ええ。小心者ですから・・・。

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臣嫁日和シリーズ


臣嫁日和番外編 ~世界で一番君が好き~7

2010.04.30  *Edit 
▽TB[0]▽CO[0]

「♪~」
銀髪の長身の美形が鼻歌まじりに満面の笑みを浮かべてスーパーのカートを押している。
容姿が完璧なだけに見ようによっては かなり危険人物と言えた。

「お?伊藤さんちの奥さん!ご機嫌だねえ?」
鮮魚売り場から威勢のいいダミ声がその危険人物に躊躇もせずに気軽に掛った。

「ふふ。わかりますか?」

昔 得意だった張り付けた偽物の笑顔なんかではない、心からの笑顔で答える。

今日は何かおススメありますか?
なんて、主婦モードの会話を楽しんでいる奥様は
完全にこの街に溶け込んで馴染んでしまっていた。

フレンドリーなスーパーの店員たちが忙しく声を掛けてくるその
一つ一つに丁寧に答えながら、いつの間にか
カートには山盛りの食材が乗ってしまっていた。

うーん。ちょっと買い過ぎですか・・・。苦笑して食材を見ながら
頭の中でそれに見合ったレシピと下処理の仕方をはじき出す。

まあ、いいか。
と納得をしてから、でも・・ちょっと幾らなんでもこれを一人で持ち帰るのは重すぎますねえ。
と入り口近くのカウンターで荷物の宅配サービス手続きをしてもらう事にしたようだ。

その時、紫の目の端に愛しい人物が映り込んだ気がして振り返り、
絶対に見間違える筈もないその愛しい人を確認してから
すぐ 奥様は驚きのあまり固まってしまった。

旦那様は有ろうことか奥様が見た事も無い若い女と連れだって歩いていたのだ。

「啓太君?」

宅配手続きも半ば強引に済ませて、奥様は走ってスーパーから飛び出す。
二人が連れだって歩いて行った方向を確認してから 急いで後を追うために。

この、嫌な感じは何だろう。

旦那様は今、確実に仕事をしている時間の筈だ。それはスケジュールで把握済み。


今日は遅くなるからと念を押ししてから出かけたのに・・・・。

嘘?なんですか?

どくどくと心臓が血流を押し出す音が耳の中で聞こえてくるようだ。
物陰に身をひそめて気づかれないように そっと探偵のように二人を伺う。

もしかしたら取引先の人間かもしれないと、
悪い方向へと はやる自分の気持ちを抑えつけながら
その女性の事をつぶさに観察してみた。

だが、
どう贔屓目に見ても、仕事中の女性には見えなかった。

かなりラフな格好のその女性はもしかすると今日が休日なのかもしれない。

随分と若く見えるから もしかすると大学生なのかも知れないと推測される。

ぴったりとしたミニスカートから覗く 健康的な長い脚が印象的だったから。

いつか、ゴミ捨て場で聞いた近所の奥様達の会話が頭の中で渦巻いている。

旦那様の浮気素行調査は完璧だったはずだ。
浮気の疑いなんてこれっぽっちもなかった。

自分は旦那様を愛しているし旦那さまだって、愛してくれていると思っていた。

週末だってあんなに二人の愛を確かめ合ったのに・・・。

でも、あの笑顔は一体なんだろう。
初めて会う人に向けられる笑顔で無い事は、長い間一緒にいて解る事だ。
それも自分の知らない女性へだ。

・・嘘。
・・知らない若い女。
・・・今日は遅くなる。

キーワードはどんどんと悪い方向へと答えを導き
猜疑心が浮かんでは消え 拒んでも また浮かんでくる。

けいたくん。けいたくん。けいたくん。

しっかりと地面に立っていた筈なのに、ぐらりと足元が揺らいでいく錯覚に臣はとらわれる。

指先から熱がどんどん放出されて行って、
末端から冷えて行き 感覚が無くなって行くようだ。


『あーでも油断は禁物よー。男は若いのなら何でもいいからーっ』

ふと田中さんの奥さんが言っていた言葉を思い出して
これ以上なく むかむかと腹わたの煮えくり返るのを感じる。

女房と畳は新しい方が良いと言った奴は誰ですか―――――。

奥様は身を隠していた壁にガジガジと齧りつくのだった。

ぐぬぬぬぬ―――――。

何ですか。そんな鼻たれ小娘。

そんなしょんべん臭い女の何処が良いと言うんです!!

