろやかな輪郭を、己の指先が当然のようになぞっているではないか。
仰天した臣はそのまま、慌てて後ろへと飛び退った。

「―――っ!!そのっ・・・お顔の色を拝見した所、
ど・・・どうも御気分が優れないようですので、僕はこれにて失礼させていただきます。
お話は体調が戻られてから、またの機会にゆっくりと・・・・
どうか今日の所はゆっくりお休みください。で、では。しっ・・・失礼いたしますっ」

至極もっともらしい言い訳を、無理矢理にコジツケた臣は
一方的に退出を願い出、これまた相手の許諾を得ることの無いまま、
逃げるようにしてバタバタとその場所を後にしたのだった。




:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::




なんだ??・・・僕は・・・
一体、何をしていた――――――っ????

派手な音を立て、後ろ手に閉めた七条邸の重く厚いドアに、
ずるずると力無くもたれかかった臣は、心の中で大絶叫していた。

握りしめたままの、その手汗が凄まじい。
心臓は未だ情けなくも乱れ、後もう少しあの場所に留まっていたならば、
完全に機能を停止していたに違いないとさえ思える。

それにしても、まるで雷光のようなさっきのそれは、
頭からつま先までをビリビリと痺れさせ、
もしかすると思考までも麻痺させたと言うのだろうか。

あの瞬間、胸を突いて湧き出たのはただ一つだけ。
美しき対の蒼玉に『ただ触れてみたい』と言う猛烈な欲求だった。

まるで蝶が花の蜜に吸い寄せられるかの如く、それに抗うことが出来ずに、
この足は勝手に歩を進めてしまっていたのだ。
本当に自分の行動が全くもって理解できない。

臣はすぐさま、妖狐族の強大な力の所為かとも疑ったが、
それは万が一にも有りえない事だと頭を振る。
ここは代々「祓い屋」を生業とする七条家なのだ。
幾重にも張り巡らされた高度な結界と、あの強大な退魔の力を持つ刀がそれを許す筈もない。

!!!お・・・恐らく・・・・・・・極度の寝不足の為、
・・・・心身ともに耗弱状態・・・だったとしか・・・・。

臣は膝を抱え込んでうずくまったまま、幾度も深い呼吸を試みた。
やがて段々と乱れた心拍が落ち着いてくるのが分かり、混乱を極めていた脳の機能が、
どうにか正常化しつつあることが実感できて、やっと安堵することが出来る。

(そうだ、僕は・・・いつもの僕ではなかった・・・。)

幾度か小さく頷きながら、そう自分に言い聞かせる。

「・・・九尾の狐・・・か」

妖狐族の中に九尾の狐が存在する事自体は知ってはいたが
実際にその姿を直接目にする日がこようとは、正直思ってもいなかった。

常に妖界の高位に位置する妖狐族の中に在ってさえ、
九つの尾を持つ狐の生まれる確率は非常に稀らしく、
その美しい容姿もさる事ながら、他者よりもずっと強大な妖力を内包した圧倒的な存在は、
一族の象徴として大切に扱われることが多い為、
古より、滅多な事で他者の眼に触れる事は無いと聞いている。

そういえば、今現在の妖狐族の族長は九尾の狐だと
確かな筋からもたらされた情報はあったが、
誰もその姿を直接目にした事は無かった為、
人界にあっては今日まで、九尾の狐が実在するのかどうか
憶測の域から出ず終いだった事を思い出す。

そう、九尾の狐は確かに存在した。
そして、それは間違いなくこの扉一枚隔てた向こう側に在るのだ。
本来の自分ならこの願ってもない機会に、
様々な対話や情報の交換を嬉々として試みている筈だ。
・・・だがしかし、この有体は一体どうだ。

「・・・・・・・・まさに人生の汚点・・・」

ぼそり、と呟いて、深くうつむいた臣の視線の先には、
さっきからずっと握り閉められたままのこぶしがあった。

「・・・。」

気のせいか未だ指先が痺れているような気がする。
この指の先にあったのはあの美しく煌めく青色だ。

思えば、人生の中であれほど何かに感銘を受けた事が今まで自分にあっただろうか?
光を受けて、淡く優しく光るその姿を、ただ素直に美しいと心の底から思った。
半ば自棄となり勝手に醜悪な姿を決めつけていた分、事実を知ったその衝撃は半端無い。
それほどに、彼の人はあまりに気高く美しく、もはや妖と呼ぶ事さえはばかられる。


嗚呼、相当に礼儀を欠いた自分の事を彼の人はどう思ったことだろう。
結局、最後まで引き結ばれたままの小さく朱い唇からは、何も聞く事は出来ず終いだった。

あの美しい対の蒼玉は、一体どんな思いでこちらを見つめていたのだろうか。
どこまでも澄み渡る空のような色をした、青く美しい瞳。

「・・・いや、違う。あれは・・・そんな色じゃない。」

あれはきっと、この空の最果てに在る、空気さえ希薄な場所から切り取られた色。
それは近づく者全てを惹き付け、そして容赦なく拒絶する 紛う事なき至高の貴色だ。

「―ーー???っ?」

どうした訳か、先程まで落ち着いていた心臓が、
またドクドクとせわしなく臣の体中に血液を送り始めた。
気のせいか、呼吸さえ苦しくなったような気さえする。

(もしかして・・・不整脈??とか??)

確か先日の検診では特に異常なしとの結果だった筈なのに・・・と首を捻りながら、
猛烈に明後日の方角へ見当をつけた臣は、
またしても煩く弾みだした心臓を、忌々しげにトントンと小突く。

やがて時間をかけて脚を伸ばして、ようやくその場から立ち上がると
フラフラと覚束ない足取りで、自室へと長い廊下を引き返していったのだった。




どうも、じゅえるです。
またまたご無沙汰しちゃいました。
遅くってすみません。
この度も、お付き合い下さりありがとうございました―。
臣さんは、どうやら初恋に気づいていないようです(笑)


*Edit ▽TB[0]▽CO[0]

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。