ええ。小心者ですから・・・。

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天色恋々歌(あまいろれんれんか)


天色恋々歌(あまいろ恋々歌) ◆漆の巻◆

2014.12.08  *Edit 
▽TB[0]▽CO[0]

天色恋々歌(あまいろれんれんか) 
◆漆の巻◆






・・・・コン・・・。

気の所為でなければソレは、誰かが自室のドアを叩く音のように聞こえる。

「・・・?」

時刻はすでに深夜。
火急の用事が無ければ、家人の誰も訪問してくる時間帯ではない。

・・・コンコン!

今度はさっきよりも明確な音が部屋に響いた。

「―――ちっ」

恐らくは毎度おなじみ、あの我儘気儘な父親の迷惑行為だろうとあたりを付けた臣は
早急にそれに抗議をする為、小さな舌打ちと共に、いつもより乱暴にドアを開け放した。

「――――っ??!」

だが、照明が最小限に落とされた廊下に立つその人物は
あらかじめ臣が想定していた目線のずっと下に存在していたのだった。

たった一人きり、臣を見上げるその人物の背後にゆらゆらと揺れる尾は、
暗闇の中にあってもぼぅ。と白く、まるで発光している様にさえ見える。

「・・・。」

無言のまま、自分を真っ直ぐに見つめる空色の瞳のその真摯さに、
やはり帰りたいと直訴にでも来たのだろうか?と勝手に勘繰れば
どうしてかきゅっ、と気道が狭まり、臣は言葉を発することが出来なかった。

様々な覚悟に身を固くした臣の横で、真白な尾がふわり、と。空気を揺らした。

「・・・ぇ?」

予想のつかない御曹司の行動に、うっかり遅れを取ってしまった臣だったが、
戦闘に慣れたその身体は、無意識下でも軸を反転させる事に辛うじて成功していたようだ。
臣の脇をくぐり抜けたその後ろ姿を追いかければ、御曹司は吸い寄せられるように
部屋の片隅に置かれた刀台へと近づいて行く。
彼の人は、ついさっき手入れを終えたばかりの蒼月を手に取ろうとしている所だった。

蒼月の刀身は臣の身の丈を軽く超える。
見てくれは細身だが、大層不思議な事にその重量は尋常では無く、
余程の鍛錬をした者でなくては振り回す事さえ儘ならない。

「―――っ!!何を!!」

それに触ってはいけない!!と咄嗟に声を荒げた臣は
長い脚を折り、すぐさま跳躍の姿勢に入った。

蒼月は普通の刀ではない。
恐ろしいほど強大な力を宿す破魔の剣なのだ。
妖である御曹司が手ずから剥き身にして、無事でいられる保証は何処にもなかった。

なんとしても、太刀がその身に触れるのを阻止しなくてはならない筈なのだが、
どうしてか臣のその脚が伸ばされる気配は無く、
代わりにその菫色の瞳が、これ以上ないと言う程大きく剥かれた。

「・・――――??」

右に左にひらひらと太刀が舞う。
なんと彼の人は大太刀を、片手一つ楽々と振り回しているではないか。
持ち主である臣でさえ、両の手を添えなければ支えきれぬモノを、だ。

「・・・なっ!?」

やがて、臣が刀を奪い取る為に伸ばした手を降ろすのと、跳躍の為、
体中の筋組織に蓄積させた力が同時に解放されて膝がゆっくりと折られてゆく。
臣は、ただぼんやりと目の前の景色に見とれるしかなかったのだ。


それは超重量級の蒼月の重さを全く感じさせない、剣舞のような軽やかさだった。
月光を纏って、まるで身を震わせるように青白く輝く蒼月の太刀筋は、光の弧を描いて宙空を舞うのだ。
さっき自分が手にした時よりも、ずっとずっと美しく輝いて。

「・・・。」

長刀を月にかざすその横顔が、何処となく嬉しそうに見えるのは何故だろう。
御曹司のその瞳は懐かしさを帯びて、まるで古くから蒼月をよく見知った風だ。

さて、この人はどうしてこんな風に蒼月を見つめるのだろうか?とか
たった一人きり夜更けに自室を訪ねてきたのはどうしてだろうか?とか、
さっきから実に沢山の事が、頭の中に浮かんでは消えて行くが、そんな事はどうでもいい。
蒼月へ注がれる眼差しは深い慈愛に満ちていて、胸が締め付けられるほどに美しかったから。