その美しい容姿には全くもってそぐわない
罵詈雑言を もてるだけの怨念とともに、ありったけその女性へぶつぶつと吐きだす。

身体中から真っ黒な負のオーラをダダ漏れにして 目にはまるで血の涙が見えるようだ。
あまりの歪曲したオーラに飛んでいた雀が目を回して
ぼたぼたと落ちて来た為 次の日の新聞の地方欄に小さく怪事件として
取り上げられたなんて事は奥様は永遠に知る由もない。

こそこそとピンクパンサーのテーマを背負い後をつけて行くと
二人はどうやら、スウィーツで評判の小さな可愛い店へと入って行った様だ。

そこまで来て、さっきまで啓太の隣を陣取る女に向けて口汚く罵っていた
奥様の思考がぴたりと完全に止まってしまった。

ここは、奥様と旦那様の大のお気に入りの店だった。

あの女と一緒にケースの中に並べられた色とりどりの
可愛らしいケーキやクッキーを仲良く選んでいるのだろうか?

僕としたように・・・。

・・・。酷いです。旦那様。

物陰に隠れたまま、生きている限り決して止まるはずの無い心臓が
ゆっくりとその動きを停止させる様な錯覚に陥る。

その感覚に耐えきれなくなって、もうこのまま家に帰ってしまおうかと思ったけれど
果たして、自分があそこに帰っていいものかとふと思い当たる。

二人の為の家。

二人の為の食器。

全部 全部 二人の為だけの・・・・。

苦しくて、苦しくて、息が出来ない。

色をなくしてしまった唇を跡が付くほどきつく噛みしめながら 
そこを動けなくなっていると、可愛らしいドアチャイムの音が鳴って
尾行していた二人が店から出てくるのが奥様の目に嫌でも映った。

二人は手にケーキの箱を二つ持って 何か話し込みながら時折 微笑み合っている。
かなり沢山の好みの菓子が見つかったのかもしれない。

愛しくて、愛しくて堪らないのに。
啓太君。

見たくないのに、どうしても二人の行く先が気になって
そのまま二人を追いかけてしまっていた。

この先 あの二人を追いかけて行って、一体自分は何をしたいと言うのか?

例えば 動かぬ浮気の証拠を掴んだとして、
旦那様の浮気が本気であった場合 自分はどうすればいいのだろう。

考えが全くまとまらないまま、奥様の尾行は続くのだ。



午後の柔らかな日差しが街を包んでいる。
のどかで穏やかなこの街に 今 どす黒い感情渦巻く銀髪の長身が一人。

幅の少し狭い 横断歩道を渡って少し行った角に 道の中ほどまで
色とりどりの季節の花々を並べている小さな花屋がある。

その前でまた二人は立ち止まって 指をさしながら品定めをしているから
どうやら今度は花を買うようだ。

女は啓太の事を見上げながら、
そっと何事か言うと啓太は慌てたように 真っ赤になってしまっている。

その可愛らしい顔は横断歩道を隔てた
角の陰に隠れている臣にまで良く見えて、余計に心を乱れさせた。

店主に求める花を何種類か言うと、少ししてから大きな花束が出来あがる。
遠目に見ても判る その華やかな大きなかたまりをにっこりと
本当に幸せそうに受け取る 啓太の笑顔がずきりと臣の心に突き刺さる。

今日は何か二人にとって特別な日なのだろうか?

こうして、妻の目を盗んで二人して、何度もあっていたのだろうか。

真面目な啓太の事だ、いつか きっと隠し通せなくなって
自分に白状するんだろう。

その時に捨てられてしまうのは、今まで甘えてばかりで啓太の事を
いつも困らせていた自分に違いなかった。

そう思うと腹の奥底がどんどんと重くなって 嘔吐感さえ覚えるのだ。

もう限界だ。

啓太が自分以外を見つめて優しくほほ笑むのを
臣はこれ以上は見ていられなかった。

心がバラバラに壊れてしまう前に
この場所を 早く、早く、立ち去ってしまいたかった。

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