ええ。小心者ですから・・・。

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悠遠夜話・番外編


悠遠夜話・番外編~西園寺さん編~

2010.04.01  *Edit 
▽TB[0]▽CO[0]

踏み迷った 桃の木ばかりの林を抜けて 身体がやっと入るほどの洞あなへ身をねじ込むと
そこにはこの世の物とは思えない風景がずっと遠くまで広がっておりました。
                                         「桃源郷物語」より



「・・・さま」  「・・・宮様。」

「・・・わが主よ。朱雀の宮様。」

「・・・ああ。」
と気だるげな声が一つ、石造りの東屋の奥から聞こえると
衣連れの音と共にゆっくりとその人物が身を起こしかける。
どうやら横になっていた半身をひねってこちらへ顔を向けたらしかった。

「お休みでしたか。」
と、済まなさそうに大層年嵩の家令はそのすっかり縮こまってしまった腰を伸ばして
階段を衣の裾を踏まないように一段づつ上がりながら 東屋の主に向かって声をかけた。

「いや。かまわん」
少し寝乱れた衣を優雅な手つきで粗放に引き寄せ 袷を整えると 身を起してから
階段を上りきり ふうふう息を切らしている家令の方へゆっくりと向きなおした。

肩にさらりと落ちてきた柔らかな栗色の巻き毛の髪を 
つい。 と指でかき上げて片方の耳へと押しやり、
「どうした?」と呆けている もう随分と長い年月 自分の傍らに仕えている老人をみる。
問いかけられて はじかれたように 我に返る家令がそこに居た。

「あー・・・ごほん。ごほん」
と一つ二つ、咳払いをして家令は年甲斐もなく頬を赤らめてしまった自分を叱咤する。

その年若い主は匂い立つような美しさを持つ人であった。
美の粋を集めて作られた彫像のように完璧な美しさと
凛とした力強さの両方を合わせ持ってそこに存在して息づいている。
白く滑らかな肌と優美な物腰、思慮深い緑色の宝玉のような瞳。
本当に彼の人の美しさは正に奇跡と呼ぶに相応しいものだった。

「白虎の宮様・・いえ、臣様が今度は東の端へ向かわれるそうでございます」
「そうか。」

そう 一つ報告に頷くと 鷹揚に頬杖をつき 東屋の下、遥か遠くまで広がる
桃園へ翠玉の目線を落とした。

そうか、今度は東の端か・・・。
自分の古くからの幼馴染であるあの銀髪の男は、酔狂な事に人間に心を奪われ愛した。
そして、それを失ってしまった時、我を忘れて人間の国を一つ消してしまい
その罰として、もともと持っていた高位の位を剥奪され、
この生まれ育った国から追放されてしまったのだ。
だが、あの男はそんな事には 全く堪えた様子もなく 嬉々としてそれを甘受していた。
出会ったときから何を考えているのか あまりよく判らない奴では有ったが、
突然 仙籍を外れて 自分の愛した人間が輪廻によって転生するのを待つと
言った時には正直自分の耳を疑ったし気がふれたのではないかと幼馴染の頭を心配した。
まったく・・・。

「で?今度は何だ?」
「はい。この度のお出ましは牡丹の花との事にございます。」

牡丹か・・また難儀なことだな・・・小さく口の中で繰り返し、
頬杖をついたまま静かに目を閉じてあの幼馴染を思う。

奴は待つと言った。たとえ百年でも 千年でも。
『必ず迎えに行くと約束したんです』と、ひっそりと静かに笑みさえ浮かべて。

思えば随分と長い付き合いだったけれど、そんな顔は今まで見た事が無かった気がして
可笑しなことに胸の奥が少しだけきりりと痛んだ。
転生すると言ってもそれが必ずしも人間である証はあるまいに。
一度目の転生は確か、・・・蝶だったか。
転生して現し世に生まれいでたとしても、取るに足らない小さな虫だったり
愛をささやく事も出来ない動物の子だったり、物言わぬ植物だったりするから厄介だ。

だがそれを嬉しそうにあの幼馴染は 風のように天を駆けて行って 迎えに行くのだ。
どんな姿形に生まれ変わっても そっと両の腕に優しく抱いて戻ってきて 
傍らにおき 静かに守り愛おしみ それが与えられた天命を全うするのを見届ける。
虫けらや、植物の与えられた時間は至極短い。
その一つ一つをもう何度おくった事か。その度に奴は静かに涙を流すのだ。
そしてまた、恋焦がれて止まない者の次の転生を待つ。
一体今度で幾度目なのか。
どれ程繰り返せば終わりはあるのか?
そもそも終わる事はあるのか?

