ええ。小心者ですから・・・。

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悠遠夜話<本編>


悠遠夜話『肆』

2010.03.19  *Edit 
▽TB[0]▽CO[0]

「あの・・・。えーっと」

臣と名乗ったその男は、ずっと啓太の傍らにあった銀の虎だと言う。
にわかには信じ難かったことだったが、あれから啓太の側に寄り添うのは虎ではなく
この男だった。
光る銀色の髪も紫色の美しい瞳もあの銀色の大きな獣と全く同じだったし、
たった一度だけ眼の前で「ふふふ。特別ですよ。」
と変化してもらったから疑いようもなかったのだけれど。

もうずっと男は人型をとっていた。
もちろん、虎がそうしていたように片時も啓太の側を離れることはない。
今日も日が落ちて 柔らかな褥へと先に身を滑りこませ
ポンポンと自分の隣を叩いて見せる。
「どうしました?早く寝ましょう?」

真っ赤になり口ごもりながら啓太は臣に向かって言った。
「その・・・きょ、今日もやっぱり人の形なんですか??」と。

にっこりほほ笑んだ 紫の瞳はそれが何か?問題ありますか?と逆に問うてきた。

そ、その 緊張するってゆーか もごもごと上手くしゃべることが出来ない啓太を
愛おしそうに褥から見上げながら、焦れたのか長い腕を伸ばして
啓太をぐい。と傍らに引きこんでしまった。

「わわっ」
暴れる啓太をぐるっと回し自分の胸に抱き込む。啓太の髪に鼻先をうずめながら
「どうして?いつも一緒に眠っていたじゃありませんか」と吐く。

「ええっ?・・・それはそう・・デスけれども・・・。」
あうあうする啓太を更にきゅっと近くによせて 
どちらも同じ僕なのに、寂しいです。啓太君は人の僕より、
虎の僕の方が好きなんですね。あんまりです・・・。
酷いです。とさして辛くもなさそうに つらつらと並べ立てた。

そう言われてしまうと優しい啓太はもう何も言えなくなって。
ぎゅーっと力一杯眼を閉じて 耐えるように身を固くするから。
「啓太君」
一言そう言って臣は 抱きしめる腕の力を少しだけ緩めて ふんふんと鼻を鳴らして
啓太の髪に鼻先を突っ込んできた。

ふんふんふん・・・・。

「山神様っ??」これは何事かとたまらず啓太は固く閉じていた目を開いた。
罠にかかったことを啓太は気づけない。

「臣・・・ですよ。啓太君」  すかさず間違いを訂正させられる。
さあ・・・臣と。
ねえ 名前を呼んでください。と紫の瞳にねだられる。

「うう・・・お・みさ・・ん」  だめ。もう一度。
「お・・・みさん」   いけませんねえ。きちんと言って?ね?
「お、おおお俺 やっぱ無理ですっ」
啓太の限界を知ってやれやれ、と小さくため息をつく
「だって、君は僕の花嫁さんなんでしょう?」と 
人型になってから何度も言われたそのセリフをまた吹き込まれる。
ボンっと音をたてて口をぱくぱくさせている。
ぼくのはなよめって はなよめって・・・と うわ言のように繰り返す啓太を
蕩ける様な紫の瞳でうっとりと見つめる。

この魂は何と清らかで美しいのか。

死の間際、ひとは色々なものに囚われる。
よほど老成した人物でもない限り、無の境地で死を迎えることは難しい。
くるしい。つらい。いたい。にくい。しにたくない。あれもこれも・・・。
人間は 特に成長した人は 兎角 醜い。

呆れるほどに弱いのに いつまでも醜く争って 自分より弱い物を喰い物にして、
強い者に媚びへつらう。
必要以上に奪って必要以上に殺す。
物言わぬ動物たちの方がずっと聡い。
嗚呼 反吐が出そうだ。

