ええ。小心者ですから・・・。

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天色恋々歌(あまいろれんれんか)


天色恋々歌(あまいろれんれんか) ◆陸の巻◆

2014.12.08  *Edit 
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天色恋々歌(あまいろれんれんか)
◆陸の巻◆







優しい乳白色の光が室内を満たす。
どうやら今夜は満月らしい。
臣は大きく部屋の窓を開け放つと、胸いっぱいに外気を吸い込んだ。
日中は汗ばむほどの陽気が続いても、この頃の夜風には湿気が含まれてきていて
見上げた月もおぼろに輝いている。
それは、あともうすぐで雨の季節がやってくる事を告げているようだ。

「やあ、蒼月。元気でしたか?」

振り向きながら菫色の視線を手元へと下げた臣は、握る一振りの太刀へと優しく語りかけた。
ゆっくりと主の手により質素な黒塗りの鞘から引き抜かれた長刀は、その美しい姿を月下にあらわにした。

名刀「蒼月」
成人男子の身の丈もあるこの大太刀は、その名の如く蒼い月光を浴び、
刀身に見事な刃波を浮かび上がらせた。
光に呼応するように、まるで濡れて滴るように輝くそれは、
久しぶりの外気を喜んでいる様にさえ見えてくる。

そっと、鞘だけを部屋の隅に設えられた刀台へ収めた臣は、
背筋を伸ばし静かに呼吸を整えると、丁寧に太刀の目釘を抜き、
慎重に作業に取り掛かった。
刀身と柄を分離させ、鍔を外してから刀身に刃こぼれや歪み、
錆や傷などが無いかを入念に確認していく。
それから、重ねられた拭い紙で棟方から丹念に古い油を拭き取ってやり、
仕上げに打粉をぽんぽんとムラがでないように軽く叩いてやる・・・。

冷水で身を清め、熨しの充てられた着物へと袖を通した臣が
作業に没頭するその場所は、自室の端に設えられた二畳ほどの畳敷きの空間だ。
毛足の長い絨毯の上に在る猫足やら、天蓋の付いた寝所等、
所謂ゴシック調の七条家の屋敷の調度品の中にあっては、
中々に不釣り合いな仕様だったけれど、大切な太刀の手入れをする為だけに
臣自らが全てを用意したこだわりの場所だった。

「本当にすみませんでした。全然手入れをして差し上げられなくて・・・」

手を休める事無く、臣は『蒼月』に語りかけた。
縁談話やら転属やらで、自分の事だけに手一杯だった事を恥、
まるで人に向かうが如く刀に向かって素直に詫びを入れる。

「・・・ふふ。」

ふと、珍しく遠い記憶が頭をよぎって、臣は小さく笑った。
世に「妖刀」の二つ名を持つこの刀の扱い方は、全て祖父に叩き込まれたものだ。
昔から自由気ままな父や多忙な母にかわり、幼い自分の世話を焼いてくれたのは
母方の祖父母だったのだ。
思えばこうしてよく、祖父も独り言を言いながら太刀の手入れをしていたっけ・・・
と、紫の瞳が細く眇められたその優しい横顔は、きっと誰も知らないこの青年のもう一つの顔だろう。

「蒼月・・・申し訳ないのですが、またしばらくは退屈をさせるかもしれません・・・。」

いつもより随分と念入りに油をひき、また更に打粉を打ちながら、
臣は蒼月に詫びを入れた。
幼い頃からいついかなる時も離れる事無く、常に身の傍らにあったこの長刀は、
主の身辺が急激に動き出して以来、完全に七条家で惰眠を貪っている状態なのだ。
と、いうのも新しく配属された町役場・・・
否、帝都直属第三近衛部隊は壁に「笑顔で築こう友好の輪!!」と言う
意味不明なスローガンを掲げており、街の平和と人間界、妖界、
両市民のよりよい生活の為、いかなる面倒事も笑顔で引き受ける!!
という、実に厄介な事をモットーにしている部署であった。

そのため、一般市民の要らぬ恐怖心を煽るという事で、
「内勤中は一切の帯刀を許さない」という、内部規定がまかり通り、
更には誰もそれに異議を唱えないという、
臣にとっては二重の驚愕の事実が存在している部署なのであった。

「まあ、多分・・・あそこにいる限りは、絶体絶命って場面には
遭遇する事もないでしょうからねえ・・・。」

ここ数か月、処理した様々な案件を思いだした臣はほんの少しだけ遠い目をした。

・・・・妖夫婦の喧嘩の仲裁・・・ってアレは本当に軍の仕事なんでしょうか。
うーん。迷子妖猫の捜索って言うのもありましたか・・・。
まったく・・・あんなでかい猫を飼うなんて絶対に有りえない・・・
あ・・・。妖蜂の駆除
アレは珍しく若干危険な任務でしたか・・・。