どれ程経った頃だろう。
呆ける臣の鼻先へ、にゅっ、と黒塗りの鞘が突きつけられた。

「!!」

不意を喰らい、弾けるように見上げた先には
一体いつの間に納めたものか、しっかりと元の鞘に落ち着いた蒼月が見えた。
もう満足したのか、其処には太刀を大切そうに抱いた御曹司が、
臣を真正面から見つめてニコニコと破顔しているではないか。

「――――っ////////あ!?ああ、申し訳ありません」

急に熱を帯びたその頬を見られたくなくて、
臣は御曹司の手元から奪い取るようにして太刀を受け取ると、慌ててその顔を反らした。

「ん?!」

・・・つもりだったのだが、どうした事だろう?顔がさっぱり動かない。
臣の顔は今、御曹司の手によって固定されていた。
しかも、ものすごい力で、だ。

「・・・な・・・っ?」

流石の臣も困惑を露わにし、激しく抵抗を試みたが、
大層マヌケな事にバタつくのは顔面以外の手足のみ。
非力な分類には到底入らない一軍人が、しっかり、がっちり、
ぎゅうぎゅうに固定され、眼を逸らす事さえ許されないのだ。

「何・・・を・・・」

その喉は、もしかすると大声をあげるつもりだったのかもしれない。
だがしかし、目の前いっぱいに空色が広がれば、それは小さく掻き消えてしまっていた。

やがて美しく青い空がどんどんと近づいて、あともう僅かで唇が触れてしまいそうなその距離に
仰天した臣は、ぎゅっと目を瞑ったまま闇雲に手足をバタつかせた。

(・・・やっと、お話が出来ましたね。)

それは酷く優しく静かな声だった。

(俺。啓太って言います。)

それは頭の中に突如として木霊のように響き渡ったのだ。

(俺、人界に来ることが出来てすっごく嬉しいです。)

余韻を残して脳内に広がって行くその声に、懐かしさを覚える。

それは一体何だった?
あれは一体いつだった?

目の前に蒼天の空がある。
美しい、美しい僕だけを映す空。

ああそうだ。あの人はいつだって誰より優しくて、誰より強かった。

(・・・??あの人??・・・・あの人って誰?・・・)

心の奥底に、凝り固まっていた何かがどろり。と溶けた気がしたその時、
臣は初めて己の鼻先にひやりとした感触がある事を知った。

「・・・・は?」

恐る恐る目蓋を開けて見れば、どうしてか己の鼻先にぴたりと密着する御曹司の鼻がある。
事態をようやく認識した臣は、ついに声にならない声を上げたのだった。

「~~~っ?○?☆▽●×!!っ???」

(それから、あおを・・・蒼月を大切にしてくれてありがとうございます。
・・・あの子がね、言ってました。いつもとても丁寧に世話をしてくれるって・・・。)

「!!?・・思考!!思考を読んでるんですか??!?」

(えと・・・ごめんなさい。俺、人語が全然しゃべれなくって・・・
でも大丈夫!!こうすればすぐに考えている事が判りますから。楽ちんでしょ?ね?)

(――――精神・・感応・・・)

(はい、身体を接触すると伝わるんです。人それぞれですけど、俺は鼻が得意かなぁ・・・)

へへ・・・と照れくさそうに笑う声が、また臣の頭の中に広がって、
目の前の瞳がへにょり、と崩れた。
何の屈託も無く笑うその顔は幼子のようで、とても同性とは思えない程に愛くるしい。

「―ーーーっ?!」

途端、臣の心臓は勝手に大きく跳ねだした。
先ほどよりさらに熱を上げてゆく頬が容易に想像できて、猛烈に焦った臣は
必死に身を離そうとしたが、この細い腕のどこにそんな力があるのだろう。
御曹司は決してそれを許してくれない。

(えーっと、あの・・・な・・・何故、蒼月の名前を・・・)

諸々居た堪れなくなり、ついに耐えきれなくなった臣は場を繋ぐため、
視線だけを明後日の方角へと外して、適当に思いついた質問をぶつけてみる事にしたようだ。

(あれ・・・?ご存じないのですか?あの子の出自は妖狐族なのですよ?)

(?????は??)

(蒼月は妖が鍛えた刀です。随分と昔、妖狐から七条家へ渡ったと聞いています。
あの・・・俺、人の言葉を一生懸命勉強します。だからどうか、一生あなたのお側においてください。)

(???????)