自分以外の仲間たちはそんな人間たちに愛想を尽かして ここから自分たちの世界へ帰ってしまった。
唯一この 人の世界と自分たちの世界を繋ぐ道がある 中間地点へどうして自分だけ留まったのか、
あまりにも長い年月を経てしまってもう忘れてしまった。
 
長い間 ずっと見ていても何も変わる事は無かった。人は相変わらず醜い。

いつだったか 大昔 気まぐれで 
日照りのつづく人の世界へ雨を降らせてやった事があった。
雨乞いの中途半端な 縛りの力を持つ祝詞と
昼夜問わず 叩かれる太鼓の音が 至極 耳ざわりだったから。

するとどう言ったわけか
愚かなその国の人間は年端もいかない小さな赤子を礼だといって山へ放り込んだのだ。
幸い、その子は仲間に助けられ悠久の命を与えられ 自分たちの国で今でも幸せにしている。

そして・・・。
また 日照りが続いていた。どうなるか 今度こそ黙って見ていようと思っていた。
別に何人死人が出ようと、国が一つ滅んでしまおうとも関係無かったから。

大方、大昔の伝書を引っ張り出して調べたのだろう、人身御供を差し出してきた。
まったく。本当に人は馬鹿ばかりだ。歴史も正確に伝えられないとは。

こんどの贄は少し大きくなった人間だから、さぞかし醜い恨み つらみを心の中に持っているんだろうと
顔をしかめて様子を見に行った。

反吐が出るほどのうすら汚い 感情の持ち主ならば 一息にくびり殺してやろうと思ったから。


暗い穴の中 その人はいた。
醜い感情は感じられなかった。 それどころか まだ小さな幼子のように 父や母のことを思って深い意識の中 漂っていた。


幼子のような真っ白い魂。穢れを知らない、美しい魂。
ただ 寂しい 寂しいと この魂は震えていた。

いったいどんな人間なのか。興味がわいた。
ただ 知りたかった。話をさせてみたかった。
命を取るのはいつでも出来る。簡単なことだ。人間は非力だ。
もし 醜い心の持ち主だったなら すぐに排除してしまえばいい。

眼を覚ましてすぐに自分を利用した他の人間たちの命乞いをした事に驚いた。
そして しばらく 虎に姿を変えたまま この美しい魂を持つ者と暮らしてみたくなった。

初めは表情も硬く何処かおびえているようだったけれど、 
己に害をなさない獣の姿を 見慣れてしまえばもう気にしてないふうだった。 

元来の性格がそうだったのかもしれない。
彼の人はよく笑い、よくしゃべるようになった。
くるくるとよく変わる表情。大きくて美しい青い瞳。
一瞬たりと目を離す事など出来なくなっていた。

ふにゃと。笑うその顔を見ると 心に甘やかな感情が溢れてきて困ってしまった。
本当にこの少年といるとびっくりする事ばかりだった。

晴れた日は野山を一緒になってどこまでも駆け巡った。 
夜はぴったり寄り添って眠った。
背中にしがみつかせ 山々を幾つも飛び越えて深い谷をわたり 満点の星空を見上げた。 

物言わぬ獣の自分に一生懸命 話しかけてくる様に 自分自身 もうどうしようもなく
堪らなくなってギュッと押し倒して何度も舌を這わせたほどだ。

この気持ちは一体何だろうか?自分でも良く判らなかった。
こんな感情は知らない。今まで味わったことが無い。
優しく、甘美で それでいて少しだけ  苦しい。
人はこの感情を愛しいと言うのだろうか?

あの日。啓太は幸せだと言った。自分を助けてくれてありがとうと。
でも どうか俺の事を憶えていて____________ 。と慟哭に似た心の声を聞いた時。
あの空色の瞳が涙でぬれるのを見て もう我慢するのが限界だった。

自分の本当の気持ちを伝えたかった。見つめ合ってこの二本の腕できつく抱きしめて
もう大丈夫だと慰めてやりたかったから 人型に戻る事にした。




臣さん恋に落ちちゃいました。

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