「臣、お前は幸せか?いつまた、同じ姿で会えるとも限らない、
またお前を愛してくれる証など何処にも存在しないのに、何故待つ?」
「ええ、幸せですよ。郁。・・・あの人は僕の半身なんです。あの人がいるからこそ
僕が存在出来る。己が半身を見つける事が出来た僕はとても幸せです。」
「それに・・・」
小さな虫でも、物言わない花でも、僕たちは解り合えていますよ・・・と奴は優しく笑っていた。


風が身に纏った袖の薄絹を ふうわり。と揺らし桃の花の芳しい香りを運んで鼻先をくすぐる。
閉じられていた目蓋がゆっくりと開かれて翠玉の色が現れ 遠くにかすむ山々を
見るともなしにぼんやりと見渡してから頬杖は解かれた。

いつも、心を閉ざして一人きりの世界に身を置いていた奴を
恋とはこうも変えてしまえるものなのか。
嫌いなものばかりで、好きなものなど一つもないと言っていたあのお前が・・・。
ふふ・・豈図あにはからんや いまではどうだ?大した変わりようだな・・・。

本当に、あの男は千年でも、二千年でも愛しい者を待っているに違いない。
佳配となるべくしてその命を待ち続ける事こそ奴の幸せなのだろう。
そしてきっと愛しい者をまたその腕にきつく抱くのだろう。

そうか。そうだな・・。
と ひとりごちて 口元に弧を描きながらゆっくりと朱雀の宮と呼ばれる
その秀麗な人物が立ち上がった。

さらさらと風が柔らかい巻き毛に纏わりつき 頬を首筋を愛しい者にするように撫でて行く。
桃の花弁の降りしきる 石造りの東屋の緑陰の下
 つい。
と美しい指先を一つ鳴らし その眷属たる風たちに朗々たる美しい声で言い含める。
「我が朱雀の名で命ずる。 風よ風よ 届けておくれ あの男が少しでも心安らかで有るように」
今では遠く離れたあの場所へ。
優しく馥郁ふくいくたる桃の香りを、花びらを。
生まれ故郷のこの香りを。

主からの命に風たちは嬉しそうに鳴らされた指先からその身を撫でるように一回りして、
ざわ。
と石造りの東屋の下に広がる桃の林の中に喜びの声を上げながら降りて行った。

瞬く間に桃の花の華弁をやさしく天高くまで巻き上げて
歌を謳うように風たちは行ってしまった。

もうすっかりと遠くに連れて行かれた花びらたちを目を細めてしばらく見送っていたが
共にそれを見上げながら 側に佇んで何か言い淀んでいる家令に気がつく。
「どうした。」
年齢と共に顔に多く刻まれた深い皺がふと柔らかくなる。
もこもこと口髭を動かしながら、にやりと笑い 年若い主へと進言する。
「若も早う恋をなされませ」
「ぬかせ。じい。」
と もうだいぶ前から呼びなれた家令の呼称を吐き出した。
ふぉふぉふぉ・・恋とは良いものですぞー・・と何やら大昔の事に思いを馳せながら
滔滔と語りだした家令の話をウンザリした様子で半分聞き流す。

大げさな身振り手振りを繰り返しながら自分の恋物語を披露し始めた
家令をちらりと見てからコレは又 中々に長くなりそうだと苦笑いを漏らしながら
ぽんと一つ手を叩き、
そうだ今日は青龍の宮の所へ行かねばならん日であったなー等と
有りもしない予定を口にしてそそくさと東屋の階段を足音もさせずに降りて行く。

後ろ手に家令の あ!若!まだ話は始まったばかりですのに!! と言う声を聞き
少しづつ歩幅を大きくして速度を上げてみた。

そしてついには とん。
と地面を軽く蹴りつけてふわりと宙へと舞ってしまった。

眷属である風たちが主の周りを取り囲み主の麗しさを讃える祝福の歌を謳い始めて
その身を包み更なる高みへと押し上げて行く。

何やら下で手をブンブン振り回しながら家令が喚いているが それは耳には届かなかった。
しかし何故か 恋とは良いものですぞ と言った声だけが耳に残っていて 
あの幼馴染の笑顔と不思議と重なる。

眼下には桃の林が遠く霞む山々まで延々と続き、柔らかな香りが辺りを包み込む。
人間が桃源郷と呼ぶこの世界に果たして自分の半身も存在するのだろうか?
それとも、もっと別の世界にそれは存在しているのだろうか?
自分にとって恋など、些末な出来事であり感興がおこる事柄でもなかったが
 変わっていく幼馴染を見ていると 大層な興味が湧いてくる。

「ふん らしくないな。」
と一つ鼻を鳴らして その美しい顎を上げると 風たちに命じて その身をまた空高く運ばせた。
あとには小さな風の渦が一つ巻き 薄桃色の花弁をクルクルとまわしていた。



悠遠夜話 西園寺さん編でした。
一応、設定として 西園寺さん:朱雀 王様:青龍 中嶋氏:玄武 臣さん:白虎
みたいな感じで四神将に割り振ってみました。
悠遠夜話(本編)から読んで頂けるとなんとなく 解って頂けるかと思いますが、
臣さんは仙人でしたーな設定でした(笑)かなり適当ですみません。
へヴンのみんなを出すとしたら色んな仙人が居るので
割ふり楽そうだな~的な考えが底辺にあります。
ただ知識が無いので続くかどうか怪しいですが。
最後まで読んで頂けて嬉しいです。ありがとうございます。
そんな優しい貴女に、シアワセが訪れますように・・・・。



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