相変わらずがっつりと羽交い絞めにされたままの臣は、白目を剥きそうになった。
いや、実際、ほんの少しは剥いていたかもしれない。
当たり前だ。
体裁を取り繕う為だけにした質問に、とんでもない答えが返ってきたのだ。

この人は何と言った??
僕の蒼月が、妖狐族で造られた??
妖狐から七条家に渡った??
それに・・・人界の言葉を理解していない??
は???
はぁ??????????????

確かに、御曹司の主張自体は記憶できている。
だがしかし、残念な事に今は脳が全ての作業を放棄しており、内容が上手く飲み込めていない。

(あの・・・。大丈夫・・・ですか・・・)

(だ、大丈夫も何も・・・。まったく・・・さっきから動悸が激しいし、
喉が渇いて物凄く息苦しいっ!!大体にしてこの状況が
脳の非効率化を招いているんじゃないですか・・・・。)

(あ・・・ごめんなさい。)

「―――!」

しまった、全てがダダ漏れだった。と思った時にはもう遅い。
目の前にある青色の光彩が所在なさげに小さく揺らいですぐに、
さっきまで全く動かす事が出来なかった顔が、簡単に本来の自由を取り戻していたのだ。

心底ほっとしたけれど、白い指先が自分の輪郭からそっと離れて行くのを見た時、
心がちくり、と痛んだのはどうしてだろう。

(いやいやいや―――今はそんな事を気にしている場合じゃ・・・。)

素早く立ち上がった臣は、矢継ぎ早に言葉を捲し立てた。
身の内で小さいけれど確実に動き出した何かに、わざと気が付かないふりをして。

「まあ、お伺いしたい事は沢山ありますが、それは追々時間をかけて参りましょう。
ともかく言語の習得が先決ですね・・・。今は良い教材もありますし、
殿下には僕が責任もって完璧に言葉を教えますから、どうかご安心を・・・」

「・・・?」

「えーっと・・そのですね・・・つまり・・・言葉のオベンキョウです。判りますか??」

「???」

「オベンキョウですよ。お・べ・ん・きょ・う!!って・・・ああ!!・・・もう!!」

是が非でも己の考えを伝えようと、臣は大げさな身振り手振りを交えて
話を続けたが、どうやら言葉を解さないと言うのは本当らしい。
身体の接触を解いてからずっと、何をいっているかさっぱりだと言った風に
相手はきょとんとしたままなのだ。

「でーすーかーらーっ!!」

「!!」

不意に手をポン!と打った御曹司がなるほど!!と合点した様に頷いた。
嗚呼。やっと理解してくれたのか、と喜んだのも束の間の事。
両手を大きく広げ、笑顔全開の御曹司が自分目がけて突進してくるではないか。

「ちょっ!!」

だがしかし、同じ間違いを早々何度も犯す臣ではない。
今度はその小さな茶色の頭が、しっかりと固定されてしまう番だった。

「ダメ!!ダメです!!これは絶対にダメ!!もうさせませんよっ!!」

ビシッ!!と御曹司の目の前に両手を交差させて大きな×印を作った臣は、
普段決して使うことの無い表情筋を総稼働させ、まるで幼子にするようにして言い含める。

言葉が解らなくとも、そんな臣の行動を見ればいい加減察してくれたのだろう。
かなり渋々ではあるが、漸くこくり、と一つ頷いてくれた。

「全く・・・このような事は今後一切しないように。は、はしたないですから・・・。」

実に不服そうに、ぷぅっと頬を膨らませて俯く御曹司のその姿を見ながら、
やれやれこれではまるで子守りじゃないか。と臣は半ば呆れた。
だけれど、どことなくこの問題の解決の糸口が見えたような気もして、
ほんの少しだけ安堵したのも確かだ。
言葉が解らなかったと言うのなら、あの日ついうっかり漏らしてしまった計画も
理解できていないという事になるのだから。

・・・なんだ。簡単な事じゃないか・・・。

そう思ってしまえば、鬱々とした思いは何処へやら。
段々と晴れやかな気分になってきた。
随分と時間の無駄ではあったけれど、全ては振出しに戻ったという事なのだから今度こそ、
細心の注意を払って計画を進めればいいのだ。

