ええ。小心者ですから・・・。

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悠遠夜話<本編>


悠遠夜話『参』

2010.03.19  *Edit 
▽TB[0]▽CO[0]

自分が囚われて贄の身となったあの日から一体どれくらいたったのだろう。
山神様には会っていないが 傍らにはそっと銀の虎が寄り添うようにいつも居てくれた。
神様じゃないのかもしれないけれど 
名前がないと不自由だからと言って、啓太は銀の虎を「山神様」と呼ぶことにした。



こんなに穏やかな気持ちになれたことは今までなかった。
柔らかい草の中にごろんと横になって手足を伸ばす。
花の匂いに眼を閉じる。聞こえるのは小鳥のさえずりだけだ。

「俺。幸せだな・・・。山神様。」
横になったまま 手を伸ばしゆっくりと腹を撫でてやると目を閉じるから
きっと気持ちがいいんだろう。

こんなに幸せな気分になったことなど 自分が今までいた世界ではなかった。
いつもお腹がすいていて いつだって一人ぼっちだった。
一人丸くなって恐ろしい真っ暗な夜が過ぎるのを待った。
でも明るい朝が来たからといって、昨日と同じ今日があるだけだった。

何のために生きているのか判らない、死ぬために毎日を生きているのと同じだったから、
別に贄になって喰われてしまうのも構わないかな と思った。

厄介者と みなから拒まれた。
誰も自分の事を見てはくれなかったから、最後に何かの役に立って死ねるのならば
それが自分の生きた証になるかも知れない。
今ここに生きた証。自分が存在する理由が欲しかった。


ここは・・・・。
どこもかしこも夢を見ているような美しい 美しい所だった。
さらさらと絶え間なく流れる川も 揺れる木々も、優しい木漏れ日も 薫る風さえも
みんな 丸ごと啓太を包んでくれた。
もう何も啓太を拒まない。

そして、いつだって隣に美しい虎が居てくれる。
もう、一人ぼっちじゃない。一人じゃない

でも、自分は贄としてこの山に送り込まれてきたのだから
 災厄をはらって頂く代わりに命を捧げなければならないのだろう・・・
偉い神官様も言っていた。
神に身を捧げるのだと。
ここに来てからは、もう明日の事を思って泣く事は無かったしお腹がすいて眠れなくなる事も無かった。
毎日、虎と戯れ時間が過ぎていくのだ。生まれて初めて感じる幸せというものがここにはあった。
きっともうすぐ 命の灯を奪われてしまう贄への神様のお情けなのだろうと啓太は思う。

充分だ、もう充分
 身に余るほどの贅沢だ。
これ以上ここで幸せに浸ってしまったなら 自分はもっと生きていたくなる。
贄になりたくなくなる。
欲張ってもっとこの幸せを長く味わいたくなる。

あの暗闇の中、最後に意識を手放した時には確かに
何もかも受け入れられたのに 今は限りある命が惜しい。
もっとずっとこの虎と共にいたい。

・・・・。でもそれはいけない事だ。
麓ではみんな 雨が降るのを待っている。 災厄が祓われるのを待っている。
自分一人の命より何百、何千の命のほうが重いに決まっている。

だから、この美しい虎に礼を言おう。こんな自分の側に居てくれてありがとうと。
生まれて初めての幸せをありがとうと。お前といて嬉しかったと。
俺の事 覚えておいてと。
どうしようもなく泣けてきて 呟くのが精いっぱいだった。

「山神様・・・。  ありがとう」

鼻の奥がきゅーっと痛くなって空色の瞳から涙が零れ落ちる。           
啓太は それを隠すようにそっと起き上って
 出会ってからずっと傍らにあり続けている銀の虎の背中に顔をうずめた。


しゃくりあげ 泣き終わるのをじっと待っていた銀の虎に啓太は
「さて、もう帰ろうか。山神様。ごめんね。俺心配かけちゃったね。」
ごしっと勢いよく赤くなった眼もとをこすって にこりと顔をあげた。




その時。
ざああああ________________________________ 。っと
色とりどりの花弁を巻き上げて強い風が吹いた。
 一瞬視界を奪われて 啓太は足元の小石に躓き、ころんで鼻先をぶつけてしまった。

「っつててて。」

かっこわるいなーもう と呟きながらすりすりと手でさする。
膝に着いた土を払って立ち上がろうとした時、目の前に大きな手がある事に気がついた。

「へ?」
突き上げられるようにして 手の先の主を見る。

そこには 美しい 見た事もない銀髪の長身の男が立っていた。
また強い風が吹き啓太の視界は花びらの嵐で閉ざされた。

「大丈夫ですか?」
いつの間にか傍まで来ている男に腰を抱きとめられていて 青い眼を丸くした。

「えと。あの。どちらさま?」

何となく間が抜けている質問ではあるが 男に問うてみる。
ぐいっと腰をひき寄せられれば 身体が密着して ただ男を見上げるだけしかなかった。
その銀髪の男はかなりの長身だったから。


風が静まって 天からさっき巻き上げられた花弁が雪のように二人に積もる。
 茶色の髪に 銀の髪に はら・・はら・・ひらりと

「啓太君 鼻 大丈夫ですか?」
美しい顔がすうっと近付いてきて ちゅ。と唇が鼻先を掠めていった。


「!!??」
紫の瞳が優しくほほ笑んでいる。

紫の瞳が・・・・。優しく・・・・。なんて美しい
紫???

はっとして 長い腕に抱き込まれたままだった啓太が
 急いでぐるっとあたりを見回すが
傍らにいつも居るはずの虎の姿はここにはなかった。
 
「え・えーと 山神様~?」と小さく一言呼んでみた。


「はい。なんでしょう?啓太君」
頭の上からこの上なく甘く優しい声が降ってきた。

顎を長い指で固定されて上を向けさせられる。
啓太は紫の瞳に囚われてしまった。呆けた顔で自分が紫色の中に写っているのが判る。
「?? あの・・ 」

固まってしまったままの啓太の空色の瞳を男は見詰めたまま
「臣。と呼んでください。啓太君」
と低く甘やかにつぶやきながら、ぐぐっと近づいてきて ぺろりと 頬を舐めた。


銀の虎がいつもしてくれたその行為に・・・
だが虎のそれとは明らかに違う感覚に啓太はびくりと身をすくませてしまった。

啓太の柔らかい頬から流れるように白い首筋まで何度か舐めあげてから
小さな耳の後ろへたどり着いた。
不埒な舌先は尚も蠢く
「~~~~!!」
成すすべもなく 耳まで真っ赤になりながら 身をすくませる啓太に
男はひどく嬉しそうに紫の瞳を細めるのだった。








臣さんやっと登場~

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