思い起こせば本当に、雑多で些末でくだらない案件ばかりだった。
だがしかし、そんな雑多で些末でくだらない案件にさえ、
いちいち自分は振り回されっぱなしなのだから、不甲斐なさに涙が出そうになる。
ついうっかり溜息を吐き、床に突っ伏しかけた臣だったけれど、
この大切な刀の手入れだけは、どうしたって続行させなければならない。

「・・・さあ、出来ました。これでまたしばらくは大丈夫でしょう。」

かちぃん。と小気味良い金属音を響かせた鯉口が、作業の完全終了を告げる。
刀台に太刀を置いた丁度その時、臣の耳に鐘を午前一時を知らせる柱時計の音が届いた。

「・・・もうこんな時間だ・・・。」

時刻を確認する為、一度時計を見た臣は、
どうしてか大げさに肩をすくめ、ことさら残念そうに頭を振った。

「だって・・・仕方がないじゃないですか。
こんな時間に唐突に伺っては、やはり失礼というもの。
僕はぜひ会ってお話を山ほど伺いたいのに、非常に残念です。
ああもう本当に、残念です・・・」

独り言と言うにはあまりに大きなソレを吐き出した臣はその後、静かにうな垂れた。

実は初顔合わせのあの日以来、妖狐族の子息には会っていないのだ。
本当は今すぐ会って、あの時の非礼を詫びたいと思っているのに、
もしかすると拒絶されるかもしれない・・・と想像するだけで、
何故だか、酷く不安になってしまい実行に移せないでいる。

あの時、彼の人の眼に自分は一体どう映ったのだろう?
礼儀を欠いた唐突な物言いと、無礼な態度にやはり怒っているだろうか?
それとも、呆れているだろうか?
もしかしたら今頃は、人選を誤ったと後悔し新たな斡旋を始めているか、
最悪、妖界に戻る段取りをしているのかもしれない・・・・。

そんな考えに陥ってしまえばもう、すっかりとお手上げ状態だった。
未だかつて体験した事の無いこの正体不明の感情は、心に延々と澱のように降り積もって
鬱陶しく、もどかしく・・・何というか、実に気色の悪い事この上無いのだ。
眉間の皺をことさら深くして臣は、うーんと唸った。

「・・・でも、もう・・・色々限界でしょうねえ・・・。」

そもそも処理能力に長けた臣にとって、仕事環境が変化した所で別段何の問題もない。
この男にとってせいぜい2日もあれば理解⇒再構築⇒処理の最適化。が迅速に行われ
定時に帰るなど造作もない事なのだ。

実の所、あのワザとらしく机に山積みになっている仕事は、
ちょっと本気を出せば半日程度で終わる代物だったりする。

「まあ・・・我ながら、実に姑息な手段だとは思います・・・けど。」

そう。
どうしても妖狐族の子息に再び会う事が出来ずにいた臣は
周囲に気が付かれないような微妙なさじ加減で仕事を引き伸ばし、
毎日の帰宅が深夜になるよう時間を調整する事により、
物理的に面会できないと言う口実を己の中に作っていたのだった。

「でも・・・そろそろ、あの人が嗅ぎつけそうなんですよねぇ・・・」

近頃、やたらと幼馴染が自分の部署を訪問してくるのは
突然、第一線の護送部隊から強引にほかの部署へと転属し、
暇を持て余しているから・・・と、いう理由なんぞではない事なんて端からお見通しなのだ。

日参する美貌の幼馴染に、同僚や上司等は異常に浮き足立っていたが、
決してあの見てくれに騙されてはいけない。
美しい薔薇には棘があるように、西園寺は臣が知る誰より辛辣で容赦がない人間だ。

おまけに彼は、迷惑な程の好奇心を常に持て余しているのだ。
『苛烈』な性格に『好奇心』を加えると『嗜虐性』という
恐ろしい答えが弾き出される事を、臣はとうの昔から身を持って学習済みだった。

(本当に・・・もうこれ以上、面倒事を増やさないでほしいのに・・・。)

常に刺激に飢えている西園寺の事だ。
臣が施した小細工など瞬時に見抜き、嬉々として指摘してくるだろう。
彼が興味を持ったら最後。
周囲が大波乱に巻き込まれるのは必須事項だ。
だかしかし、かき回すだけかき回すくせに当の本人は全くの無自覚というから
危険極まりない。

「とにかく・・・郁が余計なちょっかいを出してくる前に
なんらかの対策を取らねばなりませんねえ。」

嗚呼、でも、いったいどうやって・・・と、固くしこるコメカミを
グニグニと乱暴に揉みほぐしながらまた臣は、今日何度目か解らない溜息を吐いた。

「?」

と、耳が小さく頼り無い音を拾ったのはその時だった。




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