一旦は頓挫しかかったこの計画だったが、どうして、どうして。
ここに来てなんだか形勢逆転の気配だ。
しかしながらこの計画については、色々と詳細を詰める必要性があるのは確かで、
その為にもここは一人きり、ゆっくりと考えをまとめたい所だった。

「さあ、殿下。寝室にお戻りください。今頃、従者の方がさぞご心配されてる頃でしょう。」

現金なもので杞憂が無くなった途端、本来の冷静沈着さを取り戻した臣は、
口調も大層滑らかに、御曹司へ部屋からの退室をさり気なく促しにかかった。

「夜も大分更けました。この続きは明日にでも・・・。」

努めて優しくそう言った臣は、ドアノブへと手をかけ、ゆるりと進路を指し示した。
さあ、殿下?・・・ともう一度問いかけようとしたその時、さっきからずっと
俯いたままだった空色の瞳の焦点が、ゆっくりと臣へと合わせられた。

「・・・おみ・・・。」

まっすぐにこちらを見上げたその口が象ったのは、紛う事なく自分の名だ。
それを耳にすれば、さっきよりも一際大きく心臓が撥ね上がった。

「?!」

中空でほんの僅か、穏やかな空色と困惑した菫色の視線が混じり合ったけれど、
それはすぐに解かれてしまった。
御曹司が諦めたように小さく手を振って、来た時と同じようにまた臣の横をすり抜けて行ったからだ。
未だ臣の手の中にあった蒼月を、愛おしそうに一撫でして。

「お、おやすみ・・・なさいませ。」

その後ろ姿が、廊下の暗がりに消えて行くまで
頭を下げた格好で見送った臣は、随分と緩慢に上体を起こした。






::::::::::::::::::::::::::::::::::

再び戻った夜のしじまを壊さぬよう、臣は自室の扉を音も無く閉じた。
窓から射し込んでくる月光はどうしてかさっきよりずっと寂しげに見える。
ふと溜息を吐きかけた臣の鼻先をくすぐったのは、部屋に残った微かな微かな香りだった。

「・・・花?・・・」

無意識に瞼を閉じた臣は胸いっぱいに、くん。と吸気した。
それは優しく甘く可憐な野の花の香り。
それはきっと、さっきまでここに居たあの人の残り香。


真面目な顔をして深夜に訪ねて来るから、何かを直談判しに来たのか構えていたら、
大太刀を振り回し、ニコニコと笑み崩れていた。
だがしかし、上機嫌かと思いきや、
次にはもう、頑是ない子供のように頬を膨らませていたっけ。

まったく、これでは先が思いやられるな・・・。と嘆くくせに臣の顔は、何だかさっぱり困っていない。
さっきまで眉間に深々と刻み込まれていた皺だって、いつの間にか消えているのだ。


・・・あの時。
長く艶やかな睫毛に縁どられた空色の瞳が、瞬きもせずに
ただ自分だけを映しているという事実に、どうして自分は安堵し、
酷く満たされた気持ちになってしまったのだろう。

名を呼ばれて跳ねた心臓が生み出した、あの痛みの正体は何だったのだろう。
じわり、と甘やかな疼きさえ伴って、この体中を駆け廻る
決して忌むべきモノでは無い、奇妙な感覚の正体は一体・・・。

確かめるようにもう一度、臣が吸気しかけたその時。
ふる・・・、と小さく手元が震えたような気がした。

「・・・!?」

そう言えば、蒼月は未だ己の手の中にあるままだ。
この大太刀は妖狐族が鍛えたのだと言う、彼の人の声が頭を駆け巡れば、
途端、臣は己の行動の何たるかを自覚して盛大に咳き込んだ。

「―――っ!!ごふっ!!げほっっ!!・・・・
いやいや!!ですからっ!!それはきっと珍しいモノが新鮮に見えるだけと言うか!!
ほら・・・が、学術的興味も十二分ありますしっ!!ごふっ!!ごふっ!!
何と言いますか・・・つまり・・・。その・・・えーっと・・・。
明日・・・ええそうです。明日!!また改めて考える事にしましょう。それが良い。」

色々と言い訳めいた言葉を、手元目がけて並べ立てたのは、
なんだか蒼月に笑われているような、そんな気がしたからだ。

「・・・/////////////」

ついにモゴモゴと口籠ってしまった臣は、赤面しながらいささかぞんざいに
刀台へと黒塗りの鞘を納めたのだった。

その夜。
またもや一睡も出来なかった臣は、悶々として朝を迎える事となった。






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